歯列不正による口腔(こうくう)機能への影響
平成17年歯科疾患実態調査では、歯並びの悪い人は意外と多く、「乱ぐい歯」と呼ばれる叢生(そうせい)だけでも12歳以上20歳未満の約40%が罹患(りかん)しています。歯列不正は特殊な疾患ではありません。歯列不正を治す矯正治療にはいろいろな治療法があります。
歯と歯の重なる叢生は、顎と歯の大きさの不一致から発症します。この不一致を解消するために、上下左右の第一小臼歯4歯を抜歯して調和をはかり、ワイヤーで歯列を整える治療法があります。
小臼歯の幅径は約7ミリですから、左右の小臼歯を抜歯すると14ミリのスペースができます。5ミリの歯の重なりの叢生に対して14ミリのスペースを作ると余分なスペースができ、これを縮小すると歯列は狭くなります。口の中は歯列だけでなく、軟組織、舌が協調しあって形成されています。よって、歯列により噛むことだけではなく、舌が正しく機能するスペースが必要です。歯列が狭まれば正しい口腔の機能が阻害されます。
子どもの時に歯科医院で矯正治療を受診しようとすると「様子を見ましょう」と言われることがあります。第一小臼歯は10歳後半から生えますから、これ以前の抜歯矯正はできません。乳歯をむし歯にならないように予防して、歯並びが悪いからといって永久歯を抜くのは納得できないと言うお母さんもいます。
床装置を使った矯正治療
他の矯正治療の治療法としてドイツで考案された床矯正(しょうきょうせい)治療の方法があります。入れ歯のことを義歯床(ぎししょう)と表現することから、入れ歯のような床を使用した矯正装置のために「床矯正」と呼ばれます。
これは、入れ歯と同様に取り外しのできる矯正器具です。床矯正治療は床装置の中にネジが組み込まれ、ネジを回転することで床装置が可動し、顎や歯を移動して歯並びを治す治療法です。1カ月に1ミリの拡大が可能ですから、5ミリの歯の重なりは5カ月で解消できます。
床矯正治療は顎と歯の大きさの不一致を、必要な量だけ顎を拡大し、歯を移動して解消できる利点があります。歯の大きさは個性ですから、身長と同じに大きな歯の方も、小さな歯の方もいます。大きな歯の方は大きな歯に見あった顎に、萎縮した小さな顎ならば正常な顎に育成すれば歯列不正は発症しません。
正しい機能があれば顎は正しい大きさに発育します。床矯正治療における顎の拡大処置だけではなく、本来は噛む刺激で顎を育成することが大切です。発育できなかった顎は床矯正治療で機械的に拡大します。早期の治療開始が大切です。
早めの治療開始を
叢生の70%は前歯に発症しますから、前歯が永久歯に変わる6歳から7歳までに判明します。この年齢のお母さんはお子さんの口にいちばん関心のある時期でもあり、早期に歯列不正を見つけることができます。前歯の重なりを床矯正治療で拡大し、解消すれば治療は終了します。前歯の重なりを放置すれば、曲がった前歯に沿って犬歯が生えて、さらに複雑な歯列不正がおこります。
9歳までの子どもの歯列不正は前歯だけの歯列不正ですから、叢生ならば、床装置で必要量を側方に拡大し、反対咬合ならば前歯を床装置で前方に移動すれば、比較的簡単に治癒をします。床矯正治療は患者さんに対して優しい治療法です。
鈴木 設矢 (すずき せつや)
床矯正研究会主幹
1974年日本歯科大学歯学部卒業。
78年同大学大学院歯科保存学修了。
その後、鈴木歯科医院を開業。
81~86年同大学保存学教室講師(非常勤)を兼任。
97年~同大学歯周病学教室講師(非常勤)を兼任。
2000年床矯正研究会設立。