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特集記事: 2007年12月11日

特別寄稿『わが国の医療提供体制について最近考えている事』 日本医学会 会長 高久 史麿

 

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病院医療の危機の話題がメディアを賑わす様になって久しい。私の周りでも余りの忙しさにたまりかねて病院を辞め開業した医師の話を終始耳にしている。

事実、開業医が年間1万人近い割合で増えているという話も聴く。

高久先生写真1

私が勤務している大学の病院でも、救急外来の患者が平成4年に約8000人であったのに対して昨年は34,000人と、ここ15年間で約4倍以上(4.25倍)に増え、救急外来はパンク状態である。自分が子供の頃を思い出してみると、熱が出たりした時、先ず近所の開業医の先生に診てもらっていた。私自身も子供が小さい頃、熱を出したりすると家内と一緒に近所の小児科の開業医の所に連れて行き、家内が子供と一緒に診察室に行き、車の中で待っていた私が、家内に『先生は何と言っておられた?』と聞くというみっとも無い事をしていた。それが何時の間にかちょっとした発熱でも患者が直接病院に行き、病院の外来や救急が大混雑する様な状態になってしまった。一時期マスメディアに大病院では『3時間待って3分診療』という見出しで病院の診療体制を批判する記事がよく出ていたが、その通りだとすると、その医師は3時間で60人の患者を診ている事になり、正しく超人的な働き振りである。

 

私が勤務している自治医科大学は、僻地で働く医師を養成する事を目的として設立された医科大学であり、各県単位で選抜された学生は、卒業後、各出身都道府県に戻り、2年間の卒後研修の後、7年間、知事が指定する僻地・離島の診療所や病院で働く事が義務付けられている。僻地や離島で働く場合、その医師がその地域や島で唯一の医師である場合が少なくない。そのため自治医大は、開業以来学生が幅広い診療機能を持つ事を目的とした、所謂プライマリケアの教育に力を注いできた。自治医大のプライマリケア教育が文部科学省の『特色ある教育支援プログラム』に指定され、平成16年度から補助を受けているが、その一環として5年生全員が2週間各出身都道府県の先輩の診療所を訪れ、そこで指導を受ける院外実習を実施している。学生たちは終了後各自が報告書を出し、それをまとめたかなり分厚い冊子が毎年出ているが、学生の感想として多く述べられている事は、彼等、彼女等が実習した地域の診療所では、住民と医師との間に強い信頼関係があると言う事であった。これは学生達が今までの病院での実習では気づかなかった点であり、これこそが医療の原点ではないか、という極めて率直な意見が多かった。現在の様に多数患者が病院を直接訪れる様な状況で、医師と患者との間にその様な信頼関係を築くのはなかなか難しいであろう。

 

高久先生写真2

なぜこの様な状況になったのか?わが国の医療の特徴とされている患者が何処の診療所・病院でも自由に診療を受けられるフリーアクセスがその主要な原因となっていると考えられている。確かにフリーアクセスは患者側にとって大きな利点であるが、『3時間待って3分診療』という事になるとフリーアクセスの利点はなくなってしまう。昨今の報道で看護師に対する患者側からの暴言、暴行が問題になっていたが、医師も同様な被害にあっている。この様な状況下では本当の意味の医療が成り立たない事は自明である。

 私自身は重篤な急病の場合は別として、原則的には自分が信頼する開業医のところを訪れ、病気の状況に応じ開業医が病院を紹介する、又入院して病状が良くなれば開業医の所に戻ってもらい、場合によっては在宅医療を受けるという形をとるのが好ましい医療の提供体制であると考えている。事実この様な活動を実践しておられる開業医の方も多いと思うが、この点に関する一般の人たちの認識は未だ薄い様である。又あるジャーナリストの人は私に「そうは言っても身近な開業医の方が総合的な診療能力を持っているという保証があるのか」と反論された。開業医のことを日本医師会は従来『かかりつけ医』と呼んできたが、外国では家庭医と呼ばれる事が多い。又プライマリケア医、総合診療医、総合医等、その診療能力を示す形で呼ばれる事もある。

 

高久先生写真3

過日、厚生労働省が標榜科目の一つとして、『総合科』を例示し、その審査、認定を厚生労働省が行うと発表したために反発を受け、その後取り下げた経緯があったが、私個人の意見としては厚生労働省ではなく、医師の集団である日本医師会が従来行ってきた生涯カリキュラムの一貫として総合(診療)医の認定制を設けて、関連する学会の協力を得て、その審査と認定を行い、総合(診療)医の資格が一般の人に分かる様な看板として出せる様にした方が良いのではないかと考えている。勿論この様な制度の設立には多くの困難が予想される。しかし開業医→病院→開業医という医療提供体制の構築を目指すならば、上述の様な認定制を医師の集団自らが作る必要があるであろう。

 

 

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