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特集記事: 2008年1月31日 [ 「いい病院2008」 1月31日 掲載 ]

働き盛りの中高年を襲う「最新のうつ病治療」1人で悩まず専門医療機関の受診を
 
【監修】 医学ジャーナリスト 牧野 賢治
 
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WHO(世界保健機関)の2020年予測では、健康的な生活を妨げる原因の第2位がうつ病とされている。実際にうつ病患者は増加しており、現在うつ病をはじめとする気分障害の総患者数は約92万人にものぼり、この10年で2倍以上にもなっている。

増えるうつ病患者

うつ病は気力の低下や気分の落ちこみから「楽しい」「嬉しい」という気持ちが持てなくなり、自らの力でそんな心の状態を回復させることが難しくなる病気だ。アメリカ精神医学会の『DSM—IV—TR』という精神疾患の診断・統計マニュアルでは、男性、女性とも、一割くらいが、一生のうち一度は本格的なうつ病を発病すると指摘している。

うつ病は誰でもかかる病気だが、発病に気づきにくいというのが大きな問題だ。人間の気分や感情には波があり、気持ちが上向くときもあれば落ちこむときもある。うつ病が原因で気分が沈んだり、やる気がなくなったり、なにごとにも興味が持てなくなったりしても、本人はもちろん、周囲の人も「気のせい」「気持ちの持ちよう」「放っておけばそのうち元に戻る」と軽く考え、うつ病を放置して悪化させてしまうことが多い。

日本ではうつ病の人は少なくても500万人以上に上るといわれている。しかし、病院で治療を受けているのは約5人に1人で、大半の人は適切な治療を受けずに苦しんでいる。

特に多いのは、最近、急増している軽症うつ病の人だ。うつ病は軽症・中等症・重症の3段階に分けられるが、軽症うつ病はうつ気分などの「病感」を有していても、うつ病であるという「病識」が得られないまま、しばしば病状を悪化させてしまうのである。

気力の低下、食欲減退、不眠、絶望感

うつ病が気づきにくいのは、日常的に経験する軽い気分の落ちこみから、うつ病と認められる強い抑うつ感まで連続的に変化するため、両者の間に明確な境界線が引きにくいからだ。しかし、うつ病か否かを見分けるのは可能で、そのさらにわかりやすい目安が意外にも身体症状なのである。

うつ病のもっとも多い身体症状としては、第1に寝た気がしないという睡眠障害があげられる。寝付きがよくないことはもちろん、入眠しても眠りが浅い、そのため深夜に目覚めてしまう、目覚めたらなかなか眠られないといったことが続いて寝た気がしないため、最悪の気分で朝を迎えることになる。

第2としては、食欲不振があげられる。食べてもおいしくない、砂をかんでいるような感じで、食事を積極的に摂らなくなる。

第3としては、全身倦怠感やおっくう感があげられる。体がだるくて、なにごともやる気が起きない。

第4としては、重苦しい痛みがあげられる。頭やこめかみが痛い、首筋が痛い、肩が張る、腰が痛いといった症状だ。

心の不調よりも身体的不調のほうが気づきやすい。先述した4つの身体的症状に気づいたら心のほうにも目を向けて、うつ病の疑いが強いと思ったら精神科や心療内科を受診することが大切だ。

最近は睡眠障害や食欲不振、全身倦怠感などの身体的症状が前面に現れ、その背後に隠された抑うつ感や、興味や楽しみの喪失といった心の症状に気づかないケースが多い。身体的症状という仮面をつけていることから「仮面うつ病」と呼ばれている。

日常的ストレスと発症の関連性

うつ病の人をクルマにたとえると、いわばガソリン不足が生じている状態だ。エンジンはもちろん、車体や電気系統も故障していないのだけれど、ガソリンがないから動けない状態に陥っている。うつ病を治すには、なによりもまずガソリンを溜めこむ必要がある。

ガソリンを溜めこむうつ病治療のポイントは、次の3つがあげられる。1つは心の休養をとること、もう1つは抗うつ薬などの薬物療法を受けること、あと1つは周りの人からのサポートを受けることだ。

心の休養をとるという治療の第1のポイントは、会いたくない人には会わない、出たくない電話には出ない、先に延ばせることは先に延ばしていまは行わない、といったことを実践することである。

うつ病になるのは、なにもしないのが苦痛となる人に多い。遮二無二頑張ってしまったことが、うつ病になった原因ならば、なにもしないで心を休ませることがもっとも重要である。「やらねばならない」という考え方から、「やりたいことを先にやる」という考え方に転換していくことも必要だ。

より高い効果で副作用も少ないSSRI、SNRI

心が疲れているときは脳も疲れている。脳の疲れをとるのが抗うつ薬などによる薬物療法で、第2の治療のポイントである。

もう少し詳しく解説すると、脳は1,000億以上の神経細胞の塊で、神経細胞と神経細胞の接合部位にシナプスと呼ばれる細胞がある。このシナプス間で神経伝達物質の放出・吸収が行われることで、情報が伝えられる。神経伝達物質にはさまざまな種類があるが、その中でもセロトニンやノルアドレナリンの不足がうつ病の発病に大きく関係していると考えられている。

セロトニンは気分や感情を安定させ、心の不安を和らげる働きがある。ノルアドレナリンは心を元気にしたり、活力をアップさせたりする作用がある。抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンの不足を補い、うつ病からの回復を助ける薬なのである。

抗うつ薬には1950年代から使われている三環系抗うつ薬と、60年代に開発された四環系抗うつ薬、さらにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などいくつかのタイプがある。最近は副作用の少ないSSRIがよく使われるようになった。SNRIは意気消沈がひどく、気力を先に持ちあげる必要があるときなどに処方される。

心の休養を十分にとることがうつ病対策には大切だが、抗うつ薬の服用によって治療期間を短縮させることができる。主治医の指示通りに服用すれば、副作用も軽微な安全な薬といえるだろう。

(図)うつ病と抗うつ薬の作用

周囲の人々の理解も重要

うつ病の治療の第3のポイントは周りの人からサポートを受けることだ。

うつ病の人は拒否的な態度をとらないことが大切である。「人に助けてもらったらすまない」という気持ちを持つのではなく、「助けてもらってありがたい」という気持ちを持つことが重要だ。

可能であれば、うつ病であることをカミングアウトしたほうがよい。もともとうつ病の患者さんは仕事もできて、信頼感もあることが多いから、周りの人から援助サポートを受けやすい。 「ちょっと具合が悪いんだよ」「その仕事は手持ちの仕事を片づけてからでいいかなぁ」と素直に自分の具合が悪いことを明かして、サポートを求めることが必要だ。(1)心の休養、(2)抗うつ薬の服用、(3)サポートを受けるという3つのポイントをきちんと守れば、うつ病の改善が期待できる。

うつ病は早期に治療を受ければ受けるほど改善しやすい。うつ病と思ったら、ためらわずに精神科や心療内科を受診することが大切である。

【文/松沢 実】

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