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  「技術は人なり」。東京電機大学の教育・研究の理念を創られた初代学長 丹羽保次郎先生は、ファックスの育ての親としてもその名は知られています。
  「すぐれた技術者になるためには技術の本質をつかまなければなりません。その上ではじめて良き設計も、工作も、研究も生まれ出るのです。」これは丹羽保次郎先生の著書『若き技術者に贈る』の一章、「技術のすがた」に記された言葉で、将来技術者になろうとする多くの人にアドバイスを与えるものでした。その中の「技術は人なり」という名言は、先生の真摯な技術体験が生んだ珠玉の言葉として、東京電機大学の教育・研究の理念として、現在に引き継がれています。
  学園の創立100周年を迎える07年を前に、東京電機大学の原島学長にお話を伺いました。

■進化していく理工系の学問

  最近、学生の理工系離れの問題がよく話題にのぼります。昔、多くの理工系の人間が必要だった時代、彼らの多くは計算や徹夜での実験、製図などの仕事で使われていました。しかし、現在はその作業のほとんどがコンピュータでできてしまいます。そのため、彼らの需要が減ってきており、その分、縮小されるのは当たり前と考えられるのかもしれません。

  こういう状況のなか、理工系の学問は以前と変わってきており、東京電機大学も新しく変わりつつあります。例えば、07年から始まる未来科学部。この学部には建築学科、情報メディア学科、ロボット・メカトロニクス学科と3学科ありますが、すべての学科に工学という名前がついていません。まず建築学科ですが、これはもともと昔から建築工学とは言いませんでした。情報科学もインターネットのプロがエンジニアである必要はないですから、理工系の分野ではありません。そしてロボットの分野でも、研究内容が少し変わってきています。

  1980年代、日本のロボットが世界で受け入れられはじめた頃、ロボットは生産現場に持ち込まれました。そしてロボットは現場から人間を追い出しました。これは、繰り返しの作業を正確に、速くやるという意味においては人間よりもロボットの方が優秀だったからです。それで、人間を追い出し機械と付き合う人間のような形をしたロボットを作っていたのです。しかし、一番重要なのは人間とロボットの付き合いです。そのため現在のロボット研究は、ロボットを人間社会の一員としてどう迎えていくかという、心理学の分野にまで広がっています。


■数値目標から、人間の感性の問題を大きなテーマに

  未来科学部は人間の生活空間である、住空間(建築の空間)、知的空間(情報の空間)、行動空間(動物である人間の運動空間)を創造する、3つの学問でなりたっています。この3つの学科は数値目標がないということが共通点ですが、これまでの科学技術というものは、いかに早く物を動かすか、いかに大きく作るかなど、数値の問題が大きなテーマでした。しかし、この3つの学科は数値というよりも、人間の感性の問題が大きなテーマとなっています。

  要するに、何ができるかというものを数値で表すのではなく、「何をしたいか」「何をすべきか」「何をしてはいけないか」ということ。例えば、クローンを作ってもいいか悪いかという問題です。クローンというものは、現在の技術では簡単に作れるものなのですが、実際には作らない。以前は作れると分かれば、必ず作っていたのに、現在は「何がしたいか」「何をすべきか」が重要になっているので、作らないのです。

  この「何をしたいか」というのは進歩の上でとても重要で、インターネットができたのも人間のテレパシーへの憧れから始まったものです。しかし、テレパシーの原理をいくら調べても分からなかった。だから原理を探すのは止めて、コンピュータを作った。そして現在は、世界中の情報がある価値のもとにいっぺんに集積できるようになり、テレパシーの世界で考えていたもの以上のものができあがりました。これも「何がしたいか」というものがあったから実現できたのであって、「何ができるか」でやっていたら、永久に実現できなかったでしょう。

  このことはロボットも同様で、手塚治虫さんの鉄腕アトムへの憧れが大きいです。現在、あの世界の中でできないものは100万馬力の原子力エンジンくらいでしょう。この意味で、 最近は「やりたいことが分からない」という学生の意識が社会問題になったりもしていますが、何をしたいのかハッキリと表現できる人間にとって、理工系の学問は非常に多岐な手段に恵まれていると言えるでしょう。

■ロボット研究の最終課題となる、心を理解するロボット

  未来科学部の教育体制は、まず基礎的なものはキチンとやり、それに加えて心理学や社会学など、伝統的な理工系の学問分野とは違ったものも学んでいきます。例えばロボットでは、学生のコンテストを見るとアイデアは非常にいい。しかし、すぐに倒れたり、何度か動かすと壊れたりするものをよく見かけます。これは、機械工学の設計がしっかりできてないからで、アイデアとやりたいこと、それを実現するための教育のバランスがとれていない。だから、せっかくのアイデアがただの遊びになってしまう。

  また、ロボットやコンピュータ、機械というものは人間が作ったものなので、どう動くか簡単に予測できる。しかし、ロボットは人間の心理が理解できないので、機械と人間の共生ということが今、一番のテーマとなっています。この問題はロボット研究の最終課題となるでしょう。

■学ぶ内容の広い教育で、優れた人材を育成

  未来科学部の名前に関して、私は「未来とは自分で作るものだ」と捉えてほしいと考えています。その意味で、ロボットというものは象徴的なものですが、ロボット産業というのはまだ、確立されていません。そのため、ロボットだけの研究では学生を受け入れる社会側の態勢が整ってないと言えます。ですから、ロボット・メカトロニクス学科の研究は、バックグラウンドの広い教育を行なっていく予定です。

  これは例えば、宇宙航空などの研究にも似ていますが、宇宙航空も人気のわりには産業の規模は非常に小さい。しかし、学ぶ内容が非常に多岐にわたるので、すごくいい人材が育ちます。ロボット研究もこれと同じで、市場規模の小さい分野の研究ですが、広い定義での幅広い研究ができ、優れた人材が育てられると考えています。
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