直径1~4mmの内視鏡を関節内に挿入して行う、関節鏡視下(しか)手術。かつて関節切開を必要とした多くの手術が、関節鏡視下手術で行えるようになり、注目を集めている。
日本発の世界に誇る医療技術
関節鏡は、1918年に東京大学整形外科の高木憲次教授により日本で創始されました。その後、1959年に渡辺正毅先生が、渡辺式21号という形で実用化に成功されました。
いまでは全世界に広まり、医療分野では外科を中心とした内視鏡手術などの礎になったといえます。今日でも、日本の関節鏡学は世界を常にリードしているといえるでしょう。
進化を遂げた関節鏡
関節鏡を用いた手術は、当初は関節腔の広い膝関節が中心でしたが、徐々に関節腔の狭い関節へと広がり、現在では肩関節、足関節、肘関節、手関節、脊椎、顎関節など人間のほとんどの関節で行われています。さらには、関節以外の部位にも、関節鏡を用いた手術が施行されつつあります。関節鏡は、初期には、病態診断の道具として用いられてきましたが、関節鏡を見ながら小さな切開で手術を行えるようになり、これが関節鏡視下手術と呼ばれるものです。
低侵襲治療の多くのメリット
関節鏡視下手術のメリットは、低侵襲であることです。つまり、関節鏡を刺入する数箇所の皮膚切開のみで手術できることにあります。
最も多く行われている関節鏡視下手術は、膝関節での手術です。整形外科領域においても最もよく行われる6大手術(アメリカ)の中に、スポーツ外傷によって生じる半月板損傷に対する切除術や前十字靱帯損傷に対する再建術が入っています。このように関節鏡は整形外科医に不可欠なものになっています。これらの手術は、関節を切開する方法で行っていた時代と比べると、術後の入院期間が短縮され、筋力の回復が早くなっています。このことは医療費の削減にも貢献していることになります。
適応広がる関節鏡視下手術
近年では、肩関節疾患も膝関節と同様にほとんどの手術が関節鏡視下手術で可能となっています。野球肩に代表される関節唇損傷も関節を大きく切開する方法ではなく、関節鏡視下手術が第一選択される方法と考えられるようになりました。
また、中高年の肩の痛みの主な原因である腱板損傷でも、鏡視下腱板修復術が最も有効な方法とされ、多くの病院で施行されています。さらには、大きく切開をして直視下で行うことが専売特許であった外科手術までもが鏡視下に行なわれつつあります。末梢神経の圧迫によって手がしびれる手根管症候群や肘部管症候群では、鏡視下に神経圧迫除去術が行われます。
手術を受けられる患者さんに
関節鏡視下手術は、術後の回復も早く有用な方法ですが、すべての場合に万能というわけではありません。一般の方法と同様に神経・血管損傷、感染などの合併症があります。さらに関節鏡視下手術は、狭い関節の中を見ながら手術を行いますので、術者の技量により、その術後結果が左右されます。そのため関節鏡学会では、セミナーや研修会を開催し、多くの優秀な関節鏡外科医を教育して、良質な医療の提供に努めています。
今後もより安全で、より低侵襲な方法で患者さんが治療を受けられますよう、関節鏡学会を挙げて、その進歩を目指して取り組んで参る所存です。
越智 光夫
日本関節鏡学会 理事長
広島大学大学院整形外科 教授
同大学 理事(医療担当)・病院長
1977年 広島大学医学部卒業。
1983年 ウィーンべーラー病院、ウィーン大学、パビア大学、ルンド大学留学。
2007年から日本関節鏡学会理事長を務める。