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キャリアアップを目指す「社会人のための大学院」ガイド 社会人のための大学院・専門職大学院特集

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社会人インタビュー Vol.12

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デザインを感性と機能の両面から学び、
ワンランク上のシステムエンジニアを目指す

 2006年に開校した産業技術大学院大学は、国内唯一の工学系総合的専門職大学院である。さらに08年4月には日本の「ものづくり」を牽引する人材の育成を目指して、創造技術専攻を開設した。同専攻のキーワードは、デザインとエンジニアリング。色やカタチといった感性的なデザインと、例えば車のエンジン設計や建築物の素材選択などといった機能的要求の両面からアプローチし、その上で専門家を束ねてマネジメントできる「ものづくりアーキテクト」を養成するという。その第2期生として、今春、同専攻に入学した松橋賢さんに具体的な授業内容などについて聞いた。

産業技術大学院大学産業技術研究科創造技術専攻1年
松橋 賢さん

(プロフィール)
1977年東京都生まれ。工学院大学工学部機械システム工学科卒業。ソフトウェア開発会社に勤務し、システムエンジニア(SE)としてキャリアを積む。エンプレックス株式会社でCRMパッケージソフトウェアの製品企画・開発に従事し、09年から住商情報システム株式会社に所属。

――大学院への入学動機を教えてください。
大学を卒業して以来、システムエンジニア(SE)として経験を積んできましたが、CRMパッケージソフトウェアの開発に従事する中で、本当に使いやすく価値のあるソフトウェアを開発することの難しさを痛感し、打開する方法を模索してきました。その中で、改めてものづくりに必要な知識を体系的に学びたいと思い、大学院への入学を決めました。
 
――まだ開設2年目の専攻ですが、どのようにして知ったのですか?
ソフトウェア技術者向けのサイトがあり、この専攻についての特集ページが組まれていました。それを見た週末にオープンキャンパスがあるというので参加して、「これはいい!」と。翌週には願書を書いていました。
「創造技術専攻」というあまり聞きなれない学問分野でしたが、内容はデザインを感性と機能の両面から捉えるというものでした。私もシステムエンジニアとして、自分に欠けている知識だと思い、ぜひ、学んでみたいと思いました。デザインといえば、製造物や建築などの物体を対象に考えることが多いと思いますが、ソフトウェアでも最初のコンセプト設計から各階層の組み立て、インターフェイスの面まで、デザインという概念は深く関わっているのです。
それに公立なので、学費負担もかなり軽減されます。授業料は年間52万円で、入学料は都民なら約14万円。これは大変に助かりました。
――短期間で受験を決められたようですが、その準備はどのように進めましたか?
幸いに、試験は小論文と面接だけで、研究計画書はなかったので何とか短期間ですみました。まず、小論文に対しては過去の問題を入手して練習。その時のテーマは、「あなたが価値が高いと考える製品、商品、サービスについて」。シンプルですが、高度な思考力が必要なのだと思いました。商品開発に携わっていたり、普段から興味をもっている人には比較的容易かもしれません。そうした問題意識を持つことが重要ということでしょうね。
面接では、デザインを学ぶのは初めてであることを率直に話しました。また、これまで手掛けてきたソフトの話をして、「いつかは“グッドデザイン賞”を獲りたいです」と言ったら、「僕もその審査員の1人だよ」と面接官が。そんな超一流の方に直接指導を受けられるのだから、入学したいという思いをさらに強くしました。
――大学院に入学して良かったと思うことは何ですか?
3つあります。まず1つは社会人になってから学ぶという機会は貴重ですから、大学院でその場を得られたことは大きな喜びです。
2つめは、新しい友人、人的ネットワークを築けたことです。この大学は専門職大学院ですので、クラスメートの半数は社会人。学部を卒業したばかりの若い学生から、実務経験が豊富な60代の方までいます。先月もみんなと美術館に行ったのですが、仕事から離れた、利害関係のない友人が持てるというのも大学院ならではですよね。
3つめは、繰り返しになりますが、デザインという私にとっては未知の分野について学びますので、使っていない脳細胞が活性化され、知識がブラッシュアップされるのを実感できます。クリエイティブなものに触れて世界が広がりました。
――基本的な1週間のスケジュールを教えてください。
授業は平日夜間と土曜日昼間。1年間を4期に分けたクォーター制です。ですから、一般的には1科目は1週間に1回という設定だと思いますが、この大学は1週間に2回、授業が設定されています(下記、時間割参照)。
第1クォーターは金曜日を除いて週5日、第2クォーターは月~土の週6日通学していました。休日は日曜日だけですが、レポート作成にあてたり、クラスメートと学会発表のための調査に出かけることもあり、完全にオフの日というのはありません。そういえば、大学院に入ってから飲みに行く回数がぐっと減りました(笑)。
勤務時間は通常は10:00からなのですが、授業がある日は1時間早いシフトに変更してもらっています。合格後に、上司に相談してこのように配慮していただいたのですが、やはり社会人が働きながら大学院に通う場合、上司や同僚など周囲の人たちの協力に助けられることが多いですね。それでも場合によっては、授業が終わってから会社に戻る、ということもあります。
――興味深い科目は何ですか?
第1クォーターでは「イノベーション戦略特論」「ものづくりアーキテクト概論」、第2クォーターでは「インダストリアル・デザイン特別演習Ⅰ」が印象的でしたね。
「イノベーション戦略特論」は吉田敏教授が担当されていて、哲学的な観点からイノベーションについて考える機会を得ました。終盤にはグループ演習があり、私たちは「テレビのイノベーション」をテーマにして、授業で習得したスキームを利用しながら、テレビの将来性などを考えたのが有意義でした。偶然ですが、グループのメンバーに家電業界のエンジニアでテレビ開発にも携わっている人がいたので、リアルな現場の話も聞けました。
「ものづくりアーキテクト概論」はオムニバス形式で毎回違った教授が教壇に立ち、それぞれの視点から「ものづくりとは何か」について講義していただきます。大学院の専任教員だけでなく外部からの客員講師による講義もありますので、幅広い視点からものづくりについて考えることができます。ただし、毎回レポートを提出しなければならないので、それが大変でした。
第2クォーターでは、土曜日の午後に2コマ連続で行われる「インダストリアル・デザイン特別演習Ⅰ」が印象に残っています。この授業は演習となっており、グループ研究と個人研究の2種類をこなさなければなりません。グループワークのため、メンバーとの打ち合わせやディスカッションも必要なのですが、忙しい社会人同士ですから、いかに時間を確保するかが大変でしたね。この科目のほかにもグループで行う演習や研究が多く、協調性やコミュニケーション能力が高まるという副産物もあります。さらに2年次にはPBL(Project Based Leaning)というチーム学習が中心になるので、多くの実践型科目をこなしながら、実務遂行能力を習得していくことになります。
専門職大学院ですので、実務家の教員が多いというのも魅力だと思います。その上、みなさん丁寧に、熱意を持って指導してくださるのがありがたいですね。なかでも福田専攻長は新幹線のN700系を手掛けたというインダストリアル・デザインの大家なのですが、時間外に「デッサン教室」を開いてくださいます。創出したものの形を、鉛筆1本でいかにぶれることなく相手に伝えるかを考えます。初心者の私にとってはとても勉強になりますし、得難い経験となっています。
――これから大学院に入学しようと考えている社会人の方にアドバイスやメッセージをお願いします。
社会人10年目ぐらいで学校に入り直すのは大変有意義なことだと思います。というのも、仕事にも慣れて、自然に我流が身に付いてしまっていると思うので、それが果たして正しいのかどうかを大学院という場所で見直してみる必要があると思うのです。
働きながら大学院に通う時間を捻出するのは容易なことではありませんが、学費以上の価値はあると思いますね。
松橋賢さんのスケジュール(2009年第2クォーターの場合)