高齢社会の進展とともに、変形性股関節症や関節リウマチなど、骨や関節の疾患は増加傾向にある。そうした中、日常生活に支障をきたす激しい痛みや歩行困難などのつらい症状を取り除く治療として人工股関節置換術への期待は益々高まっている。
わが国の人工股関節医療の現状
変形性股関節症や関節リウマチあるいは股関節周囲の骨折による歩行障害や寝たきりの生活に苦しんでいる方々にとって、人工股関節手術は大きな福音となっています。現在わが国では年間約7万件の人工股関節置換術あるいは人工骨頭置換術が行われています。さまざまな病気などで壊れてしまった関節や骨を再建して、痛みなく自由に活動できるようにするのが人工関節医療の役割です。
人工股関節手術の実際
人工骨頭置換術は大腿骨側だけの置換ですが、人工股関節置換術は骨盤側(屋根側)も置換する手術です。 骨に人工関節を固定する方法にはセメントを使用するタイプとセメントを使用しないタイプがあります。最近の傾向としてはセメントを使用しないタイプが主流になってきていますが、関節リウマチや高齢者で骨粗鬆症が進行した方には現在でもセメントを使う場合があります。
術式や麻酔、術後管理法が進歩し、手術の安全性は向上しています。最近では低侵襲手術、つまりできるだけ患者さんに負担のない優しい手術が普及してきました。一方で手術時の傷が小さいことを売り物にしている施設もありますが、重要なことはきちんとした手術を安全に行うことです。
最近の人工股関節手術ではその入院期間は2~4週間程度です。術後2~3日から歩行を始めることも珍しくありません。術後早期からリハビリを行うことで、早期退院、早期社会復帰が可能となります。手術には高額の費用がかかりますが、幸いわが国では国民皆保険の制度がありますので、実際の自己負担は多くの場合10万円前後となっています。
人工股関節手術の主な合併症
手術の合併症の中で怖いのが肺塞栓と感染です。肺塞栓というのは「エコノミークラス症候群」と同じで、稀ですが発症すると死に至ることのある重大な合併症です。万一の場合を考えると肥満や脳梗塞などの既往のある方は心臓血管外科や救急部のある総合病院での手術が望まれます。
手術時の感染率はクリーンルーム(無菌手術室)の普及などでおよそ1%前後となってきました。人工関節という異物があると通常の手術より感染しやすく、また治りにくくなります。
最近の人工股関節の寿命は80~90%の方が20年以上と考えられています。それまでは調子の良かった関節が痛み出したら要注意です。必ず定期的な検診を受けるとともに、もし痛みが出てきたら早めに受診することが必要です。
特殊な症例に対する 人工股関節手術
最近では、これまであまり行われなかった股関節固定後や股関節の完全脱臼にも手術を行う施設もあります。数十年以上、動かなかった股関節が動きだしたり、いわゆる先天性股関節脱臼の方が歩けるようになることも少なくありません。
人工関節には解決すべき問題も多いですが、疼痛、可動域制限、歩容の改善が期待できます。特殊な症例や再置換術は経験豊富で熟練した整形外科医が勤務する病院で受けることをお勧めします。
佛淵 孝夫
佐賀大学 医学部整形外科 教授
昭和54年九州大学医学部卒業。米国メイヨークリニック留学。九州大学整形外科助教授などを経て、平成10年から現職。 股関節の骨切り術を得意とし、難易度の高い人工関節手術にも取り組んでいる。年間の手術件数は400から500。手術待ちが1年数カ月となっている。










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