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今から1300年ほど前、奈良の都華やかなりし頃のこと。「伎楽」という日本伝統の舞踏劇が流行していたのを、ご存じでしょうか。面をつけ、色とりどりの衣装を身にまとった役者たちが、音楽に合わせて舞いながら演じる喜劇。当時の朝廷の支援もあり、東大寺大仏開眼法会(かいげんほうえ)など、さまざまな機会に上演されて人気を博したと言われています。しかし、平安時代に入ると文化の変化とともに、いつしかその姿を消してしまいました。それでも伎楽の影響は、その後の日本の芸能や民俗に色濃く残っています。たとえば、獅子舞のもとになったのは、伎楽に登場する獅子の踊りだと言われていますし、後に能や狂言へと発展した猿楽にも、伎楽の面や動きが継承されたそうです。また、伎楽に出てくる怪鳥・迦楼羅(かるら)は、烏天狗となって各地の昔話や伝説に姿を現しているのです。
伎楽については史料が非常に少なく、詳細は未だに謎に包まれています。しかし、わずかな手がかりをもとに、日本を代表する識者が協力してそのストーリーと演技、音楽や装束を復元。1980年、東大寺大仏殿昭和大修理落慶法要(らっけいほうよう)で上演されました。演じたのは、天理大学雅楽部。それ以来、世界でたったひとつの伎楽団として公演を続けています。


東大寺での伎楽公演
2002年に行われた大仏開眼一千二百五十年記念法要でも、伎楽が盛大に上演された。
伎楽の舞台で目に留まるのは、異形とも思えるさまざまな顔つきの面と、美しい色彩の装束や小道具。「日本書紀」には、もともと伎楽は古代朝鮮の百済(くだら)の人が日本に伝えたものだと書かれていますが、その記述を裏付けるように、面も衣装もどこか大陸的です。
伎楽面は、役柄に合わせて14種類が残され、正倉院や東京国立博物館などに所蔵されています。能面と違って、すっぽりと頭全体にかぶる形。そのため桐やクスノキなど軽い木の木彫や、乾漆(かんしつ。型に木屑などを混ぜた漆を塗り、その上に麻布を張ってさらに漆を塗り重ねる方法)で作られています。
装束は、東大寺大仏開眼法会での伎楽上演の際に使われたと思われるものなどが残っています。臈纈(ろうけち。古代のろうけつ染め)や纐纈(こうけち。古代の絞り染め)を始め、天平の頃の最高の染色技術によって作られた、華やかで手のこんだ舞台衣装です。


よみがえった伎楽装束と小道具
残された伎楽面や装束などを参考に、復元が行なわれた。下は幻の染め「多色夾纈(たしょくきょうけち)」で染められた庭幡。