こちらで紹介する法科大学院は年内に見込まれる設置認可を経て2004年4月に開設の運びです。従いまして、各法科大学院に関する記述は現時点で予定される範囲のものであり、今後の情勢により変動する場合があります。

 ひとつの裁判に長く時間がかかる。判決内容が杓子定規すぎて時代に合っていない。コンピューターによる犯罪など専門性が高い事件、外国(人)と関連する事件が増えて法的判断を示すのが容易ではなくなった。裁判官、検察官、弁護士の考え方は市民の感覚とどこかずれている。そもそも弁護士人口が少ない。しかも、彼らは都市に集中するため地方では弁護士が足りず困っている人が多い。司法試験の競争が厳しくなり受験技術優先の傾向が顕著になった……。
 裁判のあり方や法曹養成など司法制度については、長い間、批判的な意見が寄せられてきました。とくに現行の司法試験制度に対して改革を求める声は年々強まるばかりです。
 このような司法制度上の問題点を改革するために、2004年4月に法科大学院が設立されることになりました。
 司法制度改革審議会は次のように問題提起します。「21世紀の司法を支えるための人的基盤の整備としてプロフェッショナル法曹(裁判官、検察官、弁護士)の質と量を大幅に拡充することが不可欠」(02年の同審議会がまとめた『意見書』より)。つまり、日本の社会のなかで、国際化、規制緩和、高度な専門化に対応するために、質が高い法曹を育成するために法科大学院を作ることになったわけです。
 また、「大幅に拡充」するために、10年までに司法試験合格者を現在の4倍にあたる年間3千名とする目標が掲げられました。法科大学院修了後に受験することになる新しい司法試験の合格者枠が増えることになっています。これによって弁護士などの法曹が身近な存在になり、多くの市民が困難な問題に直面したとき、法律による公平、公正な問題解決がはかられることが期待されています。

 現在、全国で70〜80の大学が法科大学院設立に名乗りをあげています。1学年の定員300人という大規模校から50人弱という少規模校までさまざまです。
 法科大学院は法学未修者(3年制)、法学既修者(2年制)の2コースに分かれています。未修者は、経済学部や工学部出身者など学部時代に法律を学ばなかった学生が対象となります。一方既修者は、法学部で基本六法など法律基本知識を学んだ学生が対象となりますが、法学部出身者でも、未修者として法律の勉強をやり直す学生もいます。法科大学院によって、入試時に未修者、既修者の2コースを別枠で募集する場合と、入学してから学内選考試験で2コースに分ける場合があります。
 法科大学院の教育理念、カリキュラム、科目群を見てみましょう。
 教育理念として「市民の立場にたった法曹を養成」「人間の感情をよく理解できる法律家を育成」を目標に掲げているところが多く見られます。これらは、従来の司法試験対策では、暗記型受験勉強が求められるばかりで法律家としての適性、幅広い知識や教養が重視されなかったことへのアンチテーゼといえます。
 また、特徴のあるカリキュラムとして法曹実務、模擬裁判、法律事務所研修などが並んでいます。既存の法学教育が法律の解釈に偏ってしまい、訴訟の起こし方や内容証明の書き方といった基本的な法律実務を教えなかったことに対する反省がうかがえます。

 そこで、法科大学院は法曹現場に立脚した教育方法、教育内容を具体的に示しました。教育方法は法理論と知識の理解とともに、法律実務と問題の分析能力、解決能力を身につけさせるカリキュラムが組まれています。そして、司法制度改革審議会が提示した「少人数教育を基本として、事例研究、討論、調査、現場実習その他の適切な方法により授業を行うものとし、双方向的、多方向的で密度の濃いものとする」(前出の『意見書』)を受けて、各法科大学院では、25〜50人規模のクラス編成で授業が行われることになりました。

※これは現時点で公表されている入試情報などをもとに概略を図式化したものです。  詳細については統一適性試験実施機関や各法科大学院にお問い合わせください。
◎日弁連法務研究財団
  tel.03-5614-6287 http://www.jlf.or.jp/pre_mogi/touitu_yoko.shtml
◎大学入試センター
  tel.03-5453-6000 http://www.dnc.ac.jp/houka/houka_guide01.html
 「双方向・多方向」とは、教員と学生、学生と学生の間で議論を繰り返すことです。対話という形式がとられていることから「ソクラテスメソッド」と呼ばれることもあります。また、教員から示された事例(実際に起こった事件や仮の事件)について関連する判例を探索し、文献の調査、関係者や専門家への聴き取りなどによって、問題解決までのプロセスを学ぶ「ケースメソッド」を取り入れるところも少なくありません。
 教育内容は大きく分けて、(1)法律基本科目群、(2)実務基礎科目群、(3)基礎法学・隣接科目群、(4)展開・先端科目群を学ぶことになります。
 (1)の法律基本科目は公法系(憲法、行政法など)、民事系(民法、商法、民事訴訟法など)、刑事系(刑法、刑事訴訟法など)に分けられます。これらは法科大学院によって教育内容に大きな違いはありませんが、教え方に特徴が表れます。たとえば、法体系の理解度をチェックするためにペーパー試験、一問一答の口述試験、リポート提出を繰り返す。個人指導を徹底的に行い、学習上の弱点を克服させるなどです。
 (2)の基礎実務科目群では「リーガルクリニック」、「エクスターンシップ」などで法科大学院の指導方法に個性が出てきます。「リーガルクリニック」は、弁護士の指導のもとで、法律相談、事件内容の予備的聴き取りや事件の整理や関係法令の調査などを具体的な事例に則して学ぶことです。また、「エクスターンシップ」は、法律相談者との面接、説得の技法や交渉、調停、仲裁などの実務を学びます。いずれも法律事務所などでの研修になるため、法科大学院を開設する各大学の歴史や伝統が反映されたネットワーク力がものをいうことになります。
 (3)の基礎法学・隣接科目群では、法哲学、法社会学、アメリカ法、EU法、法思想史などを学びます。将来、欧米のロースクールと提携して欧米の法務資格が取得できるようなシステムを考えている法科大学院もあります。

 (4)の展開・先端科目群では、「ジェンダー」「医事法」「環境問題と法」「知的財産権」「金融取引と法」など今日的なテーマを取り組むことになります。たとえば、ジェンダーでは男女共同参画社会のあり方、女性の雇用問題、セクシャルハラスメントなどの問題解決方法について取り組みます。また、「金融取引と法」では、デリバティブ、集団的投資スキーム、セキュリタイゼーション(機密保持)、電子マネーによる決済など私法上の問題点、金融組織法及び業法上の規制について学びます。
 法科大学院の大きなセールスポイントに、実務家教員による指導があげられるでしょう。法科大学院は専任教員のうち実務家教員を2割程度配置しなければならないという、設置規則があります。元裁判官、元検察官、現職弁護士や税理士、元官庁事務官、企業の法務担当者などが教壇に立つことになります。
 実務家教員の強みは、担当した裁判の判決、検察及び弁護士業務、企業の渉外業務などの経験から、現実に行われている法の運用、手続きをそのまま教えることができること。法的判断の中で表れる人間の喜びや怒り、悲しみといった感情を伝えられることです。ここでは、市民感情、人権感覚が養われることが期待されています。学生は、こうした現実問題から自分がもっとも関心があるテーマを探求することができます。
 04年度に法科大学院へ入学する第1期生(2年制)が卒業する06年に、「新司法試験」が実施されることになります。試験概要はまだ発表されていませんが、法科大学院の教育内容が反映される問題が出るものと予想されています。
 法科大学院への注目度が高まるばかりです。私たち市民が、平和でしあわせな生活を送るために味方しくれる人材の養成が期待されているからです。

 


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