クラウス・ライジンガー氏 国連事務総長 特別顧問(グローバル・コンパクト担当)

 国連グローバル・コンパクトの10原則は、各企業に対してそれぞれの影響力のおよぶ範囲内で、人権・労働・環境・腐敗防止に関して、国際的に認められた規範を実践・実施することを求めています。
 人権では、「企業はその影響のおよぶ範囲内で国際的に宣言されている人権の擁護を支持し、尊重する」とあります。また「人権侵害に荷担しない」ことを原則としています。ここにおいて何をすべきかは、企業独自の定義となります。
 労働に関しては、「組合結成の自由と団体交渉の権利を実効あるものにする」、「あらゆる形態の強制労働を排除する」、「児童労働を実効的に廃止する」、「雇用と職業に関する差別を撤退する」の4原則です。例えばすでに国内で強制労働が行われているという場合は、その解決にどう取り組むかということになります。また、これらは人権の問題とも密接に関係しています。
 次に環境ですが、「環境問題に予防的なアプローチを支持する」、「環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブをとる」、「環境にやさしい技術の開発と普及を促進する」とあります。これはセクターの違い、例えば金融機関と石油会社では、環境ということの意味がそれぞれ変わってきます。
 4番目は腐敗防止です。「強要と賄賂を含むあらゆる形態の腐敗を防止するために取り組む」とあります。国や地域によっては、ビジネスが腐敗に満ちている場合、マーケットを失うかもしれないといった問題もあります。また、腐敗防止の企業責任の範囲は、法的枠組みを超えたところまでおよぶはずです。
 国連グローバル・コンパクトは、検証可能な成果を伴う、自主的な取り組みとしてあるべきものです。また、こうしたベストプラクティスをさらに進めていくこと、そしてそれをルーティン化していくことが必要になります。企業の現場を考えた時、認識しなければいけないのは、何がいま間違っているのかということです。そしてそれを、どのように修正すればいいのか。これらの問題と企業が向き合い、どのようなディフェンスが必要であるのか、検討できるようにするということになります。
 そして10の原則に照らして、経営陣は企業の考え方をステークホルダーに対して働きかけていくことが必要です。そのために例えば人権に関してはアムネスティー・インターナショナルがそうですし、労働問題につきましてはILO(国際労働機関)による透明性の確保、腐敗防止についてはまた別の場でというような形で、話し合いや働きかけのためのネットワークを作っています。
 日本は近代社会であり、多数決の社会でもあります。多数決の社会には、相反する利益やさまざまな価値感が存在します。ですから社会の中にある企業は、少なくとも周りがどういう状況にあるのかということを理解しなければなりません。また、私たちの社会にはレピュテーション(評判)のマーケットがあります。企業として社会的に高い評価を得ることで、事業においても長期的に成功するものです。ですから、社会の人々が何を企業責任と考えているのか、他の人から自分たちの企業がどう見られているのかというのを認識する必要があります。
 多くの企業は、複雑に絡み合った課題を抱えているはずです。ひとつの組織で問題を解決し、企業全体をよくするということはできません。さまざまなステークホルダーがその問題に取り組むことによって、初めて対応ができるものだと思います。企業の責任というのは水平的なもの、フェアなものでなければならないのです。企業の飾りではなく、経営のコアとなる部分、企業文化の一番重要な部分になるべきだと私は思います。
 例えばコンプライアンス、監査、リポートといったそれぞれの課題で目標を立てることで、誰もがどこを目指せばいいかが分かるようになっていきます。仕事をして、時間が余ったら企業責任を考えるというような考え方は、大きな間違いです。では誰がそうした行動を検証するのでしょうか。まず私たち自分がその趣旨を適切に理解しなければなりません。そして独立した見地からも、評価できるものでなければなりません。
 頻繁に私が訊かれる質問があります。国連グローバル・コンパクトに参加して、いったい何をするのかと。それは企業によって違い、それこそが国連グローバル・コンパクトの良さです。10の原則は、非常に抽象的なガイドラインです。つまり自分たちの国の文化において、適切な形でどうしたらいいのかということを考えられるということです。
 重要なのは、社会的責任の公平な分担ということを理解してもらうということです。この点で、ビジネスと国連は手を結ぶことができます。平和な環境がなければ持続可能な開発はできません。貧困をなくさなければ市場は生まれません。そしてよいガバナンスがなければ企業は発展しません。良い影響を社会に与えることはできないのです。ですから企業と国連は、同じ目標を違う形でやっていくべきです。そしてこれはビジネスも国連も、そして社会もすべてがベネフィットを得る活動です。





深田静夫氏 海外事業活動関連協議会(CBCC)企画部会長/オムロン株式会社顧問

クラウス・ライジンガー氏 
国連事務総長 特別顧問(グローバル・コンパクト担当)

マヌエル・エクスデロ氏 
国連グローバル・コンパクト ネットワーク・ヘッド


深田 グローバリゼーションの進展によって、世界はフラットになっています。次に、成熟したマルティ・ステークホールダー社会。昔はトラスト・ミー(企業を信用してくれ)で済んでいましたが、今はエンゲージ・ミー。私も市場に参加させてほしい、という世界です。そして、企業はCSR(企業の社会的責任)の海図を自ら見つけなければならない。この三つを前提に日本企業の課題を挙げます。

深田静夫氏

 まずトップ経営者の信念とリーダーシップです。そしてCSRフレームワーク。国連グローバル・コンパクトはCSRのドライビング・フォースとして、内外に自社の意思を表明する強いメッセイジになり有効だと思ます。そして、社内への布教活動・啓蒙・企業文化創りが必要です。事業活動の中に如何にグローバルな普遍的CSR要素を組み込んでゆくかの知恵絞りです。

エスクデロ 国連グローバル・コンパクト(以下GC)の10原則は、世界で普遍的なものですが、だからといって、多くの企業が実施しているとは限りません。ある地域では、児童労働を止めさせれば家族は収入を失うのです。社会はこうした問題に対して、複雑な解決方法を見出さなければなりません。ですからGCは宣言ではなく、企業が徐々に、しかし着実に進化させるべきプログラムなのです。
 それを成功させるためには、三つの条件が必要です。第一にCEOの関与です。GCの真剣な実施には、強い信念が必要だからです。第二に企業内の仕組み。もっとも重要なのは、GCの原則を企業のDNAの一部にするということです。例えば新たなビジネスチャンス、福祉の向上、従業員にとっての新たなアイデンティティ。この分野ではたくさんの事例があります。

クラウス・ライジンガー氏

ライジンガー もし貧しい国にいるとしたら、その国で文房具を買いたいですよね。収入を生み、雇用を創出するからです。そこで納入業者候補に対してデュー・デリジェンス(適正評価手続き)を行い、信頼性を確認したとします。しかし、どこで木が切られたのか、児童労働や強制労働はなかったか。すべては確認できません。いま重要なのは、「私の影響範囲はどこまでか。どうすれば影響範囲を広げてゆけるか」ということを進化させていくプロセスです。私の希望は、まず皆さんが直接のビジネス・パートナーから始めることですね。

深田 エンゲージド・ラーニング、自ら参画して外部から学習することが重要だと思います。とりわけ多国籍企業にとってグローバル社会のニーズや期待を自ら体感することが不可欠です。多様性という課題もあります。同時に、グループ組織内に着実に実践してゆくための、使い勝手の良いマネジメント・システム構築が必要です。グループ企業全社員に対して、なぜCSRが必要か?を布教して実効化して“面”にするのは至難の業であり労力・時間がかかります。GCのプロセスである、インクレメンタル(徐々に)に改善対応してゆくシステムと企業の自主的イニシアティブ対応とが相乗効果として作用することが必要です。

ライジンガー 先ほど社員が何十万人という場合のお話がありましたが、その全員が聖人君主というわけには絶対にいきません。しかし、コーポレートガバナンスをはっきりさせることはできます。社員にして欲しいのはどういうことか、決して許容できないのはどういったことか。個人的な倫理のばらつきはあったとしても、企業の倫理を明確にし、伝えていくことはできます。

マヌエル・エクスデロ氏

エスクデロ グローバル・コンパクトはCSRと競合するものではありません。むしろ補完するもの、CSR運動の頂点であるべきでしょう。私見ですが、国連のアナン事務総長の大きな資産は、企業に対して革新的な提案、持続可能な社会の構築のために不可欠な要素を生み出すことを求めたということです。世界で最高年間収益を上げた100の経済主体うち、51が企業であり49が政府です。企業はより大きな意思決定を担っています。

深田 GCの重要性・有用性は、日本国内でも明らかに認識が高まっています。折からのISOの社会的責任規格化議論においてもGCが大きな話題になっています。
 私が関係している日本経団連における最近のアンケート調査においても、トップダウンによるCSR対応、80%、CSR専任部署設置、66%などCSRは着実に実行に移ってきています。

ライジンガー 将来的には商品やサービスの質だけでなく、行動の責任の質も企業にとって重要になると私は確信しています。これはGCへの支持を強く表明する者には、大きなチャンスとなるはずです。

エスクデロ 日本においてGCは確固たる基盤を持ち、とても役立つ慣行があります。それは対話です。お互いから学ぶという慣行。投影という慣行です。日本企業は成功のための鍵を握っており、条件もすべて満たしています。近い将来、質的にも量的にもさらなる成長を遂げるでしょう。







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