男女ともに死亡率が増加している大腸がん
大腸がんは1960年代以降、肺がんと並んで死亡率が増加しているがんです。がんの部位別に見た死亡率は、男性では肺がん、胃がん、肝臓がんに続く第4位ですが、女性では第1位となっています(厚生労働省・平成18年人口動態統計)。特に女性の死亡率の高さはあまり知られていません。
大腸がんは腸壁への深達度により、早期がんと進行がんに分類できます。大腸の表面にある粘膜と、その下の粘膜下層に止まっているものが早期がん、さらにその下の固有筋層に到達したものや、それ以上に深く浸潤したものが進行がんです。
また、大腸に見られる他の病変の一つにポリープがあります。ポリープとは皮膚や粘膜の表面に生じる隆起した病変の総称で、大腸に発生するものの多くは腫瘍性です。腫瘍性のポリープは将来的にがん化する可能性があると考えられているため、良性悪性を問わず治療の対象になります。
開腹せずに大腸がんポリープを治療
粘膜や粘膜下層の浅い部分に生じたがんとポリープは内視鏡による治療が可能で、その際に用いられるのがポリペクトミーです。この手技では高周波スネアという内視鏡の先端から出すワイヤーを使用します。高周波電流を流すと高熱が発生するので、それを病変の根元にかけ、切除すると同時に血管を焼灼して止血します。
病変には隆起が低いものや、陥凹(かんおう)性の早期がんと呼ばれるような陥没したものもあります。そのままでは高周波スネアをかけることができないため、まず周囲に生理食塩水などを注射します。粘膜と筋肉の間に水が入ることで病変が浮かび上がるため、あとはポリペクトミー同様の手順で切除します。この手技をEMR(内視鏡的粘膜切除術)と呼びます。

このような内視鏡手術は開腹する手術に比べ低侵襲で、入院もほとんど必要ありません。ただ、病変を切除するので、腸の蠕動などで焼灼された箇所が剥がれ、出血を生じる場合もまれに起こります。そのため、手術後3日間は食事制限をし、自宅で安静にする必要があります。1週間位はスポーツや飲酒など、腸に負担をかける行為も控えなければなりません。また、アスピリンなどの抗血小板薬を飲んでいる方は手術の1週間前から中止する必要があります。
大腸がんの早期発見に不可欠な内視鏡検査
大腸がんは早期に発見できれば、ほぼ完治するため、定期的に検診を受けるのが望ましいといえます。大腸がんの検診で広く実施されているのは、便を見て血液の有無を調べる便潜血検査で、これだけでも臨床症状や自覚症状のないがんを発見できます。
ただ、早期がんは出血を伴わない場合が多く、便潜血検査で発見できるとは限りません。早期に発見するためには内視鏡検査が確実です。内視鏡検査というと、苦しい印象を受けるかもしれませんが、現在では内視鏡医の技術向上や、鎮静剤を静脈注射して浅い睡眠状態にするセデーション(意識下鎮静法)の併用などにより、苦痛を極力抑えられるようになりました。大腸がんの罹患率が高くなる中高年の方は、内視鏡手術による治療が可能な段階でがんを発見するためにも、内視鏡検査を定期的に受けるとよいでしょう。
佐竹 儀治(さたけ よしはる)
田坂記念クリニック 院長
昭和大学医学部客員教授。2000年より田坂記念クリニック院長に就任。胃・大腸の内視鏡による検査において、これまでに数多くのポリープ、がんの発見・治療を手がけている。