日帰り手術は、従来、1週間から10日ぐらいの入院で行っていた手術が、当日あるいは翌日退院できるようにシステム化したものだ。日帰り手術が普及しているアメリカの病院では、手術の約8割が日帰りで実施されるといわれる。最先端の日帰り手術例として、痔核(じかく)(外科・肛門科)、白内障(眼科)、尿路結石と膀胱腫瘍(ぼうこうしゅよう)(泌尿器科)について取り上げる。
肉体的にも精神的にも患者の負担を軽くする
日帰り手術の最大のメリットは、肉体的負担のない、体に優しい「低侵襲治療」といえる。医療費も節約できる。手術当日に帰宅できれば、入院費が不要になり、治療費は従来に比べて2~5割安くなるとされている。
また、手術に伴う拘束時間が大幅に短くなるため、仕事が忙しく、長期の休暇が取りにくいビジネスマンや自営業の人、病院になじめない子どもやお年寄り、あるいは介護などで長期間、家を空けることのできない人などからの支持が増えている。
日帰りであるため、入院に備えて、仕事や家事の段取りをしたり、入院用具を準備したりというわずらわしさがなくなり、精神的な負担が軽くなるのも魅力の一つだ。
外科(肛門科)
痔核
痔核(いぼ痔)は、直腸肛門周辺の血行不良などによって、静脈叢(細い静脈の密集している部分)が、いぼのように膨らんだもので、肛門内の歯状線(ヒダヒダの組織)の外側にできたものを外痔核、内側のものを内痔核という。
最近では「PPH法」という治療法が日帰り手術を可能にした。痔核用サーキュラースティプラーという自動縫合器を使って緩んだ直腸粘膜の切除と縫合を同時に行い、痔核に血液を注ぐ血管を遮断し、痔核を消し去る方法で、痛みは大幅に軽減される。そのほか、レーザー光線を吸収する性質があるICGと呼ばれる色素(人体には無害)を痔核に注入し、そこに半導体レーザーを照射して痔核だけを焼き切る「ICG併用半導体レーザー療法」がある。
眼科
白内障
白内障は、目の中でレンズの役割をしている水晶体が白く濁って、ものがかすんだり、だぶったり、まぶしさを感じたりする病気で、最も多いのは加齢に伴う老人性白内障だ。
超音波水晶体乳化吸引装置を用いた小切開白内障手術と折りたたみ眼内レンズの開発により日帰り手術が可能になった。超音波装置を用いて水晶体を破砕、吸引・除去し、人工の眼内レンズを挿入する。手術は10~20分程度で終わる。
泌尿器科
尿管結石
尿中のカルシウムとシュウ酸が結びつき、腎臓の内部で石が生成される。それが流れ出て細い尿管に詰まる病気が尿管結石だ。尿管に結石が詰まると、腰や背中に激痛がはしり、血尿が出たりする。
尿管結石の治療では、体の外から衝撃波(大きなエネルギーの音波の一種)を結石に集中的に当てて小さく砕き、尿と一緒に排出させる「体外衝撃波結石破砕術」(ESWL)が成果を上げている。
膀胱腫瘍
膀胱内に発生したできものを膀胱腫瘍という。症状は、無痛性血尿といって尿に血液が混じったりする。
小さい表在性の膀胱腫瘍に対しては、経尿道的膀胱腫瘍切除術を行う。これは専用の内視鏡を尿道口より膀胱まで挿入し、モニターに映し出された膀胱内の映像を見ながら操作。内視鏡に組み込まれている小さな電気メスで腫瘍を切除したり、小さな鉗子を用いて腫瘍や膀胱粘膜をつまんで処置する。
【文/秋山 晴康】