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特集記事: 2008年1月31日 [ 「いい病院2008」 1月31日 掲載 ]

冠動脈疾患の早期発見・早期治療「64列マルチスライスCT検査」からだにやさしくより安全な検査へ
 
【監修】 医学ジャーナリスト 牧野 賢治
 
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医療機器の進歩により、より体に低侵襲(ていしんしゅう)の検査が普及しつつある。中でも、最新の64列マルチスライスCT検査は、比較的体への負担が大きい心臓カテーテル検査に代わって冠動脈造影検査を行うことができ、大きな期待を集めている。

64列マルチスライスCT検査とは

(1)がん、(2)心臓病、(3)脳卒中は日本人の3大死因だが、毎年約15万人が亡くなる心臓病の早期発見と、診断に強力な助っ人が登場した。最新型のCT(コンピュータ断層撮影装置)の「64列マルチスライスCT」だ。

虚血性心疾患と呼ばれる心臓病は、心臓の筋肉に酸素と栄養を供給する冠動脈の狭窄や一時的閉塞で生じる狭心症と、冠動脈の完全な閉塞から起こる心筋梗塞の2つがある。いずれも心電図検査や心臓超音波検査、心筋シンチグラフィーなどの検査が行われるが、診断を確実なものにすると同時に治療方針を立てる決め手となるのが冠動脈造影検査である。心臓の冠動脈のどこが狭窄しているか、閉塞しているのか、正確に箇所や程度を確認できるからである。

冠動脈造影検査は心臓カテーテル検査ともいわれる。足の付け根の大腿動脈やひじの上腕動脈などから直径1.5~2mmの細い管(カテーテル)を挿入し、その先端を心臓の冠動脈まで進め、造影剤を注入して血管や血流の様子をX線で撮影する検査だ。

心臓カテーテル検査では、患者に少なからぬ侵襲と肉体的負担を与えてしまうが、こうした難点を避けて、患者に優しい低侵襲の冠動脈検査を実現したのが64列マルチスライスCTだ。

1970年代に開発されたCTは、X線を発生・照射するX線管球とそれを受けとめる検出器の2つが基本的な構成要素である。当初のCTはX線ビームを照射するX線管球と1列の検出器から構成され、双方を対向させながら人体のX線吸収値を測定し、その情報をコンピュータ処理することで人体組織の横断面の断層画像が得られた。その後、ベッドを中心にX線管球と検出器を連続回転させながら、同時にベッドを前後方向に移動させることで、人体の立体的なデータが得られるようになった。人体から見るとX線管球がラセン状に動くことからヘリカルCTと呼ばれ、画像解析ソフトの進化もあって、任意の断面画像や3次元立体画像を映し出すことが可能になった。

ヘリカルCTはさらに進化し、扇状にX線を照射できるX線管球がつくられ、検出器も体軸方向に2列へと増やされた。そうなると、ある一定幅の人体の断層画像データは、それまでの2分の1の時間で得られることになる。つまり、検出器が1列の1回転1秒のヘリカルCTでは、100mmの範囲を5mm幅でスライスしながら撮像しようとすると20秒の時間がかかる。しかし、検出器が2列搭載されたヘリカルCTなら、1回転1秒で2つ分の5mm幅(10mm)を撮像できるから半分の10秒で済んでしまう。

検出器の配列を増やし、X線ビームをより広く扇状に照射することによって、より短時間に、より精密な断層画像や3次元画像が得られるようになる。これがマルチスライスCTだ。マルチスライスCTはその後、検出器の搭載台数を4列、8列、16列、32列、40列と増やす多列化が進んだ。そして、ついに64列の検出器を搭載するに至ったのが64列マルチスライスCTである。

64列マルチスライスCT検査

64列マルチスライスCTは、数秒のうちに人体の多数の断層画像データを得られるため、動いている臓器でも鮮明な断層画像が撮れるようになった。動いている代表的な臓器が心臓だ。心臓は胸郭の中に存在しているので、呼吸のたびに上下に動く。そのうえ心臓自体が拍動しているため、冠動脈の正確なCT画像を撮るのは困難とされていたが、64列マルチスライスCTによって、これまでにない鮮明なCT画像の撮影が可能になったのである。

事実、32列のマルチスライスCTで冠動脈の狭窄箇所の画像を得ようとすると、10~15秒の息止めが必要となる。そのうえ不整脈があったり、心拍数が遅すぎたり速すぎたりすると、画像の乱れから冠動脈の狭窄の程度などを正確に確認することは難しい。

一方、64列マルチスライスCTはごく数秒の息止めで撮像が可能だ。加えて、不整脈などがあっても、狭窄の程度などを正しく読みとれる画像が作成される。治療方針を立てるのに不可欠な情報がすみやかに得られるのである64列マルチスライスCTは、心臓カテーテル検査と同じように造影剤を用いるものの、手の静脈から点滴投与するだけ。動脈にカテーテルを挿入するわけではないので、検査に伴う動脈の損傷や出血、血栓などの合併症の危険はほとんどない。検査後の特別な止血や安静なども不要となり、その日のうちに帰宅できる。心臓カテーテル検査をためらう患者が多いのは、侵襲が大きいうえに、入院を要することがあげられる。その結果、診断や治療が遅れ、発作を起こして救急車で病院へ運びこまれる事態も起きる。外来で受けられる64列マルチスライスCT検査はそうした患者にとって力強い助っ人なのである。また、造影剤にアレルギーを示す患者でも、単純CT検査として行える。ある程度の冠動脈の状態の把握や、狭窄箇所の有無などを判断するのに適しているので、造影剤アレルギーの患者も利用できる。

64列マルチスライスCTは心臓の冠動脈の検査にもっとも威力を発揮するが、大動脈や腹部、頭頸部、下肢など全身の血管の検査にも役立つ。とりわけ手術前の精査に行われていた血管造影検査は、今後、64列マルチスライスCTに置き換わると期待されている。血管造影検査と同等か、それ以上の情報が得られるからだ。

一方、64列マルチスライスCTで得られる精密な3次元画像は、膝やひじ、股関節などの整形外科領域の診断や治療にも役立つ。個々の疾患の原因などを正確に把握するのに有用であるため、広く活用されていくことになるだろう。

狭心症の検査方法比較
  心臓カテーテル検査 64列マルチスライスCT
動脈損傷、脳梗塞などの
合併症の危険性・検査に
伴う出血の危険性
あり なし
造影剤アレルギーの危険性 あり あり
(単純CT使用の場合はなし)
検査時間 30分~1時間 10秒以内(撮影)
入院の必要性 あり
(日帰りでも数時間は病院に拘束される)
なし
外来での検査 不可能 可能
検査後の当日運転 不可能 可能
費用 [国保・社保]
(3割負担)
5~10万円 9,000円~1万円
検査の信頼性 高度 高度
不整脈・心筋症による
検査の限界
なし なし

マルチスライスCTは、ここ数年で著しい進化を成し遂げた。X線の被曝を低減させるソフトウエアも開発され、必要最小限の被曝線量で優れたCT画像が得られるようになった。64列マルチスライスCTは先進の、患者に非常に優しい低侵襲なCTといえるだろう。

【文・松沢 実】

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