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  武蔵大学は旧制の七年制武蔵高等学校を前身として、「少数精鋭教育」を貫いてきた大学である。全学で学生数は約4500名と小規模だが、それを利点としてゼミ・演習に力を入れており、「ゼミの武蔵」ともいわれている。現代の少子化傾向には様々な理由があるが、「少なく産んで丁寧に育てる」という意識も背景にあるという。ならば武蔵大学は、まさに「少なく入れて、丁寧に育成」してきた大学といえるだろう。今年4月に新しく学長に就任し、「大学の基本的な使命は、人間形成と知的体力の養成」と語る平林和幸氏に、武蔵大学の特長と今後の展望を聞いた。
■学生一人ひとりに対する細やかな教育

  武蔵大学は1922年に創設された、わが国初の旧制七年制高等学校を前身とする大学であり、当初から少人数教育を貫いてきました。学生と教員の距離が近く、「Face to Face」で一人ひとりに対するキメ細やかな教育や指導が伝統であり、武蔵大学ならではの特長になっています。

  だからといって規則づくめで縛るというのではなく、学生の自主性を最大限に重視しており、旧制高校時代の自由な気風も継承しています。

  それを象徴するのが、学生によるグループでの研究を教員が指導していくゼミナール(演習)です。大教室での一方的な講義ではなく、学生が主体となって研究し、これを発表して議論することになるため、少人数でしかできません。武蔵大学では、このゼミ・演習に特に力を入れており、「ゼミの武蔵」といわれるほど高く評価されています。

  また、経済学部では1年間のゼミによる研究成果をプレゼンテーション形式で発表して、内容を競いあう「ゼミ対抗研究発表大会」も実施しているので、否応なく学生諸君も熱心に取り組むようになるわけです。

  また、卒業論文も重視しており、人文学部・社会学部で必修となっています。最近は卒論なしでも卒業できる大学や学部もありますが、思考力や企画力、文章構成力や文章表現力を身につける絶好のチャンスであり、これこそが大学教育の原点だと考えています。生まれて初めてまとまったボリュームの論文を書くことになるため、学生には辛い仕事になるかもしれませんが、教員がテーマ設定の段階から逐一指導するので、ご心配には及びません。この卒論は後になってから、その意味や成果を知ることになるほか、社会に出てからは企画書や調査レポートなどを書く時に大いに役立つはずです。

■進取の気風も伝統として、改革の途上

  こうした武蔵大学の利点を継承しつつも、21世紀という時代に対応すべく、すでに様々な改革を行ってきました。04年には経済学部のカリキュラムを大幅に改編して、現代のニーズに対応したコース制を導入しました。

  また、やはり04年から社会学部にメディア社会学科を新設。マスメディアと社会の関係を考えるマスコミュニケーション、メディアにより社会的活動を支援するパブリックコミュニケーション、情報発信するためのメディア表現を学ぶメディアプロデュースを3つの柱としています。これは実践までを含めた、かなり新しい学科であり、考えてみれば経済学部の金融学科も他の大学に先駆けて設置しており、進取の気風もある大学といえるでしょう。

  そして05年には、私が学部長を勤めていた人文学部でも、大幅な改組を行いました。これまでは欧米文化、日本文化、比較文化という3学科でしたが、この構成に「比較」という概念を中心に据えて、英米比較文化、ヨーロッパ比較文化、日本・東アジア比較文化の3学科にしました。文化は単独で成長するのではなく、異文化との交流の中で形成され、成長していきます。特に東アジアでは国際間の問題も発生していますが、交流を大前提として比較することで、理解し、協調できるヒントが探せるかもしれません。

  この「比較」という概念はかなり深い考え方なのでヨーロッパ比較文化学科では、1年次の教科書として『ヨーロッパ学入門』(朝日出版社)を発行しました。450ページの本ですが、これを通して、私たちの見方や考え方を根本から理解していただくことが目的です。

■知と実践の融合

  武蔵大学には、3つの「建学の理想」があります。
1)東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物
2)世界に雄飛するにたえる人物
3)自ら調べ自ら考える力ある人物を育成するというものです。



  建学は大正時代ですから、当時はかなり新しく感じられたでしょうが、一言でいえば自立した国際人の養成を目指すということですから、現代にこそ必要な人材像でもあります。

  それを踏まえた上で、武蔵大学の新しいビジョンとして、私たちは「知と実践の融合」を教育の基本的な目標に打ち出しました。ゼミや卒論などで自ら調べ、考えるだけでは十分ではなく、それを社会に還元し、他の人たちとコミュニケーションしていくこといわゆる実践も重要な要素だと考えたからです。

  そのためには、何よりも英語力が必要になるので、全学部でTOEIC(R)の統一試験を実施することにしました。1年次で1回、さらに2年次の後半にも受験するので、語学の進捗度が自分で把握できるほか、その結果を英語の担当教員にフィードバックすることで、より効果的な授業に発展させることができます。

  また、国際センターを中心として、多数の海外の大学との提携による1年間の交換留学や短期語学留学も充実させています。あまり知られていないようですが、本学の学生で留学経験者はかなりの数にのぼります。

  そのほか、学部間の交流や、1〜2年次の一般教養は人文学部の教員が担当するなど、学部の垣根を超えた連携も武蔵大学の大きな特長でしょう。とにかく大きな大学ではできないことにチャレンジ、これからも継続していくということです。


■丁寧なAO入試を実施

  大学の出口となる就職についても、今ではどんな大学も就職指導に力をいれるようになりましたが、武蔵大学では開学当初から個別指導を行っています。また1年次の段階からキャリアデザイン指導を行っており、そのせいか04年度でも就職率は96.2%、就職満足度でも79.2%となっています。

  地味に見える大学かもしれませんが、本学の卒業生は幅広い分野に進出しています。某経済雑誌の特集によると本学卒業生の「出世力」(上場企業の役員就任数の対在学生数比)は私立大学の中で5、6番目にランクされています。最初は目立たなくても、入社後にぐんぐん伸びていくのが武蔵OBの特長であり、企業からの評判も大変にいいようです。

  最近では、学生自身が発案して編集や配布まで行う『大学広報紙・武蔵(むさ)ナビ』が発行されました。誰が指示したわけでもなく、学友会の学生たちが独自に提案したものです。これを見ていただければ、学生から見た武蔵大学がわかると思います。こうした自主的な活動が生まれてくるのは、教育者として大変に嬉しいですね。

  こうした大学改革の一環として、入学の段階でも、人文学部全学科と社会学部メディア社会学科でAO入試を導入しています。一般にAO入試といえば、書類審査と小論文や面接で選抜しますが、武蔵大学はそれとは異なります。人文学部では夏休みに一次選考通過者に2〜3回のスクーリングを体験していただき、それに関するテーマでレポートを書くという制度になっています。つまり大学での模擬授業に参加して、大学生と同じように小論文を書くというわけです。このレポートで中間審査を行い、その後に面接で最終決定します。夏休みですから教員も負担になるのですが、中には「ぜひ入学したい」と熱く語る高校生もいます。そうした学生に出会えることが、何よりも私たちの喜びになるわけです。メディア社会学科では、一次選考で作品を提出してもらっています。作品は、活字媒体、漫画等のプリント・メディアや音声・映像メディアの作品、ウェブサイト、ビデオゲームなどのデジタルメディアの領域のものとなります。大学側としては面倒でも、入学は人数合わせでは駄目。苦労して選抜することによって、優秀な人たちが集まると思います。

  このように、「手づくり」の教育を丁寧に実践していくことが武蔵大学の特長であり誇りといっていいでしょう。

  旧制高校をルーツとしているので、バンカラなイメージもあったのですが、近年は女子学生も多く、4割強を占めるようになりました。そこで施設や環境も整備して、「女性にやさしい大学」にすることも私の使命だと考えています。
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