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  少子化と進学率の上昇によって、大学の役割は大きく変わりつつある。最高学府として英知を学ぶというだけではなく、学生を全人的に成長させる使命が加わったと表現できるかもしれない。東海大学では、この使命に早期から気づいており、望星丸による長期の海外研修航海など様々な成長のチャンスを提供してきた。さらに、今年4月からはチャレンジセンターをオープン。学生の実践的な能力を多彩に引き出す制度を充実させている。「大学は人材育成機関である」と語る学長に、東海大学の近況を聞いた。
■集い力、挑み力、成し遂げ力を養成するチャレンジセンターがスタート

  東海大学は13学部72学科を持つ総合大学であり、各学部で専門教育や技術教育を展開してきました。しかし、今やそれだけでは十分とはいえません。その上に、こうした知識や技術を応用できる「活用教育」が必要になってきたと思います。いわば実践的な応用力ですが、教室の中だけでそうした力を身につけるのは無理というものです。

  そこでスタートさせたのが、チャレンジセンターです。

  このチャレンジセンターでは、大学主催と学生提案という2種類のプロジェクトを設定しており、誰でも学年を問わず参加できます。そのプロジェクトを達成していくプロセスで、他者とのコミュニケーション能力や困難を克服していく実践力をつけていただこうというのが狙いです。東海大学では、このプロジェクトで得られるものを、「集い力」「挑み力」「成し遂げ力」と表現していますが、いずれも大学を卒業して社会に出てから要求される基本的な能力です。つまり、大学の4年間で知識だけを勉強するのではなく、人間として大きく成長させるための仕掛けといってもいいでしょう。

  もともと東海大学は、チャレンジ精神を持ち、社会で活躍できる人材の育成を基本としてきました。ですから、チャレンジセンターは大学にとって特に目新しいことではなく、むしろ建学の理念に沿ったものです。しかしながら、現在の社会環境を見ると、ニート問題に代表されるように、学力以外の人間力に欠けている若者が少なくありません。こうなってくると、大学は知識教育の場であるとして安穏とするわけにはいかないのです。

  大学は、いわば最後の学校教育の場ですから、受け入れた学生を一人前の社会人として送り出す責任があると思うのです。そのためには学部や学年を超えて、ある集団の中で論争し、課題を克服し、目的を達成するという実体験が必要。それをチャレンジセンターが担っているのです。入学時には人みしりで臆病で内向的な学生でも、このプロジェクトを経て卒業する時には、胸を張って目がキラキラしている大人に成長しているはずです。

  このチャレンジセンターには、大学側が企画する「主催プロジェクト」と、学生自身が提案する「学生プロジェクト」、それに規模は小さいが将来的な発展が期待できる「ユニークプロジェクト」の3つが用意されています。このうち「ユニークプロジェクト」は「鳥人間コンテスト」など、以前から実施されてきました。

  こうしたプロジェクトに学生がいきなり参加するのも無理があるので、導入的な役割と基礎的なスキル習得を兼ねた「チャレンジセンター開講科目」を設置しています。座学でプロジェクト遂行に必要な知識とスキルを身につけた上で参加するということで、こちらも全学生が対象になっています。

  各プロジェクトに最高1000万円の予算が割り当てられますから、規模は結構大きいですよ。この予算の使い方から、達成後の会計報告もすべて学生が行います。スタートから最終報告まで、約1年間。修了時には参加者全員に認定証が授与されます。多くの学生ともみあいながら、協同しながら1つの目的を達成したという貴重な経験と、成長の証ということですね

■タコツボ的な「集合大学」ではなく、総合大学としての学問の融合を目指す

  東海大学は理系の学生が63%を占める、私立では珍しい理工系の多い総合大学です。多数の学部を持つ大学の場合、ともすれば他学部との交流がなくなり、タコツボ的になりがちですが、これでは総合でなくて「集合」大学というに過ぎません。そこで、本来的な総合大学のメリットを活用できる融合的な研究プロジェクトをいくつか推進しています。

  たとえば、ソーラーカーは、東海大学の名物の一つですが、これまでは工学部の1学科の研究テーマでした。これに教養学部芸術学科のデザイン学課程が参加すれば、デザイン的にも優れたものになるでしょう。さらに環境系の学科が加われば、エコロジーの研究対象にもなります。

  このように1つのテーマに対して多彩なアプローチが可能ということが総合大学本来の強みですから、こうした取組みを、大学院の研究レベルでもさらに発展させていきたいと考えています。ただ、私立大学なので予算には限度があり、すべての研究を世界レベルに押し上げていくことはできません。そこで私は、総合力を活用した「嶺」(みね)をいくつか作り上げていくつもりです。

  直近では、工学部の教員が中心となっている糖鎖工学研究施設を対象として、医学部とタイアップした活動を推進します。この糖鎖とは細胞間の認識、免疫、癌細胞の特性などさまざまな生理的現象に関係があり、その働きはまだまだ解明されていません。ゲノム(遺伝子)についてはかなりのレベルまで研究が進んでいますが、実は薬がどのように効力を発揮するかも、この糖鎖との関連で注目されています。これを工学部と医学部が協力して研究することで、さらに世界的な成果へとつながるのではないでしょうか。

■教育こそ産学連携が必要。ANAと提携した日本初の航空操縦学専攻も発足

  こうした研究面での融合は、必然的に学部教育にも反映されることになるのですが、もう一つ、私は教育こそ産学連携が必要だと思っています。研究は直接的な利益につながるので、産学連携はもはや常識ですが、学生諸君の実践力を育成するためにも、外部の企業や団体などとの連携が不可欠。社会に対しても、学部がタコツボでは困るわけですね。

  こうした意欲を象徴する事例として、ようやく発足できたのが、航空宇宙学科航空操縦学専攻なのです。全米でも屈指の滑走路と航空設備を持つノースダコタ大学と提携しており、学生はカリキュラムの1年半(3セメスター)は同大学に留学して航空機の操縦を習います。残り2年半は東海大学でパイロットとして必要な知識や技術を学ぶことで、航空機の事業用操縦免許を取得することができます。

  これまでパイロットの公的な養成機関は、独立行政法人の航空大学校しかありませんでした。ところが、この学校では学士号は授与されないのです。東海大学の航空操縦学専攻では卒業時に操縦免許と学士号が得られます。日本でも初の学科であり、関係省庁との折衝その他いろいろと苦慮したこともありましたが、ANA(全日空)と提携することで、一つずつクリアしていくことができました。まさに産学の連携がなければ、あり得なかった新専攻といえるでしょう。

  すでに1期生として33名が入学していますが、人気が高いので、教員などの充実に対応しながら、定員を増加していくつもりです。

  そのほかにも、教養学部の芸術学科音楽学課程の実技は東京交響楽団から派遣された教員が指導し、かわりに東海大学は楽団の広報活動を担当するなど、産学連携の事例が増加しています。東京の代々木キャンパスを除いた4キャンパスは、湘南や伊勢原、沼津や清水と遠くにあるように感じられるかもしれませんが、このように研究や教育は社会の第一線と密接なつながりを持っているのです。


■チャレンジ精神にあふれた、どんなことも克服していける学生を育成する

  大学の使命は、大きく分けて教育、研究、そして社会(国際)貢献です。中でも教育とは、社会を見据えた実践力のある学生の養成だと思います。特に近年は、人材育成という側面が強く求められているといえるでしょう。

  そのための新しい取組みがチャレンジセンターであり、教育の産学連携ということですが、もう一つ、伝統的な試みとして望星丸による約40日に渡る海外研修航海を紹介しておきたいですね。学年、学部を問わず、毎回約80名から100 名が参加します。バックグラウンドや年齢が異なる学生諸君が、長きに渡って同じカマのメシを食うわけですから、一言でいえば、皆さん大きく成長して戻ってくるのです。

  こうした体験をキャンパスでもできないかと考えたのが、実はチャレンジセンターのきっかけだったのです。東海大学に入った学生は、4年後には必ず一人前に成長していただきたい。何でも臆することなくチャレンジし、どんな課題も克服できる実践力を持つ人材の育成が、東海大学の今日的な課題だと私は考えています。
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