二酸化炭素の過剰な排出による地球温暖化、木の伐採による森林の破壊、
過放牧による砂漠化、オゾン層の破壊など、環境問題は人類の未来に暗い影を落としており、
このような問題への早急な対応が求められている。農学系や工学系の大学では、
環境問題に対してどのように取り組んでいるのだろうか。最前線の研究や試みを探った。


 

 


 近年、環境問題が語られる際に「持続可能な開発(Sustainable Development)」という言葉がよく使われるようになった。現在では、環境問題について考える場合に、この概念は避けて通れないものとなっている。そもそもこの概念はいつ、そしてなぜ生まれてきたのだろうか。日本環境教育学会事務局長の朝岡幸彦氏にうかがった。
 「『持続可能な開発のための教育』という概念は、2002年の『持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルク・サミット)』でその重要性が強く認識されるようになりました。このサミットでは、環境問題よりも開発と貧困の問題がクローズアップされました。発展途上国では、日々の煮炊きのために過剰伐採が行われ、森林破壊や砂漠化が進んでいます。しかし、伐採をやめれば環境は保全されるかもしれませんが、彼らは生活できなくなってしまう。豊かになる権利はすべての人にあるはず。従って、どのような開発が持続可能なのかを考えなければいけない。このように環境問題と開発、貧困は切り離すことができないのです」
 1997年の「環境と社会に関する国際会議(テサロニキ会議)」で採択された「テサロニキ宣言」では、持続可能性の概念を次のように定義する。
 「持続可能性という概念は、環境だけでなく、貧困、人口、健康、食料の確保、民主主義、人権、平和を包含するものであり、最終的には道徳的倫理的規範であり、そこには尊重すべき文化的多様性や伝統的知識が内在している」

 

 このように「持続可能な開発」という言葉の中には極めて広範囲な問題が含まれる。朝岡氏も「環境問題を解決するには、多様な問題と対話しながら考えていかざるを得ない。社会のあり方や人の生き方という問題に向き合わざるを得ないのです」と言う。


 現在、環境を教育・研究している大学の多くが「持続可能な開発」をテーマに据えるようになっている。特に多くの大学が取り組んでいるのが、環境負荷を減らす技術や自然エネルギー利用の研究である。
 「環境に取り組む大学は大きく分類すると、自然科学系と人文社会系、さらに自然科学系は理学・農学系と工学系に分かれています。理学・農学系の学生は自然環境そのものに関心がある人が多い。一方、工学系の学生は問題を技術で解決することに関心を持っている。すでに始まっていますが、今後はこの双方が融合していくことが必要です。さらに自然科学系と人文社会科学系の融合も図らなければならない。自然科学的素養、技術的素養を身につけた上で、社会のあり方や人の生き方についても深い関心を持つことが求められているのです。そうした広い視野と他分野との協調性をもって、主体的に模索していくことを、大学で環境を学ぼうと考えている人には期待したいですね」

 
 
 




【学部】工学部(機械サイエンス学科、電気電子情報工学科、生命環境科学科、建築都市環境学科、デザイン科学科、未来ロボティクス学科※)/情報科学部(情報工学科、情報ネットワーク学科)/社会システム科学部(経営情報科学科、プロジェクトマネジメント学科)※2006年4月開設

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【学部】農学部(農学科、畜産学科、バイオセラピー学科※)、応用生物科学部(バイオサイエンス学科、生物応用化学科、醸造科学科、栄養科学科[食品栄養学専攻・管理栄養士専攻])、地域環境科学部(森林総合科学科、生産環境工学科、造園科学科)、国際食料情報学部(国際農業開発学科、食料環境経済学科、国際バイオビジネス学科)、生物産業学部(生物生産学科、アクアバイオ学科※、食品科学科、産業経営学科)、短期大学部(生物生産技術学科、環境緑地学科、醸造学科、栄養学科)※2006年4月開設

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 工学部生命環境科学科、学科長の尾上薫教授は、最終的に環境汚染の解決などにつながる反応工学という学問を研究分野としている。
 「反応工学とは、反応をいかに起こすか、反応をいかに止めるか、反応をいかに組み合わせてエネルギーを生み出すかを研究する学問です。その概念は、A(原料)+B(原料)→P(主生成物)+Q(副生成物)という、たった一つの反応式で表すことができます」
 反応工学の応用範囲は極めて幅広く、資源、環境、エネルギーという現在、人類が直面している三つの問題をそのテーマに含む。
 「今、我々は『気泡』に注目しています。微細な気泡に外から超音波や光などの刺激を与えます。すると通常では起こらないような反応が促進します。それを利用して今までできなかったことを達成するんです」
 微細な気泡は、表面に電荷を帯びやすい。すると水に溶けた物質が泡に集まる。例えば、その性質を利用して水質の浄化などを行うのだ。
 このように反応工学は、空気の浄化、川や湖の環境保全、資源の有効利用などへの応用が期待され、すでに企業と連携して新しい技術開発が進んでいる最中だという。
 こうした研究が行われている生命環境科学科は、遺伝子工学コース、生体システムコース、グリーンケミストリーコース、環境システムコース、基礎自然科学コースの五つのコースがある。これらは生命系、環境系、基礎自然系の三つのグループに分かれているが、特徴的なのはすべてのグループの勉強を1、2年生のうちに行うこと。他のコースで学んだ知識を自分の研究に取り入れるためである。
 このような柔軟な教育から、どのような人材を輩出することを目指しているのだろうか。
 「今持っている知識を生かし、何事にも興味を持ち、自ら行動を起こす人を養っていきたい。そのため、実験などによって勉強の楽しさを伝えることを心がけています」
 

 「バイオマスとは生物資源、特に植物資源のことを指し、毎年地球上で1700億トンが新たに生産されています。これは炭素に換算して比較すると、1年に世界で消費されるエネルギーの約10倍に当たります。バイオマスのエネルギー利用研究は40年ほど前から行われていますが、現在、石油の代替エネルギーとして最も期待されています。その理由は、化石燃料と違って植物は刈り取っても再生産されるからです」
 そう語る軽部征夫副学長(バイオニクス学部教授)のチームは現在、地元八王子市や企業との連携のもと「バイオマスのガス化プロジェクト」に着手している。
 「八王子市では、公園などで植物の剪定(せんてい)カスが1日に6トンも発生します。その剪定カスからエネルギーを取りだそうというプロジェクトを進めています。その方法は、植物を蒸し炊きするというものです。酸素をシャットアウトして一気に温度を上げガス化するのです。すると、メタン、水素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素が発生し、廃棄物はほとんど出ません。発生ガスは二酸化炭素と窒素を除くとほとんどがエネルギーになります。発電にも自動車の燃料にも使えるのです。廃棄物が出ないことも大きなポイントです。バイオマスからアルコールやメタンガスを作り出す技術がありますが、その方法だと膨大な廃棄物が発生してしまい、その処理のために多大なコストがかかるのです。このプロジェクトはまだ基礎研究の段階ですが、将来的には生ゴミにも応用できると考えています」
 軽部副学長が開設に大きくかかわったバイオニクス学部は、工学に利用できるバイオ技術に特化した学部で、生物の機能を応用したり、模倣した技術を開発する。
 「生物は、エネルギーを非常に効率的に利用しています。遺伝子組み換え、ヒトゲノム解析という歴史を経たバイオ研究の次の段階として、工学への応用を考えました。工学とバイオの融合から、生活や医療の質を向上させる新技術を生み出していきたいと考えています」
 



 土壌物理研究とそこから発展した地水工学を研究している、地域環境科学部生産環境工学科の高橋悟教授。東京農業大学は100周年記念プロジェクトとして東アフリカの国、ジブチ共和国での沙漠緑化プロジェクトを進めているが、高橋教授はそのリーダーを務めている。
 「1991年にはじめてジブチ共和国を訪れたのですが、難民キャンプでは、子供たちが飢えて衰弱しきっていました。何とかできないだろうかと考えた時に、私たちの知識と技術で沙漠を緑化し、現地の人々の役に立ちたいと考えたんです」
 高橋教授らのチームは、時に気温が50度を超える中、粘り強い調査と数々の試行錯誤を続け、ついに緑化のための方法を三つ開発した。


 「ウォーターハーベスティング」は、石で壁を作って雨水をなるべく土に浸透させ、緑化に利用する方法。「ストーンマルチ工法」は、地表に石を並べることで、日陰を作り、地面の温度上昇を抑え、さらに結露で水分を得る方法である。もう一つは、二重の円筒形サックを地中に打ち込み、保水材を含む内サックの中で植物が根を伸ばすことで、根が水を含んだ層に到達し、植物が自立する「ダブルサック工法」である。
 これらの緑化工法により、ジブチ共和国の沙漠でも植物が育つことが証明されている。高橋教授は「将来的には食料生産が可能な農村づくりを行いたい。難民キャンプの子供たちに笑顔を取り戻したいですね」と当面の目標と夢を語った。

 東京農業大学は1891年の創立以来、実学重視の姿勢を貫いてきた。2006年4月には、バイオセラピー学科とアクアバイオ学科を開設。農学に期待されることが多様化・複雑化する中、生命科学、環境科学、情報科学も取り入れ、農学系総合大学としてさらなる発展を目指している。

 

 植物、動物、微生物、さらには森林・海洋から、食品まで幅広い分野の教育・研究を行っている日本大学生物資源科学部。1996年にそれまでの農獣医学部を改組した際、「環境科学」「生命科学」「資源生産科学」の三つの柱と、それに関連する「人間活動」を学部の教育・研究のコンセプトとし、現在に至っている。
 教育方法の特徴は、講義、実習、演習がセットになっている科目が多いこと。これは、百人以上のティーチングアシスタント(教員をサポートする大学院生)の存在と、農場や動物病院などの実験実習施設が教室のすぐそばにあることで可能になっている。
 文部科学省が優れた研究プロジェクトに対し重点的に予算配分を行う「21世紀COEプログラム」に、日本大学生物資源科学部のプログラムが2002年度、03年度と2年連続で採択された。03年度に採択されたプログラムの研究テーマは、「環境適応生物を活用する環境修復技術の開発」。その研究テーマの背景について、長谷川功教授は次のように語る。
 「すべての生物が持続的に豊かな生活ができるシステムを、どうつくるかが21世紀のテーマ。環境破壊は、すでに人間の力だけでは修復が不可能です。生物が持つ不良環境への適応機能を利用して、他の生物と共存できる地球本位の社会を創造するという目的がプログラムの背景にあります」
 森林の伐採などにより、地中にあるパイライトという鉱物が酸素に触れると硫酸が発生し、作物の育たない不毛の地となる。その土壌がプログラムの研究対象である酸性硫酸塩土壌。まず酸性硫酸塩土壌に適応する生物を探し、そのストレス克服の仕組みを研究。そして、それらを利用する環境修復技術の開発を行う。さらに社会科学の研究者が、そこで生活する住民に効果的な土地利用の提言などを行う。当然ながらフィールド研究が重視され、タイ、ベトナム、中国に研究拠点が置かれている。
 「こうした問題の解決には、自然科学的アプローチと社会科学的アプローチの両方が必要になります。それらを融合させて、将来的には新しい『環境学』と呼べる学問を生み出すことができればと考えています」
 
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