漢方専門医とは
漢方医学は、約1500年前に日本に伝来した中国古来の医学を、日本人に合うよう独自に発展させたものです。人間の体を臓器、細胞、遺伝子へと細分化して病気の原因を究明する現代医学とは異なり、心も含めた病人全体を治療するという方針をとります。
漢方は、現代医学の基となる西洋医学が重視された明治時代以降、一時的に衰退しました。現代医学の発達により、それまで治らなかった病気も治るようになりましたが、まだ十分な治療法のない病気や、特異体質で治療が困難な場合などもあります。そこで、現代医学とは異なる視点から治療を行う漢方が近年再び注目されるようになりました。1976年以降、保険適用される漢方製剤は大幅に増え、現在では多くの医療機関で用いられて、医学部でも漢方の講義が行われるようになりました。
漢方薬を正しく使うためには、漢方医学の知識や診断技術を修得するだけでなく、現代医学の基礎も身に付け、その得意な部分は活かせなくてはなりません。漢方専門医は日本東洋医学会による一定の選考基準を満たし、こうした知識や技術があると認められた漢方の専門家です。漢方薬の効果を最大限に得るためには、病人の状態をよく見極めて、適切に使うことのできる漢方専門医に処方してもらうのがよいでしょう。
一人ひとりに合った治療法
漢方治療では、心身全体のバランスを補正して、人が本来持っている自然治癒力を高めることを重視します。患者さんそれぞれの病態や体質に合った漢方薬を処方するためには、「証」といわれる漢方医学的な病態診断が重要です。
証を表す尺度としては、体力が病気より劣勢で体の冷えている「陰証」か、体力が病気より優勢で体にのぼせや火照りのある「陽証」のどちらに属するかが基本です。さらに体力や抵抗力の充実度を示す「虚実」などの基準を用いて全身を診断していきます。
証が決まれば同時に治療法も決まります。例えば、女性に多く見られる冷え性は、現代医学では原因の不明な場合も少なくありませんが、漢方では熱の産生が不十分になる陰証と診断されるのがほとんどです。従って、体を温める作用がある漢方薬を用いて全体のバランスを整えるなどの処置をとるのです。また、日常生活においても陰性の食品(冷たい物や生もの、酢など)を避ける、適度な運動をする、不自然に体を冷やさない、過剰に温めない、などといったことを心がけるとよいとされます。
漢方は、病名ではなく、全身のバランスに合わせて処方を決めるため、自覚症状があるのに異常が見つからない不定愁訴や、病気には至らない不調感など、現代医学では治療が難しいとされる病気にも対処できます。治療にあたっては、全身の状態を重視しているため、治して欲しい症状や病気に関係のないような症状についても、詳しくお話しください。
三潴 忠道 (みつま ただみち)
(社)日本東洋医学会/専門医制度委員会 担当理事
麻生飯塚病院 漢方診療科 部長
医学博士。
千葉大学医学部卒業。
同大学医学部附属病院第2内科、国保旭中央病院内科などを経て、
2002年に麻生飯塚病院東洋医学センター所長に就任。
漢方診療科部長、ももち東洋クリニック顧問を兼任。
日本東洋医学会では専門医制度委員会を担当する。