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特集記事: 2008年5月27日 [ 週刊朝日 2008年6月6日号 掲載 ]

関節の機能を回復してQOLを向上させる 人工関節置換術の進歩特集

佛淵 孝夫先生写真

【特別寄稿】

佐賀大学整形外科

佛淵 孝夫(ほとけぶち たかお)

菊地 忠志先生写真

【特別寄稿】

坂下厚生総合病院 整形外科 部長

菊地 忠志(きくち ただし)

 
【特別寄稿 1】
佐賀大学整形外科
佛淵 孝夫
***

骨関節疾患を治療する人工関節置換術

人間の尊厳やQOL(生活の質)が叫ばれる現代、高齢化とともに多発するさまざまな骨関節疾患は重大な問題です。代表的な疾患は変形性関節症や関節リウマチであり、年間約3万件の人工股関節置換術が行われています。最近の人工関節医療は進歩しており、股関節の痛みなどで長年歩行に不自由していた方を高率かつ劇的に改善できます。手術には保険や高額療養費制度が適用され、自己負担は多くの場合10万円前後となっています。

人工股関節置換術の最近の話題

できるだけ小さな傷で患者さんに優しい低侵襲手術が普及してきました。「MIS(最小侵襲手術)」と称して、傷が小さいことを売り物にする施設もありますが、重要なのはきちんとした手術を安全に行うことです。実際には多くの施設で12cm前後の皮膚切開で手術を行っており、これを6~8cmにしたところであまり利点はありません。むしろ合併症の危険性が高まることもあります。

最近の人工股関節手術では傷の大きさに限らず、入院期間は2~4週間程度です。術後2~3日で歩行を始めることも珍しくありません。早期からリハビリを行うことで筋力の低下を防ぐとともに、より早期に退院でき、短時間での社会復帰を可能とします。

さらに、人工関節の機能と手術技能が向上した最近では、これまで推奨されなかった特殊な病気に対しても手術が行われるようになってきました。数十年以上全く動かなかった関節が手術によって再び動く可能性があります。先天性股関節脱臼で子どものころから足の長さが数cm以上短かった方が、人工関節によってきれいに歩けるようになることも少なくありません。

60年来の股関節強直(完全に固まって動かない状態)に対する人工股関節手術。手術後、腰の痛みも取れ、歩行が楽になった。
幼少時から完全に脱臼していた股関節に対する人工股関節手術。術後(写真右)は痛みがとれ、歩き方も改善した。身長は約6センチメートル高くなった。

人工関節の怖い合併症と対策

手術の合併症の中で最も怖いのが肺塞栓です。「エコノミークラス症候群」としても有名で、死に至ることもあります。ほとんどの病院で予防対策が採られており、術後早期からの離床や足首の運動に加え、血流を改善する足のポンプや弾力ストッキングなどの装着が推奨されています。最近は肺塞栓予防の薬剤も使用可能ですが、肥満や脳梗塞などの危険因子のある方は心臓血管外科や救急部のある総合病院での手術が無難かもしれません。

アンケート調査から見えてきた人工関節の課題

以前は人工股関節置換術の最大の目的は「痛みを取る」ことでしたが、最近では他に「きれいに歩く」や「これまでの趣味やスポーツを続ける」などが新たな目的になっており、職場復帰やスポーツ復帰も実現しています。

人工関節には解決すべき問題も多いですが、疼痛、可動域制限、歩容の改善が期待できます。特殊な病気に対する手術は難易度が高いですが、患者さんやご家族の満足度が高い手術です。

【特別寄稿 2】
坂下厚生総合病院 整形外科 部長
菊地 忠志

人工膝関節置換術の普及

人工膝関節置換術は、主に変形性膝関節症や関節リウマチの患者さんで、膝の強い痛みのために歩行障害が生じた場合に行われます。現在国内では年間約5万件行われており、毎年1割ずつ増加しています。手術により、膝の痛みは劇的に改善するため、日常生活動作が著しく制限されていた方でも、旅行に出かけたり、趣味の園芸やゲートボールができるようになったりするなど、QOLの質が大幅に改善されます。

  • 手術の方法
    膝関節の傷んだ骨と軟骨を一定の厚みで削り、金属とポリエチレンでできた人工関節を骨の表面に設置します。近年、創(きず)や筋肉の切開が少ないMISが普及しつつありますが、十分に確立された方法ではなく、手術時間が延び、合併症の発生率もやや高まる傾向があります。
  • 合併症
    感染が最も重大な合併症です。通常、人工関節の抜去を要し、感染が治まった時点で人工関節の再置換術が行われ、長期の入院が必要となります。その他、肺塞栓症があります。主に下肢の静脈にできた血の塊が、血管の中を移動し、肺の血管に詰まり発症します。極めてまれですが死亡することもあります。
  • 入院期間
    病院により異なりますが、当院では片膝で2週間、両膝で5週間程度です。
  • リハビリ
    歩行訓練と膝を曲げる訓練を中心に行います。初めは歩行器を用いて行い、1本杖歩行が安定したら退院となります。退院後には自宅でリハビリを継続して行っていただきます。
  • 費 用
    保険と高額療養費制度が適用になり、片膝で10万円、両膝では20万円が目安です。所得や入院期間により異なりますので事前に確認が必要です。
  • 人工膝関節の耐久性
    手術技術や材料の改良で、人工関節の耐久性は徐々に増しています。手術が適切に行われて感染などの合併症がなければ、再手術の必要性は極めて少ないと考えています。
  • 手術後の定期受診
    手術後の定期受診は重要です。痛みが残っていないか、関節機能が十分に改善し、維持しているか、エックス線上問題が生じていないか、定期的に確認する必要があります。問題が発生しても、早期に対処するほど容易に解決することができます。
  • 人工膝関節治療の現況
    本手術は徐々に普及してきていますが、手術の有効性を知らずに膝関節の破壊が進み、歩行能力が低下している患者さんはまだまだたくさんいます。歩行能力が低下すると、転倒による骨折の危険性が高まったり、活動性が低下するため精神面の老化も進行したりします。強い膝痛で悩んでいる方は、治療経験の多い専門医の受診をお勧めします。
術前レントゲン写真

術後レントゲン写真
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