2004参院選
 
有権者の思い <凪の行方 04参院選:下>

 「幻の候補者」

 3年前の参院選でそう呼ばれた人物がいる。経済産業省の官僚、住田孝之さん(41)だ。

 「あの時は自分みたいな人を必要とする新しい風があった。だから立候補を考えた」

 東京・霞が関の喫茶店で、住田さんはそう振り返る。

 01年4月下旬まで続いた森内閣。実習船えひめ丸沈没事故での対応のまずさなどで、国民の政治不信は高まっていた。同年5月、自民党の岩崎純三・元参院議員の義理の息子で、若手の住田さんに対して、宇都宮市のグループなどから立候補を働きかける動きがあった。無所属での活動を望んだ住田さんは結局、義父の立場も考慮して、立候補を見送った。

 住田さんは今も、メールマガジンや有志との勉強会を通じて自分の政策や考えを語り続ける。ただ今回は気持ちが動かなかった。

 「足利銀行国有化の影響だろうか、有権者に政治の変化よりも『まず自分の明日が一番大切』というムードが広がっている。大きな変化が必要とされていない気がする」

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 年金問題や自衛隊のイラク派遣、司法制度の改革など国政の課題が山積する中、有権者は政治への関心まで失っているのだろうか。

 「どうせ、人が集まらないよ」

 宇都宮市の外科医、五味渕昭夫さん(73)は仲間と相談し、今回の参院選では公開討論会を企画しないことを決めた。

 03年の衆院選や99年の同市長選で公開討論会を開いてきた。しかし今回は「有権者の選挙への関心が低い」と、見送ることにしたという。

 「でも有権者が今の政治を認めているわけではないはずだ」。五味渕さんの思いは変わらない。「自分は年金法の問題で納得できない点が多い。必ず投票に行くつもりだ」

 栃木選挙区の構図にも、もどかしさを感じる。「栃木の2議席を独占しようという政党がないんだ」。昨秋の衆院選では2大政党制の流れが見えた。ところが今回の参院選で、改選数2に対し、自民、民主、共産の3党は各1人の擁立を進める。2党は当選する形だ。「政党が有権者に選択肢を提供する務めを放棄している」。五味渕さんは、有権者の関心の行き先に思いを巡らす。

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 「過大な期待はしていない。でも、投票の権利は使いたい」

 宇都宮市に住む男性行員(27)は、足利銀行に入行して5年目を迎える。

 昨年11月末の同行の経営破綻(はたん)直後、「もっと政治力を使えなかったのか。破綻は防げたかもしれないのに」という声が行内から上がったことを覚えている。

 政治家に頼る是非はともかく、男性行員は破綻を機に、県選出国会議員のテレビや新聞での発言に目を留めるようになったという。

 「りそな銀やUFJ銀などメガバンクへの国の対応を見ると思う。『やっぱりうちは政治的意味の強い破綻処理だったんだろう』と」。地方に身を置く自分が地方の再生をどう考えるか。男性行員は有権者としてそれを意識するようになった。

 同僚との会話で参院選の話は出ない。それでも、男性行員はこの半年を思い、投票所に行くつもりだ。

 「一票を投じれば、世の中への自己主張ができる気がするんですよ」

 再生が進む行内で、そんな思いでいる。

 (06/08)


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