受験生は目の前の合否ばかりに目が向きがちだが、学校が入試を通して見たいのは、
その子が入学後にどれだけ伸びる力を持っているか。
それぞれの学校の特色を知り、子どもの個性に合う環境を選ぶことは、
学習と同じぐらい重要な「受験対策」なのかももしれない。
聖光学院、豊島岡女子学園、早稲田実業。人気の高い3校で、
時代のなかで変わる学びの形と、変わらない教育の本質について聞いた。
聖光学院中学校・高等学校
工藤誠一先生
[校 長]
カトリックの精神を基盤に、キリストの教えである愛と奉仕の心を大切にする聖光学院は、生徒たちに対して「紳士たれ」というモットーを伝えています。ここでいう紳士とは、他者、特に弱い人たちに慈しみをもって寄り添うことのできる人です。AIの時代になっても世の中にぬくもりを伝えることが私たちの使命であり、今後もこの理念が揺らぐことは決してありません。
ただし、これからの時代を生きる子どもたちを育てる学校としては、「我々のやり方は正しいのだから何も変えなくていい」というわけにはいかないとも思っています。たとえば本校では生徒全員にノートPCを持たせ、校舎内はどこでもWiFiが使えるようになっています。教室以外の場所で集中してオンライン英会話に取り組んでもいいし、ちょっとした空き時間に「探究」授業のための資料を探してもいい。また授業では電子黒板とプロジェクターを使用していますが、手書きとデジタル両方の良さを生かすことで、授業効率は大いに上がりました。
テクノロジーは進化を続け、社会はどんどん変わっています。生徒たちが大人になる頃にはさらに変わっているでしょう。私たち教育者はアンテナを高く上げ、時代の中でしなやかに対応できる柔軟性を常に持つべきだと思っています。
私たちの大切な教育方針のひとつが、生徒を学校に縛りつけないということです。海外も含め、生徒が参加したいというセミナーやコンテストなどがあれば、できる限り希望に沿うよう協力します。もちろん校内でも質の高い教育をしている自負はありますが、世の中は学校よりはるかに広く、変化も速い。教室では決して体験できない多様な刺激に出会う機会を、生徒たちにはできる限り多く与えたいと思っています。
中1から高2までの生徒が参加する「聖光塾」は、一人ひとりが自分の興味に合わせて受講できる選択講座で、教職員が本職を離れて趣味の講座を開講したり、学外の専門家を招いてプロの技術を学んだりしています。また中2の生徒が対象の選択芸術講座も、講師を務めるのはプロの音楽家や美術家です。こうした体験を通して、生徒たちに「学び」というのは学校の中だけで完結するものではないこと、まして大学受験に必要な5教科だけではないことを実感して欲しいと思います。
本校は男子校ですが、最近は女子校と共同で取り組む課外活動も増えてきました。こうしたことも、生徒たちに多様性について学ばせる教育の一貫です。
AIとビッグデータの時代になり、間もなく文系の仕事は世の中からすべてなくなるというような極端な意見もあります。しかしデータとデータをつなぎ合わせる統合力や、人をまとめる調整力は今後ますます求められるでしょう。つまり、人間は機械にもできることではなく、人間にしかできない仕事をしなければならないということです。
聖光学院は、2017年度から文科省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されました。生徒たちは文系・理系にかかわらず、「探究」という授業の中で自分なりの研究テーマを見つけ、調査や実験手法を組み立て、得られた知見をまとめて発表するという一連のプロセスを経験します。それにより磨かれるのは、コミュニケーション能力です。
私はコミュニケーションこそ、機械に置き換えることのできない人間の最も人間らしい活動だと思います。家庭においては、幼少期から子どもを全身で受け入れ、たっぷりの愛情を注いであげてください。あるがままの自分を受け入れられたという原体験が子どもの自尊感情を育て、他者を同じように尊重する気持ちを育みます。将来世界で活躍できる人にと願うなら、まずはそこからだと思います。(談)