MRAの実現で急速に普及
脳卒中などの予防を目的とする脳ドックは、1988年に札幌の脳外科病院で「脳の人間ドック」として始められました。最初はMRI(磁気共鳴画像)によるMRA(血管造影(ぞうえい))ができなかったため、カテーテルが使われました。
体に侵襲を与えてまで血管造影が行われたのは、破裂する前に脳動脈瘤を発見するためです。それは動脈瘤が破裂して起こるくも膜下出血(約50%の死亡)を、脳外科医は何とか予防したいと考えたからです。
90年代に入り、MRAが可能になり、脳ドックは急速に普及しました。受診者には、MRIによる脳梗塞と脳の萎縮の診断、MRAによる未破裂脳動脈瘤の発見と、血圧、心電図、血液検査やさまざまな認知症診断などで、脳疾患の危険因子を診断します。脳卒中危険因子としては、(1)高血圧、(2)糖尿病、(3)高脂血症、(4)心房細動、(5)肥満、(6)喫煙、(7)飲酒、(8)運動不足、が挙げられます。診断と同時に、脳卒中予防のための対応など、受診者に説明、指導することも重要です。
検査後、無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)が発見された場合、前述の危険因子への対応が特に重要となります(図1)。また、未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、その大きさ、形、場所、年齢などを勘案して治療(手術、あるいはカテーテルによる治療)の必要性を慎重に検討します(図2)。現状では治療が必要なしと判断された場合は、最初は6ヵ月後、その後は年1回の画像診断を行い、その大きさの変化を追跡すると同時に、禁煙と高血圧治療を徹底します。


予防のための脳ドック
日本脳ドック学会は、脳ドックが新しい予防医学の分野として正しい進歩を遂げることを目的に、1997年に「脳ドックガイドライン」を作成、2003年に改訂(ネットで閲覧可)しましたが、来年さらに改訂を予定しています。
中高年者で家族歴、高血圧、肥満その他の危険因子を有する人に受診をお勧めしたいと思います。親兄弟に、くも膜下出血になった方がいる場合は、ない方と比較して5倍程度の未破裂脳動脈瘤が発見されています。脳ドックでは受診者の約3%に未破裂動脈瘤、約10%に脳梗塞が見つかりますので、受診前にそのような可能性を理解し、発見されたら「予防するのだ」と前向きに捉えてほしいと思います。
我々の病院を受診された方を対象にした調査では、60歳以上の200人の方を5年以上追跡した結果、脳卒中になられた方はわずか2人にとどまっています。脳ドック受診を契機に脳卒中予防への関心と意識が向上し、健康に一層留意された結果とも考えられます。
脳ドックを受診されると脳卒中の予防につながります。「脳ドック」へどうぞ。
斉藤 勇
日本脳ドック学会 理事長
財団法人 富士脳障害研究所附属病院 理事長
1963年東京大学医学部卒業。脳神経外科を専攻。
杏林大学脳神経外科教授を経て、財団法人富士脳障害研究所附属病院理事長。
日本脳卒中学会会長、脳ドック学会会長などを努め、現在、日本脳ドック学会理事長。