2004参院選
 
イラクと沖縄と <政治の季節のあとに(1)>

 イラクで武装グループから解放され、テレビに大きく映し出される今井紀明さんの姿を見て、所沢市の中学校教諭、市川治彦さん(51)は頼もしく思った。

 高校を卒業したばかりの今井さんは在学中からイラクの劣化ウラン弾の問題を調べ、市民団体の代表を務めていた。

 今井さんの思想的背景はよく知らない。その行動には様々な批判もあった。それでも、市川さんは感じた。

 「今どき、こんな若者がいたのか。おれたちのころより、よほどしっかりしている」

    ■  □  ■

 市川さんは35年前、川高(かわたか)の通称で知られる県立川越高校の2年生だった。

 1969年。日本中が学生運動と70年安保闘争に揺れていた。東大紛争で安田講堂攻防戦があり、東大入試が中止された。川高周辺でも日々、デモがあった。

 市川さんは、川高の校則にあたる「生徒心得」を見直し、生徒たちの手で新しい「生徒憲章」と「生徒規約」を作ろうとしていた。約20人の生徒有志が「生徒心得検討委員会」を立ち上げ、その中心メンバーとして、文言を練り、会議を重ねた。

  第1条 あらゆる自主的民主的活動(集会への参加、その開催、サークルの結成、その他)の自由を保障する

  第2条 掲示、印刷物の発行、配布等のあらゆる表現の自由を保障する

  第3条 服装については個人の自由意志に任せる

 川越市内のほかの高校生と一緒に学外サークルを作った。米軍基地に苦しむ返還前の沖縄の姿を描いた映画「沖縄」の自主上映を企画し、市民会館をいっぱいにした。

 サークルには女子高生もいたし、仲間と集まるのは楽しかった。

 「あのころ政治は身近だった。政治にかかわったのは、ごく自然なことだ」

 当時から「高校生が政治なんて」と眉をひそめる向きはあった。市川さんも「あんな活動をしなければ東大にも行けたのに」と陰口をたたかれた。

 若者が政治に無関心になり、投票に行かないと言われるいま、思う。

 若者が政治に関心を失ったというより、社会が意図的に若者を政治から遠ざけたのではないか。

    ■  □  ■

 横浜にある大学で自治会活動に明け暮れていたころ、アルバイトがきっかけで、市川さんは中学校のテニス部顧問を任された。子どもと触れ合う楽しさを知り、教師を志した。

 教職員組合にかかわり、選挙では組合が推薦する候補に投票してきた。高校時代のサークルで世話になり、共産党から立候補した元教師の選挙を応援したこともある。

 今回の参院選でこだわるのは、憲法と、イラクでの自衛隊の多国籍軍参加の問題だ。

 9条の考え方を生かす方が、日本への世界の評価は高まり、軍隊や米国に頼るより平和をもたらすのではないか。多国籍軍参加を決めた小泉首相の判断は危険で、民主党もイラク問題では自民党と何が違うかわからない。

 衆院も参院も、選挙制度が複雑過ぎる。1票の格差は大きいままだ。こんな仕組みが、政治への無関心をさらに募らせている気がしてならない。

 最近、同期が次々と教頭になった。それでも、市川さんは管理職試験を受けない。生徒たちと共に時間を過ごしたいと思う。

 時間が許すならば、本当は子どもたちにもっと政治に親しむ機会を与えたい。

    ◇

 69年。〈政治の季節〉と呼ばれた。

 川越高校で、あの時代を共にした若者たちが卒業し、30余年。どんな思いで日本の政治を見つめてきたのか。参院選を前に訪ねた。

 (06/29)


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