がん温熱療法を薦める
がんの温熱療法は電磁波を使って、がんの部位を加温する治療法です。もう10年以上前に健康保険で認められました。それにも関わらず、あまり知られていなかったのですが、最近、患者にやさしく優れた治療として注目されています。
がんは正常の体を作っている細胞の一部が突然変異を繰り返して、正常組織の構造を無視して勝手な増殖を始め、体そのものを壊して死にいたらせるものです。従って、これに対する治療は、どれもこの悪性の細胞を選択的に除くことが目標になります。しかし、その複雑な発生過程からわかるように、がんはそれぞれに異なり、共通の治療法は簡単には見出されません。そこで早期発見、早期治療が追及されるわけです。最近では、その変異のなかで特徴的なものを対象として、分子標的薬が開発されていますが、その対象は限定せざるを得ません。これに対して温熱療法は、すべての悪性腫瘍に共通の性質を利用して攻撃するものです。
すなわち、「腫瘍は、血流が悪く温めやすい、酸性に傾き温熱に感受性を示す」、「細胞が自由に浸潤していくことは、周囲の細胞と連絡がなく、熱抵抗性ができにくい」、「多核細胞などの腫瘍の特徴は中心体が不安定で、熱にも弱い傾向がある」、などです。
同時に高める免疫力
開発の始めには、このように温熱でがん細胞を選択的に殺すことを目標にしていましたので、43度という正常組織は損なわず、がん細胞だけを殺す加温を目標にしていました。アメリカなどでは今もこれを目標にしているようです。しかし、その後41~42度位でも、放射線や制がん剤の効果を高めることがわかってきました。また39~41度の周囲の正常組織の加温が免疫を高めること、さらにこのような加温が患者のQOL(生活の質)を高めるなど、総合的な治療効果が期待されることが多くの臨床経験を通じて明らかになってきたのです。初め、がん細胞だけを狙う一刀流が、同時に免疫からも攻められるので二刀流になったといわれていたのですが、今では患者をもっと多くの面から助ける千手観音が相応しいと思っています。
この温熱療法のために20年前には国の内外で10種に近い治療装置が開発、販売されていました。その後、加温性能から自然に淘汰されて、我が国では現在は1種のみが普及しています。この装置には、千手観音の手として治療の目的、がんの状態、患者の病状などに応じて、いろいろな効果が期待でき、記事左にもこれをがん治療に活用している病院が紹介されています。そこでは、放射線、化学療法との併用のほか、最近では免疫療法との併用が注目されています。
産業医大で多くの難治がんを含む620例を治療された今田肇(現共愛会戸畑共立病院がん治療センター長)の報告から紹介します。治癒が149例(24%)、半分以上小さくなった有効例を含めると8割近くに変化がみられたということです。もちろん、今後さらに新しい装置が開発されることを期待しています。
菅原 努(すがはら つとむ)
京都大学 名誉教授
財団法人慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団 理事長
京都大学医学部・大阪大学理学部 卒業。1961年京都大学 教授、以後同大学医学部長、国立京都病院長、財団法人体質研究会 理事長などを歴任。1999年より現職。








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