社会人インタビュー Vol.7
環境を異文化の一つに位置づけるユニークな大学院で、
「持続可能な開発のための教育」を追究
環境問題を研究対象とする大学院は少なくないが、理系なら自然科学系、文系ならば社会科学系に分類されることが多い。ところが立教大学大学院では、環境が異文化コミュニケーション研究科の一分野として設定されているから面白い。そこで学ぶ森本高司さんは、シンクタンクに勤務し環境政策に関する調査に携わっているが、「ビジネスとは全く異なる視点が養える」とその魅力を語る。
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科博士前期課程1年
森本 高司さん
(プロフィール)
1976年宮崎県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、(株)三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))に入社。環境政策に関する調査研究に携わる。2008年、立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科に入学。
- ――まず、入学動機を教えてください。
- 私は理系出身で、学部から大学院に進学し、修了後は民間シンクタンクに就職して環境問題に関する調査・研究を行ってきました。環境問題の中でも地球温暖化政策に関する分野を担当しているのですが、そこでは日本の国内政策や国際的な枠組みなど、マクロ的な視点に立って考えることが多い。でも環境問題の解決のためには、私たち一人ひとりの環境意識も重要です。つまり、マクロとミクロは表裏一体であるわけです。そこで環境教育という分野に興味を持ち、専門書を読んだりしていたのですが、本格的に学ぼうと思って大学院に進むことを決意しました。
- また、一般的には「就職したら学校での勉強は終わり」と思われていますが、今は生涯学習の時代となり、社会人でも再び大学院で学ぶ人は少なくありません。私もその一人として大学院に戻り、ビジネスから離れた立場で環境問題と向き合いたいと考えたのです。
- ――立教大学大学院を選んだ理由は?
- 一番の理由は、大学院では環境教育やESDについて研究したいと思い、その教授陣が最も充実した大学院だったということです。
- ESDはEducation for Sustainable Developmentの略称で、日本語では「持続可能な開発のための教育」と訳されています。持続可能な社会を構築するためには、環境問題だけでなく、開発問題や人種差別、貧困、紛争など様々な問題への対処が必要です。ESDは、このような複合的な視点から持続可能な社会を創るために必要となる価値観や行動力を培うという新しい教育です。立教にはこの分野の第一人者といわれる阿部治教授がいらっしゃるのです。こうした著名な教授の指導を受けられるというのは、大学院の大きな魅力ですからね。
- それに、働きながら学べる昼夜開講制であり、自宅から近距離という通いやすさも大きかったですね。
- ――それにしても異文化コミュニケーション研究科のなかに環境コミュニケーションが含まれるというのがユニークだと思いますが……。
- 立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科には、異文化コミュニケーション、環境コミュニケーション、言語コミュニケーション、通訳翻訳研究の4分野が設けられています。確かに、なぜここに環境が含まれるか不思議に思うかもしれませんが、異文化コミュニケーションとは、自分とは異なる存在を認識し、理解すること。自然環境も私たち人間とは異なる存在と言え、そのような異者とどのようにコミュニケーションしていくかを追究する研究科であると考えれば、環境分野がここにあるのも理解できるのではないでしょうか。
- ――興味深い科目は何でしょうか?
- 野田研一教授の「RW基礎理論(環境コミュニケーション)」と、川嶋直教授の「ワークショップ論」は有意義でしたね。
- 「RW基礎理論(環境コミュニケーション)」では、「環境と人間の歴史」という文献を輪読しながら、環境が人間の行動や価値観にいかに影響を与えてきたかについて議論しました。これまでの人類の歴史のなかでは、気候や地理的条件といった環境が、人種差別や奴隷制、植民地支配を正当化する理由に使われてきた。例えば、北半球の寒冷な地域では作物を得るために様々な創意工夫が必要だが、熱帯地域は気候が温暖なため自然に作物が実るため、アタマを使わなくて済む。ゆえに寒冷地に住むヨーロッパ人の方が相対的に優秀であり、熱帯地域に住む人々を支配しても良い、という理屈です。ちなみにこのように能力や文明、文化などの差異の要因を環境に求める考え方を環境的決定論といいますが、人類と環境との相互関係やその影響について深く考えさせられました。
- 「ワークショップ論」の川嶋教授は、ワークショップのファシリテーター(司会進行役)としても著名な方です。授業では、ワークショップの概論や企画・準備・実践手法を学びました。実際に授業のなかでチームを組んで「研究科のコミュニケーションを活発化する方法」をテーマにしたワークショップを企画・実施したのですが、やはり机上の勉強と実践とでは学べるものが違う。実際に実践してみることで気付かされた点が数多くありました。
- ――基本的な1週間のスケジュールを教えてください。また、仕事と学業を両立させるポイントは何だと思われますか?
- 大学院は前期・後期のセメスター制で、前期は週5日、後期は週4日、大学院に通っていました。後期の授業を減らしたのは、仕事が繁忙期に入るので調整したためです。
- 両立させるポイントは、時間のやりくりと職場の協力でしょうね。私の場合、数人のチームで仕事を進めているので、大学院に入学する前にメンバーに相談して了解を得ました。自分のタスクはできるだけ終わらせるように努めていますが、どうしてもメンバーに迷惑をかけてしまうこともあるので、その分は授業のない日や長期休暇の時期などに挽回しているつもりです。また、帰宅後や休日に仕事をすることもあります。
- 授業で発表するときはその準備に夜遅くまでかかることもあるなど、やはり時間が足りないというのが一番ツラいところですね。でも、これは後ろ向きな愚痴ではなく、時間があればもっと深く追究できるのに、という前向きな思いなんです。
- ――大学院に進んで良かったと思うことは何でしょう?
- 環境教育に関係する新たな知見や人脈を得られたことに加えて、普通ならば話せないような先生方や、大学院に入らなければ出会えなかったようなクラスメイトと知り合うことができたのが収穫ですね。
- また、同じ環境問題に関する調査・研究でも、仕事ではクライアントの立場を考慮した視点になりますが、大学院では自分自身の視点で物事を考えることができます。仕事とは異なる立場に身を置き、また異なる専門分野に足を踏み入れることで、今までの自分にはなかった新たな視座を獲得できたような気がします。
- ――今後の抱負を教えてください。
- 修士2年目に入るので修士論文の執筆が中心になりますが、講義にもなるべく出席して見識を深めたいですね。
- また、修士の学位はゴールではなく、スタート地点だと思っています。ですから、修了後も大学院で修得した知識と視点を生かしながら、研究を続けていくつもりです。
- ――これから大学院に進もうと思っている社会人にメッセージをお願いします。
- 少しでも興味があれば、ぜひ大学院に挑戦してほしいですね。大学院をMBA取得のようなキャリアアップの場としてだけではなく、自分が研究したい分野を追究するための場として捉えれば、少しだけ敷居が低くなるのではないでしょうか。現在の大学院は社会人を迎える体制が整っているのですごく学びやすい。時間とコストをかけただけのものは得られると思いますよ。
