圧倒的な自然を前に、未来の科学者は何を思ったか?
 長いようで短かったISEF2005もついに終わり、アリゾナで過ごす日もあと1日となった。こちらへ来てから朝から晩まで予定がつまったハードな日々を過ごしていたJSEC遠征団たちに、最後のごほうびがまっていた。それがアメリカ一の雄大な渓谷、グランドキャニオンでの観光だ。ファイナリストもリポーターも、この日は心おきなく遊ぶのみ。日本ではまず見ることのできない、スケールの大きな景観を満喫した。ひたすら無言で渓谷の美に浸っている者、相変わらず科学者の視点で地質や植物を観察している者、すっかり魔法の杖をもった仙人(?)になりきっている者、また突然、おたけびをあげだす者など……。古代からの贈り物ともいえる壮大な風景を前にして、いつしか誰もが自分をさらけ出していた。人間の営みなど小さなもののように思えるこの景観を前にして、若き科学者たちは何を思ったのか。自然科学は、この雄大で神秘的な地球、自然への驚き、感動、畏敬の念から生まれたことを、いつまでも忘れないでほしい。
 グランドキャニオンですっかり心も体もリフレッシュした後、JSEC遠征団を待っていたのは中華料理店での打ち上げをかねたフェアウェルパーティー。独創的な中華料理にカルチャーショックを受けながらも、久しぶりにみんなでゆっくりと食事を楽しんだ。「みんなとアリゾナにいられるのも今日が最後」──言葉にこそ出さないものの、参加者みんなの表情からそんな思いが読み取れる。最後に一人ひとりが、今回のISEFツアーについての感想を語りあう。口数は少なくとも、言葉のはしばしに、最高の思い出を一緒に共有できた仲間たちへの感謝の思いが感じられた。
 かくして、驚きと感動に満ちたISEF2005ツアーは終了した。そして彼らはそれぞれの道を歩み、それぞれの分野であらたな闘いを始めることになる。
 
 今日は ISEF日本代表メンバー最後のお楽しみイベントであるグランドキャニオン見学だ。昨日の夜ホテルに到着した後、ずっと起きていたので、頭の中がカーニバル状態だ。というのも、前野君と吉藤君と僕とのトリオで、「グランドキャニオンの日の出」を拝むために起きていたためだ(実際はMother Pointがあまりにも遠く、タクシーでも呼ばないと行けない状態だったので断念)。朝、夜が明けていない状態で外に出たときのみんなの第一声は「なんか寒い……。」だった。そう、昨日は疲れて気づかなかったが、グランドキャニオンがある場所はフェニックスと比べるとかなり寒い。グランドキャニオンは標高約2,300mに位置し、その位置は、日本における富士山の5合目に相当する。だからグランドキャニオンから約15分程度にあるホテルが寒いのは至極当然のことだ。夜間を含めた平均最低気温は約0℃、そして平均最高気温は約20℃ちょっと。約5日目、フェニックスの素晴らしい天然のGreen Houseの中で生活していた僕たちにとっては、いくらか標高が高いとはいえ、無茶苦茶な気候に思えた。そしてここに来て、しばらく見ていなかったなつかしき存在にも再会した。それは何の変哲もない「雲」だ。5月8日にアリゾナ州の地に足をつけて以来、空を見上げればそこには雲一つない完璧な青空が広がっていた。毎日、毎日。そんな中で出会った曇り空は、なんとなくだが、なつかしく、そして珍しく思えた。
 午前9時、グランドキャニオン出発。日が昇っていくにつれて気温も上昇していき、とても快適な感じになった。グランドキャニオンの眺めは、ものスゴイものだった。荒涼とした雰囲気を強調するような赤茶けた地層と、乾燥した大地だけがもつ独特の白黄色、そして複数種類の無機化合物が地球の変動による莫大な力で押し固められた地層の色、断裂によって現れた、ややテカリを持った地層、そして、高度・乾燥地域といった過酷な環境の中でしっかりと根をはって生きている植物や木々の緑色(日射しが強いためか日本の木々の葉よりも色が抜け、くすみ、ごくわずかに黄色がまじっている)と雲の白および空の青が、お互いに調和し合い、どんな画家にも描くことのできない1枚の風景を作り上げている。「風景画」のように表現したのは確かにそこには立体のグランドキャニオンが存在するのだけれど、自分の視界いっぱいに、大地が生み出した彫刻と地層の色が入って来るので、目が錯覚を起こして平面、つまり1枚の絵が崖の真ん前にあるかのように見えてしまう。崖の先から一歩踏み出せば、その平面の絵に触れて、パラレルワールドに行けそうな気さえ起こさせる。実際はそんなことは起きないのだけれど。ちなみにこれが、グランドキャニオン国立公園の最初のメーンスポットである「Mother Point」である。ガイドの方の話によると「Mother Point」の「Mother」とは初代国立公園長の名前だそうだ。名前が付いてしまうほどだから、きっと公園長はこの眺めがお気に入りだったに違いない。「Mother point」での景色を眺め、その気持ちがよくわかった。
 次に向かったのが「ヤバパイpoint」。JSEC日本代表団男子と言えば「ヤバパイ Point」といってもいいほど、なぜか「ヤバパイ」で一時大盛り上がりをした。危険度を表現する(?)単位として使ったり、日本のワビサビ(?)のように使ったり、なぜか大盛り上がりだった。みんな一体何を連想したのでしょう?「ヤバパイ Point」は「Mother Point」とはまた異なった雰囲気を持つ場所だった。「Mother Point」を1枚の絵画にたとえるなら、「ヤバパイ Point」は深さという立体的要素を存分に味わうことができる渓谷(そのまんまだ……)だ。もっとカッコヨク表現するなら自然が隆起によって生み出した未完成(=武骨)なスリバチといった感じかな……。つまり「Mother Point」と同じく、美しいミルフィーユのような地層の織り重なりとグラデーションを有しているものの、1枚の絵画のようには見えず、より現実的な雰囲気を有する渓谷として、見る人に主張しているように感じる。つまり「Mother Point=人工造形のような繊細さを自然が表現した場所」「ヤバパイ Point=大自然ならではのダイナミックな、隆起跡(?)」といった感じを僕は受けた。うーん、なかなか文章(言葉)で表現しがたい。一番のアドバイスは実際に自分の目でたしかめてみること(!!)だ……。見る人によって、きっと受ける印象とinspirationは違うはずだから、それが一番いい方法だと思った。たくさん写真をとったけど、やはり現地にいる臨場感は伝わらないし、やっぱり行くべし!(臨場感って一体何なんだろう?)
 その後、しばしの自由行動のあと、グランドキャニオンを下ることに。すぐ着くだろうとたかをくくっていたら、下り3時間、上り8時間もかかる超ハードコースだった。結局途中で折り返すことになったけど、上りでみんな汗ダラダラ、心臓バクバク、疲労こんぱいに。だけど下る途中で下から見たグランドキャニオンの岩壁(岩肌)は意外になめらかで、岩がそり立つ風景は「固められた大波」を連想させた。そのほか、移動中に珍道中があったり、ガイドをして下さったUさんのあまりの健脚ぶりに「Uさんサイボーグ説」が浮上したりで、楽しい最後の思い出になった。その楽しさは、JSEC第2期生たちのみんなの心にきっと残っているだろう。
 
 闘いと観光を終えた総勢22名は、中華料理店に立ちより、そこで豪華なパーティーが催された。皆の顔にはそれぞれ疲労感と達成感、そして皆と別れねばならないという寂しさがはっきりと読みとれた。圧倒的な量と、メンバーが慣れていない味で我々を魅了してくる中華料理には目もくれず、というより目をそらして我々はたわいもない話に興じた。私にはこれらの行為は、自分の感情を隠すための隠れみののように思えた。「ともすると彼ら全員と会うことはもうないだろうな」などと考えていると、スタッフの方が、他のメンバー全員に対して何か一つメッセージを言ったらどうかと提案したので、全員が30秒〜1分程度の短いスピーチをすることとなった。その内容を聞いていても、やはり最初に感じた寂しさ等を訴える内容が多く、ますます気分がブルーになっていった。それと同時に彼らと過ごした7日間がとてつもなく素晴らしく、光輝く日々だったのだとはじめて実感した。
 最後に一本締めをして終了したが、終了したとたん、私の心は少しだけ様変わりした。日本での、明後日からの生活のことが頭に浮かんできたのである。それはつまり、次の目標へのあらたな第一歩を踏み出そうとしているに相違ない。このフェアウェルパーティーは、私たちにこのメンバーの素晴らしさを伝えてくれ、また日本での新しいステップを踏み出す契機になってくれた。
 
 今日は、アメリカで過ごす最後の夜です。今、考えると長いようで短いアメリカだったなと思います。フェアウェルパーティーはアメリカなのにナゼか中華を食べました。みんなでそろって食べる最後のごはんは、不思議な中華でとてもおいしかったです。パーティーのおわりには、一人一言のコーナーをもうけて、アメリカ研修9日間をふりかえりました。一言でみんなが口をそろえて言うのは「どの人も個性的(すぎ)」ということでした。確かにどの人も、キャラがかぶることなく、かつ普通ではありませんでした。だからこそハードな7日間も、おもしろおかしく過ごせたんだと思います。例えば、恥ずかしがり屋の一言、「楽しかったです、よかったです、おもしろかったです」(本当に一言)。尾割くんの「Mさん、好きでした」などなどあげていけばきりがないくらいでした。なにはともあれ、最後の夕食をみんな元気で、楽しく食べられてよかったです。

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