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中学受験 SAPIX 小学部

SPECIAL TALK 教育対談

「知」はどこへ向かうのかAIネイティブの時代の子育て

新井紀子教授

国立情報学研究所
情報社会相関系 教授

髙宮敏郎

SAPIX YOZEMI GROUP
共同代表
教育学博士
文章の「意味」を人と同じように理解できないAI(人工知能)には、
現時点で東大に入る力はない。
しかし多くの子どもたちも同様に、意味を理解できていないのではないか──。
そんな著書が話題の新井紀子教授とSAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表が、
AIに囲まれて育つ子どもたちに必要な学びについて語り合った。

与えられた選択肢から
選ぶだけの子どもたち

新井 最近私は、この先「AIネイティブ」の問題が大きな注目を集めるようになると思っています。「デジタルネイティブ」よりもさらに下の世代、生まれた時から身のまわりのすべてがAIでコントロールされた中で生きる子どもたちが、どう育っていくのか。
髙宮 今の中高生以上は「デジタルネイティブ」と呼んでいいと思いますが、その下の子どもたちには、また違う難しさがあるということですか。
新井 たとえばネットで動画を見ると、これも好きなはずだとAIが関連動画を教えてくれる。買い物をすると、一緒に売れているのはこの商品ですと薦めてくれる。自力で何かを探す必要がなく、レコメンド(推薦)された中から選択するだけの人生で、人としての基盤的知性を持ちうるのか。そのことをとても心配しています。
髙宮 みんながそれを繰り返していけば、消費も生産も最大公約数的なところに集中していきますよね。つまりAIは人間を、あるいは社会全体をひとつの方向に寄せていこうとする。
新井 そうするのが一番コスト効率が良いので、短期最適化すれば必ずそうなります。しかし多様性をなくした社会は活力を失い、長期的に見れば生産性も低下していく。そうさせないためには、いかにAIが囲い込もうとする枠の外に出るか、いかに抗(あらが)うかが重要なんです。
髙宮 新井先生がおっしゃると重みがあります。たしかにそんな世の中ではクリエイティビティー(創造性)は育たないし、そもそも誰もクリエイティビティーを必要としない。後味の悪いSF小説のような未来ですね。
新井 髙宮さんにもご協力いただいた「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトでは、AIの可能性と同時に限界も見えてきました。計算やデータの蓄積・解析といった部分ではAIが人間をはるかに上回るのは当然ですが、それは決して人間の知性の代替にはならないし、まして上回ることもないというのが、現時点での結論です。
髙宮 我々教育サービスの立場で言えば、もしもAIに先生が務まるなら人件費はかからないし、休みもいらないので効率はいい。しかし、子どもがつまずいていれば乗り越えるためのヒントを与えたり、意欲が下がっていれば励まして前を向かせたりという教師の仕事が、機械に置き換え可能だとはどうしても思えません。
新井 私は、教育コストをいかに抑えるかという議論は、国を滅ぼす発想だと思います。子どもを育てることを機械に任せていると、その社会はいずれ大きな代償を払うことになるはずです。

不安は抱えたままでいい

写真:新井紀子
写真:髙宮敏郎

リアルの中に学びがある

教室での集団授業で
リアルと向き合う

髙宮 子どもたちが、先生の言う「AIの囲いの外に出る」ためには何が必要ですか。
新井 ひとつにはリアルを知っておくということです。先日、1歩進んではしゃがんで石を拾い、2歩進んでは立ち止まって葉っぱを眺めている1歳ぐらいの女の子に、根気よく付き合って歩いているお母さんを見かけました。もちろんバギーに乗せてサッと通り過ぎたほうが大人は楽ですが、そうした体験が欠落したまま大きくなる子とその女の子では、育ち方にゆくゆく大きな差が出るだろうと思います。
髙宮 リアルというのは面倒なものだけれど、その遠回りの中に豊かな学びがあるということですね。
新井 そうです。歴史学の阿部謹也先生が、かつて学生たちの知的レベルが下がったと感じたのは、大学生協にコピー機が普及した頃だとおっしゃっていました。自分は研究のためヨーロッパに出かけ、まるで写経のように古文書を丁寧に書写したことがある。多くの人は写経など知的作業ではないと思っているがそれは違う、今の自分があるのはそうした体験のおかげだ、と。
髙宮 手を動かして書くことで内容が頭の中で整理され、理解を深めることに役立つのかもしれないですね。私たちSAPIXにも、タブレットなどの電子教材を使ってほしいという保護者の要望がないわけではないですが、愚直に黒板授業を続けていて良かったと思いました。もうひとつ、私たちが大切にしているのが集団授業です。個別指導にももちろんメリットはありますが、多様な個性が集まる教室の中では、仲間の発言を聞いて意外な物の見方に気付いたり、自分の意見がなかなか理解してもらえないもどかしさを感じたりすることがあります。これも新井先生のおっしゃるリアルを知ることになりますか。
新井 そうですね、私も集団授業に賛成です。算数の苦手な子が発した素朴な疑問を聞いて、他の子がそういえば自分もそこは理解していなかったと気付くこともあります。ひとりで勉強しているだけでは、そうした発見はできませんから。
髙宮 グローバル化の時代で学校教育も入試も変わっていく、将来はこんな力を身につけなければ生き残れない、といった情報ばかりが耳に入ってくる。子どもたちも保護者も不安なので、「これだけやればいい」といったわかりやすい言葉をほしがっているのが現在だと思います。しかしそんなシンプルな解など存在しないのでしょうね。
新井 不安があるならどうするか。私は、そのまま抱えているのがいいと思います。現実社会の問題を見ても、すぐには答えが出ない、誰もが納得する答えなどそもそも存在しないことばかりです。抱え続けた不安や問題意識があってこそ、それに対処できる力を身につけた時に、点と点がつながるように解決の道筋が見えてくるのだと思います。
髙宮 そうした抱え続ける力のことを「知的タフネス」というのでしょう。たしかに近年は、子どもたちのその力が弱くなってきたように感じます。新井先生がさまざまな研究や活動を通してアプローチしておられる社会の課題に、私たちは子どもの教育を通して貢献していきたいという思いがあります。今後もぜひ、いろんなお話を聞かせてください。本日はありがとうございました。

あらい・のりこ/一橋大学法学部、米イリノイ大学卒業。同大学院数学科博士課程を経て東京工業大学より博士(理学)を取得。2011年から「ロボットは東大に入れるか」、16年から「リーディングスキルテスト」のプロジェクトを率いる。 たかみや・としろう/1997年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、2000年学校法人高宮学園に。米ペンシルベニア大学で大学経営学を学び、教育学博士号を取得。09年から副理事長。現在、SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する株式会社日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。
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