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MADE IN NIPPON 長野県飯田市・時計 「ファクトリー探訪」動画公開中

世界最高峰の技術と日本を代表する匠の技が融合。
新境地を開拓する「ザ・シチズン」の現在 光発電でムーブメントを駆動するエコドライブは、日本が世界に誇る技術である。
その腕時計は、長野にある工房で働く匠の技によって生み出されている。 Photograph:Takashi Nishizawa(flat)  Text:Takashi Tsuchida by AERA STYLE MAGAZINE

ザ・シチズン  エコ・ドライブ

光の入射角度により文字盤のストライプが際立つデザイン。見返しリングを採用したフェイスにより、現代的な印象を強めた。年差±5秒の高精度エコ・ドライブ。パーペチュアルカレンダー。0時ジャストカレンダー更新機能。ステンレススチールケース(径37mm)&ブレスレット。10気圧防水。26万2500円。

光発電駆動ムーブメントで初めて年差±5秒という高精度を実現したのが、今春登場した「ザ・シチズン エコ・ドライブ」だ。水晶発振精度に関わる温度変化や、二次電池特有の電圧変化の影響を抑制するなど、シチズンが得意とするエレクトロニクス技術に加えて、 本ページ後半でレポートしている匠の技も生きる。同社の技術と技能が高次元で融合したこのエポックモデルが、絶賛の声で迎えられたことは記憶に新しい。

さて、このモデルが今秋、さらなる進化を遂げる。文字盤外周にミニッツインデックスを新設することで、身に着けた際の時計の存在感を高め、同時に視認性も向上させているのだ。ケースをサイズアップせずにこれらを実現する手腕は、時計の本質を問う「ザ・シチズン」ならでは。デュアル球面の風防や、5連のブレスレットなど、ムーブメント以外のほぼすべてを更新し、ファーストモデルとは異なる個性を表現する。

また、自社開発の自動巻きムーブメントを搭載した「ザ・シチズン オートマティック」(写真下3モデル)もデザインを一新。スタンダードなフォルムはそのままに、普遍のスタイルを追求している。

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ザ・シチズン  オートマティッ ク

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清潔感のある白文字盤は、ビジネスにもカジュアルにも合わせやすい。自動巻きムーブメント。ステンレススチールケース(径37mm)&ブレスレット。10気圧防水。
31万5000円
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精悍な印象を放つ黒文字盤は、幅広い世代からの支持を得ている。自動巻きムーブメント。ステンレススチールケース(径37mm)&ブレスレット。10気圧防水。
31万5000円
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オールドシルバーの文字盤により、機械式時計にふさわしい温もりを演出。自動巻きムーブメント。ステンレススチールケース(径37mm)&ブレスレット。10気圧防水。
31万5000円

MADE IN NIPPON 長野県飯田市・時計 Photograph:Takahashi Igarashi(520)  Text:Takashi Tsuchida

山々に囲まれた南信州の盆地、飯田に「シチズン平和時計」のファクトリーを訪ねた。技術者が丁寧にムーブメントを組み立てる姿こそが、MADE IN NIPPONの証明。現代の名工にも選ばれたスーパーマイスターが針を付ける瞬間をレポートする。

「ファクトリー探訪」動画公開中

エレクトロニクス技術の革新を匠の技により完成させる、年差±5秒を生み出したマニュファクチュール。

朝日が中央アルプスをほんのり染めるころ、飯田の街は今日も深い霧に包まれていた。三〇〇〇メートル級の山々に囲まれている盆地を、アルプスの山肌を伝う冷たい水を集めた天竜川が縦断する。暖かい空気と冷たい水が触れ合い、飯田を霧の街にするのだ。南信地方は比較的温暖な気候だが、昼夜の寒暖差は激しい。また一年を通じて降雨量が少なく、日中は空気が乾燥する。この独特の気候風土が果実味を豊かにするという。街の中心部から5分もクルマを走らせれば、木々には林檎、梨、柿といった果実がたわわに実っている。

江戸時代には五万石の城下町として栄えた飯田は、かつて養蚕業が盛んだった。繊維産業が活況を呈した明治時代には桑畑が広がり、日本一の収繭量を誇ったという。駅前のシルクホテルは、その名残を名称にとどめたものだ。

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絹織物産業が陰りを見せたころ、街は工業誘致へと乗り出した。澄んだ空気と豊富な天然水は、精密工業に適したからだ。昭和20年、東京淀橋区のシチズン時計(当時は大日本時計)が、伊那の軍事工場に近いこともあり、飯田に疎開。終戦を迎え、引き揚げが決まるなかで、地元の時計産業存続のため、有志が奔走。数十名の職人を中心に、飯田出張所として新たなスタートを切るのである。これがシチズングループの製造部門を担う、シチズン平和時計株式会社の礎だ。社名に「平和」の文字が付くのは、農村に精密機械工業を導入することで、敗戦後の生活レベルを向上させ、平和で豊かな「東洋のスイス」を作ろうとする思想家、賀川豊彦の精神を敬仰(けいぎょう)したものである。それから60年余り、飯田に時計産業はしっかりと根を下ろした。

同社では製品設計から製造組立、アフターサービスにも対応。一貫生産を重んじ、人材育成にも力を注ぐ。手作業による組み立てには150人以上の技能者が集結。主要モデルに搭載されるクオーツ、オートマティック、エコ・ドライブのムーブメント組み立てから、完成品までの工程が行われている。

シチズン平和時計本社工場の4階に、社内技能認定でただひとりスーパーマイスターの称号を持ち、厚生労働大臣から『現代の名工』と表彰された橋場悦子さんがいる。日本を代表するこの時計職人こそが『ザ・シチズン エコ・ドライブ』を組み立てる人物だ。

防塵(ぼうじん)用のエアシャワーを備えた入り口から30メートルほど、いちばん奥のスペースに、橋場さんをはじめとするマイスターたちの専用作業机がある。フロアには百五十余名の技能者が作業をしているのに、聞こえてくるのは機械の動作音のみ。この静寂から、品質の高さを追求する物作りの現場であることが伝わってくる。

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『ザ・シチズン エコ・ドライブ』とは、シチズンが今春発売した新作である。同社が長年手がけてきたソーラー発電駆動の精度を年差±5秒へと高めたハイスペックモデル。ゆえに、さぞかし歯車の組み込みも難易度を極めると思いきや、スーパーマイスターが息を殺す瞬間とは、ムーブメント内部の完成後、針を装着する最終工程なのだという。橋場さんは言う。

「針は一度セッティングしたら外すことができません。失敗は許されない、一回だけの勝負です」

見ているこちらの手が震えてくるような緻密な作業。にもかかわらず、その動きに迷いはなく、職人かくあるべしと思わせる。

開発は、設計室長の今村和也氏が当たった。新製品の主眼は、エコ・ドライブで年差±5秒という破格の精度向上にあるが、さらなる利便性を模索するなかで爛献礇好肇レンダー更新瓩箸いΕ董璽泙鯣案する。このアイデアを実現させるために、針付けが高度なものになったというのだ。

『ザ・シチズン』シリーズでは、機械式時計と同様の操作感を実現してきた。すなわち、時刻合わせの際にリューズを回す分だけ、針を動かすことのできる直感的な操作方法だ。しかしこの方式を採用するモデルは、他社製品も含めて、必ずしもカレンダーが夜中0時ちょうどに変更されるとは限らなかった。1日8万6400秒ごとに1秒の狂いもなくカレンダーを動作させる高い精度の機構がなく、あるいは秒単位の精度で合わせ込む針の取り付け技能も想定されてこなかったからだ。

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そこで新ムーブメントでは、時針、分針、秒針すべての針位置を検出する機構を設けた。そのうえで、正しい針位置を内部メモリに記憶させているのだ。これにより、秒針が0秒を指したときに分針が12時の真上にいなくても、時計はその誤差を検知し、内部メモリと照合できる。したがって、ユーザーが時刻合わせした分針が、秒針との関係性においてズレていても、0時ジャストに日付を切り替えることが可能となった。

橋場さんが担う針付け作業とは、ムーブメントに針の正しい位置を記憶させるためのもの。針のセッティングこそが、ジャストカレンダー更新機能を決するのだ。どんな先端技術を搭載しようが、その実現を左右するのが、人間の目と手先の感覚だという点に、時計作りの奥深さを思い知らされる。しかも針の装着に失敗は許されない。ハードルの高さは、これまでとは段違いだった、と橋場さん。

今村さんは「すべては正確な告時機能を追求するため。間近でスーパーマイスターの技術をずっと見てきて、橋場さんなら必ずできると確信していた。だから、設計できた」と語った。

夜中の0時に起こる小さなドラマは、次世代のエコ・ドライブを任された若き設計者と卓越したマイスターがいて、初めて見ることができるのだ。

シチズン公式サイト
ザ・シチズン公式サイト
シチズン公式サイト

フォトギャラリー

  • ムーブメントの組み立てライン。このほかにも複数のラインが並行して動き、納期に合わせたワークフローが組まれている
  • 歯車や押さえピンなど、わずか数ミリの小さな部品を細心の注意を払って丁寧に摘み、それをムーブメントの上に載せていく。
  • 専用工具を用いて、ムーブメントのねじトルクを確認する作業。製品を掴む指にはフィンガーキャップを付け、指紋や油分などの付着を未然に防いでいる。
  • 微細な塵が付いていないかを顕微鏡で丁寧に確認しながら、バキューム管を用いてひとつひとつ吸い取っていく。
  • 複数のパーツを正しい位置に正確な順番で載せていく。手作業とはいえ、スピードも求められる。
  • ケーシング工程も、ここでは手作業で進む。製品に不具合がないか、ひとつひとつ丹念に調べていく。
  • 研磨された針の表面を傷つけないように右手のピンセットでそっと掴み、正しい角度で軸に載せた後、左手のヘラで、文字盤と平行になるように押さえる。スーパーマイスターのスムースな手捌きに迷いはない。
  • 橋場悦子さん 60歳。時計製造部 担当部長 スーパーマイスター 1967年入社。2005年に社内でひとり、スーパーマイスター認定を受け、ムーブメントの組み立てから完成品に至る全工程を担当する。
  • 今村和也さん 39歳。時計製造部 時計設計室室長 1995年入社。量産ムーブメントの生産技術業務を経て現職。次世代キャリバーと目された「ザ・シチズン エコ・ドライブ」の設計者。
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