2004参院選
 
地域医療 <明日へ 有権者の足元>

 5月のある日。栗山村に住む80歳代の女性は、自宅で入浴後に意識がもうろうとし、右半身が動かなくなった。

 連絡を受け、近くにある国民健康保険診療所の医師江原浩司さん(33)がかけつけた。「脳卒中の疑いがある」。そう判断した江原さんは、救急車を呼んだ。隣の藤原町から20分ほどかけて到着した救急車に運ばれ、女性は同町の珪肺(けいはい)労災病院に向かった。

 女性は幸い、一時的に脳の血管が詰まる症状と分かり、約1週間後に退院できた。

 江原さんは「くも膜下出血などで、急激に意識状態が悪くなることがある。検査や診断が受けられる医療機関に、できるだけ早く運ぶことが必要だ」と話す。

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 栗山村や藤原町を含む、県西健康福祉センター管内の脳卒中による死亡者は、02年で人口10万人あたり145.9人。栃木県は、秋田県などと並び全国ワースト5の高い死亡率で、その県平均よりも約13人多い。

 そのうえ、県西や県北地区では高度な医療を受けられる病院が少ない。専門的医療を受けるには県内でも地域間格差が広がっている。

 県は、脳卒中の治療やリハビリに対応できる態勢を備えた「専門医療機関」を19カ所選定した。7月1日からは、重症患者はこの19病院に運ぶ体制づくりをすすめる。

 「専門医が常勤している」など県の基準にあう病院は、日光・今市地域にはゼロだった。栗山村の場合、最も近いのは宇都宮市や鹿沼市内の病院になる。県医事厚生課は「離島を抱える他県に比べれば、搬送態勢でカバーできる範囲ではないか」と言う。

 同村も道路事情が良くなり、救急車は最も遠い地区でも約1時間で着く。県の消防防災ヘリが出動できれば、村内からわずか15分ほどで宇都宮市内の病院などに運べるようにもなった。

 しかしヘリの飛べない夜間や冬期間には、不安が残る。同町消防本部救急係長の和気恒夫さん(52)は、「脳疾患と心臓疾患は専門医も少なく、受け入れ病院探しは時間との戦い」と言う。

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 八溝山系が目前に迫る、黒羽町須佐木の藤田和恵さんも、医療過疎を肌身で感じている。

 幸い町には小児科の専門医がおり、娘が喘息(ぜんそく)の発作を起こした時などには、駆けつけてくれた。だが、救急の搬送先である大田原市の大田原赤十字病院まで約20キロ。特に夜間は近隣の町村からも多くの患者が集まり、込み合うという。

 親類や近所からも、脳卒中に発症した人の話をよく耳にする。「お年寄りが増えていくと、病院に行くことも大変になる。身近に病院ができればいいけど、先生もここで暮らすとなると、考えちゃうでしょうね」

 医療過疎への不安が高まる中、厚生労働省は3月、藤原町の珪肺労災病院を2年後に廃止することを正式に決めた。病院の今後について今月22日、運営する労働者健康福祉機構と県、地元の3者による協議が開かれた。だが、具体的な譲渡先の条件は示されず、受け皿はまだ決まっていない。

 上都賀郡市医師会の山崎博通会長は存続の必要性をこう語る。

 「拠点となる病院は住民の安心だけでなく、観光地を抱える地域の『再生』も支えている。足利銀行の破綻(はたん)と同じように、県民にとって大きな課題になるはずだ」

 (06/27)


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