イリザロフ法は人為的な骨折によって骨の再生力を引き出し、新しい骨を形成させる治療だ。骨延長によって身長を伸ばすことができるほか、骨の変形矯正、事故で失われた骨の修復も可能。スカイ整形外科クリニックは、イリザロフ法による適切な治療が受けられる全国有数の医療機関である。
骨延長や変形矯正に有効なイリザロフ法
スカイ整形外科クリニックは、大阪市と京都市の中間に位置するベッドタウンの茨木市にある。阪急京都線の茨木市駅から歩いてすぐの好立地にありながら、手術・入院も可能な有床診療所(18床)だ。2006年7月に開院し、瀬戸洋一院長、柏木直也副院長、吉野宏一理事長の頭文字を取って、スカイ(SKY)と名付けられた。整形外科に特化したクリニックで、小児整形外科、手の外科、イリザロフ法などを得意としている。
一般にはまだ耳慣れないイリザロフ法とは、これを発明したロシア人医師の名前が冠せられた骨折治療のこと。低身長に対する骨延長や骨の変形矯正、事故で失われた骨の再生などに適応されるが、専門的な手技と豊富な経験が必要で、大学病院でもイリザロフ法を扱える医師はほとんどいない。スカイ整形外科クリニックは、このイリザロフ法に習熟した整形外科専門医が4人もいるという全国的にも極めてまれな医療機関である。

創外固定器で1日に1mmずつ骨が伸びる
イリザロフ法は人工的に骨折を起こし、骨折が治っていく過程で骨と骨の間にできる仮骨を引き伸ばすことで足や腕の長さを調節する。仮骨は時間が経つにつれて通常の骨へと変わっていき、結果的に背が伸びるという仕組みだ。
「骨の一部を切断し、その部分を創外固定器で1日1mm程度を目安にゆっくりと伸ばしていきます。骨の切り方や伸ばすスピードが適切なら、その部分に新しい骨が形成されます。こうした原理を利用することで、骨を延長することができるわけです」と柏木副院長。創外固定器は骨を体外から固定する器具で、リングやワイヤーなどの部品を使って、それぞれの患者に適したものが組み立てられる。骨の形状に合わせてリングを組むことで、曲がった骨をまっすぐにする変形矯正も可能だ。
創外固定器を取り付ける手術では、骨の周りにある骨膜を損傷しないように細心の注意を払って骨を切っていく。吉野理事長は「骨膜とは骨に栄養を送っている被膜で、骨折が起こった場合は、この骨膜から骨を再生する能力が出てきます。骨膜が正常なら、骨がわずかに残っているだけでも新しい骨を形成することができます」と語る。個人差はあるが、例えば太ももの大腿骨で5cm、ひざ下の下腿骨で5cm、合わせて片足で約10cm、低身長症なら約20cmまで骨を伸ばすことができるという。


身長を伸ばすことで再び自信を取り戻す
イリザロフ法は、小児骨折が原因の骨変形や成長障害、また先天性の骨系統疾患を抱える子どもに適応されることが多い。特に低身長を伴う軟骨無形成症の子どもは、四肢の骨の発達が悪く、成人しても120cm程度の身長にしかならない。ところがイリザロフ法による治療を受けると、身長は140~150cmに伸びるという。平均身長に比べるとそれでもまだ足りないが、日常生活に支障をきたすことがほとんどなくなる。短縮していた四肢のバランスも良くなり、健常者と変わらない体型が実現される。
スカイ整形外科クリニックでは、こうした子どもたちを積極的に治療している。一般の整形外科なら、子どもの治療にまで細かくは対応できない。瀬戸院長は「子どもは大人の小型ではなく、骨や体の成長を阻害しないように治療しなければなりません。小児整形外科を掲げる当院では、イリザロフ法の治療においても、子どもたちの将来的な成長をサポートするという大切な役割があります」と話す。
また、低身長症などの病気ではなく、保険適用外の治療になるが、身長を伸ばしたいという理由からイリザロフ法を受ける人もいる。「背が低くて生きる望みを失っている人がたくさんいます。そうした方々がイリザロフ法を受けることで本当の自分を取り戻せるのであれば、それは病気の治療と同じくらい尊いことだと考えています」と柏木副院長。
吉野茂雄副理事長も「平均的な身長の人には想像がつきませんが、背が低い人は身長が5cm伸びただけで世界がまったく違って見えるといいます。イリザロフ法が与える心理的な効果は絶大なものです」と言う。それまで背の低さがコンプレックスで自殺願望のあった子どもが、イリザロフ法によって笑顔を回復し、前向きに生きるようになることも多い。イリザロフ法はその人の意欲や人生観も変える治療といえるかもしれない。
また、交通事故などの開放骨折による骨の欠損、さらには開放骨折の合併症である骨髄炎、悪性腫瘍の骨転移にもイリザロフ法を用いることができる。骨髄炎や骨転移を起こすと骨が壊死し、足を切断することになる可能性が高まる。しかし、イリザロフ法によって新しい骨を形成することで、この切断を回避できる場合があるという。「本来ならその必要がない人まで、足を落とされているというのが現実です。イリザロフ法を広く知っていただき、多くの人たちを救っていきたい」と吉野理事長。イリザロフ法の将来的な普及と発展を望みたい。
【取材/駒井 一行】
※イリザロフ法による脚延長術は保険適用外の場合、標準費用は約700万円です

瀬戸 洋一 (せと よういち)
スカイ整形外科クリニック 院長
1981年、滋賀医科大学医学部卒。
滋賀県立心身障害児総合療育センター次長、滋賀県立小児保健センター診療局長、
京都大学臨床教授なども務めた小児整形外科のベテラン医師。
柏木 直也(かしわぎ なおや)
スカイ整形外科クリニック 副院長
1986年、京都大学医学部卒。
97年にロシア、98年にアメリカでイリザロフ法や変形矯正法の研修を受ける。
イリザロフ法に関する学会や研究会の世話人なども務めるこの分野の専門家。
吉野 宏一 (よしの こういち)
スカイ整形外科クリニック 理事長
1994年、金沢医科大学卒。
1997年からアメリカにて日本人初の1年間の国際イリザロフ法研修過程を修了。
一般救急病院部長などを経験し、スカイ整形外科クリニックを開設する。
吉野 茂雄(よしの しげお)
スカイ整形外科クリニック 副理事長
1984年、甲南大学応用物理学科卒。
95年、関西医科大学卒。97年からアメリカで半年の骨変形治療・脚延長術を修了。
東京在住で、イリザロフ法の手術を受けた関東方面の患者をフォローする。