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中学受験 SAPIX 小学部

時代を担う人材を育てる中等教育最前線

SPECIAL TALK 教育対談

「知」はどこへ向かうのか「教科書が読めない」
子どもたちの未来

髙宮敏郎

SAPIX YOZEMI GROUP
共同代表 教育学博士

新井紀子教授

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授
教育のための科学研究所 所長・代表理事
いま、子どもたちの読解力が危ない。AI研究者の新井紀子教授が『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』で鳴らした警鐘は、各方面に大きな衝撃を与えた。
ともに取り組んだ「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの経験を踏まえ、
新井教授と SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表が子どもたちの未来を語り合う。

今の子どもたちと
AIの共通点とは

髙宮 新井先生がリーダーを務めた「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトへの協力を通じて、私たちはAI(人工知能)の可能性と同時に限界も見てきたと思っています。東ロボ(プロジェクトに使用したAI)はすでに私立上位校なら合格を狙えるレベルにありますが、目標の東大にはまだ遠く及びません。なぜかといえばAIは文章を読んで「意味」を理解することができないからで、そこが人間と機械の差だ。そう私たちは思っていましたが、実は今の子どもたちの多くも文章を読めていないらしい。そのことを論じた新井先生の著書は、昨年大きな話題となりました。
新井 そうですね。たとえば「AならばBである」というような例文があり、このとき「BならばA」はいつも正しいですか、という問いに対して、少なからぬ中学生が「はい」と答える。因果関係がよくわかっていないようです。こうした現実と向き合うために、私たちの研究チームでは「読む力」を科学的に測るリーディングスキルテスト(RST)を開発しました。表現の違う二つの文章が同じ意味かを判定する「同義文判定」、文章で示された通りの図表などを選ぶ「イメージ同定」など6分野で構成される試験で、これまでのべ14万人以上に受験していただいています。
髙宮 RSTが回を重ね多くの人が受験したことで、何か新たにわかってきたことはありますか。
新井 ひとつには、読解力は学年が上がれば自然に上がるものではないということ。高校生になると、RSTで測る読解能力値が上がっていきません。中学生では学校内の分散が大きく、読解能力値の高い順に偏差値の高い高校に入学しています。
髙宮 つまり、高校受験を経ても子どもたちの読解力は上がっていなかったということですか。
新井 はい。中学3年生と高校1年生の平均読解能力値に有意な差は見られませんでした。アンケートで答えた、家庭での学習時間と読解能力値も相関がありませんでした。けれども、正確に読める子ほど高い偏差値の高校に入学できているようです。
髙宮 読解力と受験の成績がそれほど強く関連しているのはなぜだと思いますか。
新井 これは私の仮説ですが、ベースとなる読解力の高い子と低い子では、本気を出して勉強した時に一気に差が出るのではないでしょうか。部活や学校行事が一段落していざ受験モードに入った時に、「飛べる」距離が全く違う気がします。

「意味」を理解できるのが人間

写真:髙宮敏郎
写真:新井紀子

読解力があれば「飛べる」

それは「意欲」か
「能力」の問題か

髙宮 考えてみれば、数学においても与えられた条件を整理し要求された形式に沿って答える、といった作業には問題文を正しく読み解く力が不可欠です。あるいは何年に何という世界史上の事件が起こった、という平板な文字の羅列として暗記するのか、それがなぜ起こり、影響がどう波及したかといったことまで読み取れるかでは応用力に大きな差が出ます。つまり勉強してもなかなか成績が上がらない子がいた場合、問題は読解力にあるのかもしれない。
新井 そうですね。RSTが測るのは、文学を味わって読むような読解力ではなく、書かれた事実を事実のまま受け取る力です。そんなものは読解力じゃない、それができたから何の役に立つのかという批判もありますが、たとえば「同義文判定」の力は子どもがテストの自己採点をできるかどうかに関わります。
髙宮 2020年度に始まる「大学入学共通テスト」では、国語と数学に記述式問題が導入される予定です。これまでに実施された試行調査では、生徒の自己採点と大学入試センターの評価が一致しない例が約3割あり、「3割もズレる問題で大丈夫か」という制度への批判が主に論じられてきました。しかし私たちが本当に心配すべきは、3割の生徒が自己採点をできなかったということのほうかもしれません。
新井 「使っている単語が同じだから大体合ってるだろう」と自己流で解釈する子と、自分の理解に誤りがあればすぐに修正できる子では、いずれ大きな差がつくことは容易に想像できますよね。
髙宮 おそらくそれとも関連すると思うのですが、先生は以前、授業で板書された内容をノートに書き写す際に「目が泳ぐ」生徒がいると話しておられましたね。
新井 そうなんです。文章を「意味」で捉えている子はある程度のまとまりで書き写すことができますが、意味がわかっていなければ一文字ずつ記号のように書き写すので、どこを見ていたかわからなくなって目が泳ぐ。少し注意して観察していればすぐにわかります。
髙宮 先日お会いしたある医学部の先生は、自分の授業では今も必ず人体の組織図を黒板に板書しているとおっしゃっていました。写真を見せたほうが楽ですが、それでは学生が細部に 注意を向けないからだと。手を動かし自分の脳というフィルターを通すことで、より理解が深まるのかもしれませんね。
新井 私も手書きに賛成です。目で見て正しく書き写したり、見聞きした内容を修飾など加えずそのまま文章にしたりというのは、実はとてもクリエイティブな作業です。ぜひ子どもたちからその機会を奪わないでほしいと思います。
髙宮 「◯字以内で」という解答の条件があるのにそれを無視する。問題文のなかに答えがあるのに抜き出せない。そんな子に対して私たちは、ちゃんと読んでいないからだといった「意欲」の問題と考えがちではないでしょうか。しかし本当は、読んでも理解できないという「能力」の問題だったのかもしれない。そして能力に起因することなら、私たちのような教育サービスの力で変えられることがあるかもしれません。今後も先生とはいろいろな対話をさせていただければと思います。どうもありがとうございました。

たかみや・としろう/1997年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、2000年学校法人高宮学園に。米ペンシルベニア大学で大学経営学を学び、教育学博士号を取得。09年から副理事長。現在、SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する株式会社日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。 あらい・のりこ/一橋大学法学部、米イリノイ大学卒業。同大学院数学科博士課程を経て東京工業大学より博士(理学)を取得。2011年から「ロボットは東大に入れるか」、16年から「リーディングスキルテスト」のプロジェクトを率いる。近著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』は日本エッセイスト・クラブ賞、石橋湛山賞、山本七平賞、大川出版賞、エイボン女性年度賞教育賞、ビジネス書大賞などを受賞
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