
パネル討論
「SDGsで社会を変え、地球を守る」
田渕 正朗 住友商事株式会社 代表取締役 専務執行役員
「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」の精神

住友商事は総合商社として、66カ国130拠点において連結対象で950社、7万人の社員を擁しています。産業分野は、金属、輸送機、インフラストラクチャー、メディア、生活関連、資源エネルギーなど多岐にわたっています。また、販売に留まらず、ファイナンス、物流、鉱山経営、製造など、多様なビジネスモデルをグローバルに展開しています。
こうした多様な現場において、すでに7万人の社員が何らかの形でSDGs、社会課題に向き合って仕事をしています。ですからSDGsは、住友商事にとって新しい概念なのかというと全くそうではありません。
住友商事では、400年にわたる住友の事業精神を代表する「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」という言葉を大切にしています。これは「住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、社会を利するほどの事業でなければならない」というもので、住友商事グループの目指すべき企業像に通じるものです。そして、世界中の950の連結会社すべてが、この考え方に基づいて事業を行っています。
こうした考えを具体的にするため、住友商事では、6つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。これは、将来にわたって、社会とともに持続的に成長するために、住友の事業精神、住友商事グループの経営理念を踏まえ、事業活動を通じて、自らの強みを生かし優先的に取り組むべき課題です。
複合的かつ統合的に暮らしの基盤や国づくりに貢献したい

住友商事は、新興国においても様々な事業を展開しています。例えばミャンマーでは、KDDIさんと一緒に、携帯電話の通信事業を行っています。2012年末には携帯電話の普及率が約10%だったのですが、今では100%を超えています。このようにミャンマーの人たちの生活を変え、人と人、人と情報をつなげてきました。SDGsの目標8に「働きがいも経済成長も」とありますが、働きがいが増すことで、経済活動がより活発になり、例えば携帯事業の先にはデータ通信というように、次々と繋がっていきます。その結果、目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献することができます。SDGsの特徴であるように、取り組む課題が複合的に繋がり、統合されていくことで、弊社は暮らしの基盤づくりをしながら国づくりにも貢献することができます。
また日本国内でも鹿児島県の薩摩川内市に、甑島という島があります。こうした離島では安定した電力の確保が非常に重要です。そこで、廃校となった小学校の運動場にソーラーパネルを設置して太陽光発電をしています。ソーラーパネルは(天候により発電量が)不安定なのでそのまま送電用グリッドに繋ぐことはできないのです。我々はその横に蓄電池をたくさん設置し、蓄電したうえでグリッドに繋ぐことで、安定した電力を供給できるようにしました。この蓄電池には電気自動車の使用済みリチウムイオン電池を、廃棄せず2次利用しています。
これはまだ実証実験ですが、世界中を見ると離島がたくさんあるため、世界に展開できるのではと期待しています。企業活動としても非常に夢のある一方で地域のためにもなっているということで、ビジネスと、SDGsへ向かう社会課題の解決を両立した一つの好例だと思います。
価値基準が変化する中でも社会に役立つ価値を提供したい
今後もテクノロジーはものすごい勢いで進化し、1つ1つのモノやサービスを提供するための追加的なコスト(=限界費用)は下がっていきます。例えば世界中にドローンが飛ぶようになれば、輸送や移動の限界費用は限りなく下がるでしょう。情報を得るコストもほぼ0になるでしょう。蓄電池や太陽光発電のコストなどがどんどん下がっていくと、エネルギーのコストも限界費用0といった時代が来るでしょう。そんな時代が来た時の本当の価値とは何でしょうか。
例えば、今の1000億円の価値と10年、20年先の1000億円の価値が同じではないでしょう。将来自分たちがどんな社会的価値や環境的な価値を見出すか、きちんと描いていかなければならないと思います。我々としては企業の価値を決める社会の価値基準が変わっていく中にあって、社会に役立つ価値を提供し続ける。そういう企業体でありたいと思っています。

田渕 正朗
住友商事株式会社 代表取締役 専務執行役員
1957年生まれ。京都大学経済学部卒業後、80年住友商事に入社。輸送機プロジェクト部長、自動車事業第一本部長、船舶・航空宇宙・車輌事業本部長などを経て、2015年よりコーポレート部門企画担当役員。住友商事グループのマテリアリティ(重要課題)の特定と推進における担当役員を務めている。