近年、パーキンソン病の治療が進歩し、注目を集めている。適切な診断と治療により、QOLを保つことが可能となった治療について、水野美邦先生に特別寄稿をいただいた。
パーキンソン病の原因と症状
パーキンソン病は脳の黒質という場所の神経細胞が著明に減少するため、ドパミンという物質が脳で不足し、手足がふるえたり、動作がのろくなったり、歩き方が遅くなる病気です。放っておけば徐々に進行して歩けなくなる病気ですが、幸い治療の進歩で、骨折などを起こさなければ、寝たきりになることは少なく、また天寿をほぼ全うできる病気になっています。
治療は、薬物治療、脳外科治療に分けられますが、薬物治療が中心です。研究では、遺伝子治療や細胞治療が取り上げられていますが、まだどなたにでも安全にできるというわけではありません。
国際的な治療ガイドライン
薬物治療では、脳の中でドパミンにかわるL-ドーパ製剤とドパミンの代わりをするドパミンアゴニストが中心ですが、さらにこれらに対する補助薬としてセレギリン、エンタカポン、アーテン、シンメトレルなどが使われています。
これらをどのような順序で使用するのがよいかについては、国際的に治療ガイドラインができていて、70歳以下で認知症合併のない方には、ドパミンアゴニストで治療を開始します。その後症状の改善が十分でない場合は、L-ドーパ製剤を上乗せしていきます。
ドパミンアゴニストは大きく2系統に分かれ、麦角系、非麦角系があります。麦角系は稀に心臓弁膜症を起こすことがあるので、非麦角系からはじめるのが原則です。ただし、非麦角系も突然睡魔に襲われたり、下肢にむくみを生じたりすることがあるので、注意して使用します。L-ドーパ製剤は、これらの副作用は少ないのですが、5~6年使用すると不随意運動といって、手足が勝手に動く副作用が出てくることがあります。
深部脳刺激療法の適応
どちらから始めても、次第にL-ドーパの効いている時間が短くなってきてL-ドーパを2~3時間おきに飲む必要が出てくると同時に、効いている時間には不随意運動に悩まされることがあります。
このような、どうしても薬で対処できない場合には、脳の視床下核というところに電極を埋め込んでここを刺激する深部脳刺激療法という治療を行います。すると、L-ドーパの切れているときの症状が軽くてすむようになります。本療法はL-ドーパの効く症状には有効ですが、L-ドーパの効かない症状もあります。従って薬が効かないから手術をという考え方は成り立ちません。
適切な治療でQOLを保つ
薬を飲んでいれば症状をある程度抑えられて、色々なことができ、旅行に行くことも可能です。しかし、薬を飲むのを恐れて少ししか飲まずに、症状を我慢すると、将来つらくなってたくさん薬を飲んでも思ったようにはよくなりません。機械でもさびついてから油をさしても思うように動かないのと同じです。普段からよく動くように手入れをしておくと長くよい状態を保つことができるのです。脳にもこのような機能があって、可塑性(かそせい)と呼ばれています。
長い間には副作用その他色々な問題がでてくることがありますが、その都度専門医と相談して対処していけば、長期に薬を飲むことはそれほど心配しなくてよいのです。
水野 美邦 (みずの よしくに)
順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院 院長
1965年東京大学医学部医学科 卒業。
69年ノースウエスタン大学医学部神経学レジデント、
88年自治医科大学神経内科講座内教授などを経て、
89年順天堂大学医学部神経学講座 教授。
2007年同大学医学部附属順天堂越谷病院 院長就任。