高齢社会の進展や生活様式の変化などにともない、前立腺がんはもっとも増えているがんの一つとして、その患者数の増加が懸念されている。そうした中、HIFU(高密度焦点式超音波法)は、超音波を利用し、前立腺疾患を切らずに治療することで大きな注目を集めている。
前立腺がんに対する HIFUの応用
医療における超音波の役割としては、診断用の手段として位置づけられているのが一般的ですが、最近では、超音波のエネルギーを治療に応用することが可能になっています。通常の超音波を、より強力にし、かつ虫眼鏡のように凹面のレンズから一定距離のある一点に集中させることができ、その焦点部分の温度は90度以上まで上昇させることができるのです。これが、高密度焦点式超音波(high-intensity focused ultrasound:HIFU)です。HIFUでは焦点から外れた部位では超音波密度が低いので、焦点領域以外の組織には熱による損傷がほとんど見られません。つまり、隣接臓器への熱による影響(合併症)が少ないという利点があります(図1)。前立腺疾患に対するHIFUの応用は1992年より前立腺肥大症に対する治療法として開始されましたが、1999年から前立腺がんにも応用が開始されました。治療は、全身麻酔または腰椎麻酔(下半身麻酔)のもと、治療器具(プローブ)を肛門から挿入し、前立腺全体を約2時間照射し、治療を終了いたします(図2)。通常は、3泊4日の入院期間で治療が可能です。
前立腺がんに対する HIFUの治療効果と特徴
本邦ではこれまでに1000人以上の前立腺がん患者さんがHIFU治療を受けられています。そのうち、治療後1年以上経過した530人の治療成績を集計いたしました。患者さんの年齢は平均68歳、前立腺癌の血液マーカーである血清PSA値の平均は10.4ng/ml(正常値4.0以下)でした。PSA値別に術後3年後の治療効果を集計したところ、10 ng/ml以下の方では82%、10~20 ng/mlの方では60%、20~30 ng/mlの方では53%と、特にPSA値が低い方の治療成績は、従来の開腹手術や放射線療法とほぼ同等の成績が得られております。前立腺がんに対するHIFU療法の長所としては、(1)身体に傷がつかない(出血がない)、(2)放射線治療などと異なり、繰り返し治療することが可能、(3)短期間の入院で治療が可能、(4)手技が簡単で一般泌尿器科医の知識と技能があれば比較的短期間で習得が可能、(5)治療効果に組織学的依存性がない、(6)導入費、治療費が比較的安価(ただし、現時点では保険診療未認可のため自費医療)であることなどが挙げられます。
HIFUの可能性
固形悪性腫瘍に対する標準的治療法は今日でも外科的切除であり、前立腺がんも例外ではありません。一方で、「がんを切らずに治す」という概念の低侵襲治療法は、前立腺がんに限らず医療現場に普及しつつあります。「がんを切らずに治す」治療法の最低条件としては、(1)患者さんへの苦痛、合併症が少ない、(2)入院期間が短い、(3)外科的切除と同等の治療成績が期待できる------以上の3点が挙げられるでしょう。HIFUという治療法は、この条件を満たす可能性を持った治療法の一つであり、多くの前立腺がん患者さんの治療のお役に立てればと願っております。
住友 誠
防衛医科大学校病院 泌尿器科
1991年慶應義塾大学医学部卒業
2004年防衛医科大学校泌尿器科学講座講師
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本泌尿器科学会腹腔鏡技術認定医
日本癌学会、日本癌治療学会会員
米国泌尿器科学会、米国癌学会、米国癌治療学会会員












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