早期治療で全身疾患との悪循環を断ち切る
愛知医科大学睡眠科・睡眠医療センター 教授
塩見 利明
進展するSASの診断と治療
近年では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を中心として一般的に睡眠障害に対する認識がだいぶ高まってきました。SASは107種類ある睡眠障害の1つで、「呼吸が10秒以上停止する無呼吸の状態が、夜間睡眠中に1時間あたり5回以上生じるもの」のことです。SASの臨床症状は多彩ですが、その2大症状はいびきと日中の耐え難い眠気です。いびきは寝ている間に起きるため、自覚症状が無いまま進行してしまうケースも少なくありません。また、「眠気は事故のもと」ですが、私は「眠気は生活習慣病のもと」とも主張しています。
実際、睡眠ポリグラフ検査によって診断したSASの入院患者を調べてみると、約10人に1人が過去5年間に居眠り運転事故を起こしていました。SASの重症患者が訴える耐え難い眠気は、居眠り事故の危険信号です。
SASに対する治療法の第1選択肢は、睡眠時に鼻マスクを装着する在宅持続陽圧呼吸療法(CPAPシーパップ)です。これは、鼻マスクから圧力のかかった空気を送り込み、気道を広げ、無呼吸を防ぐものです。患者ごとに有効な圧力を設定して治療を行っていきます。わが国でも1998年から保険適応が承認され、現在までCPAPを用いたSASの治療は着実に普及してきています。さらに慢性の心不全に合併したチェーン・ストークス呼吸という睡眠呼吸障害の治療法として、2004年に在宅酸素療法(HOT)、2007年にはサーボ圧自動制御型人工呼吸器(ASV)の保険適応が認可され、循環器の領域でもSASの診断と治療は急速に広がっています。
深刻な生活習慣病との関連
SASは肥満に伴う生活習慣病、特に話題のメタボリックシンドローム(メタボ)とも密接に関連しています。(※)例えば、我々のSAS患者819人におけるメタボの合併頻度に関する検討では、男性が正常群で22%、SAS群で49.5%、女性は正常群で6.7%、SAS群で32%と男女とも、その合併頻度はSAS群に高率でした。この結果からも分かるように、SASなどの睡眠呼吸障害の適切な診断と治療を行うことは、肥満に関連して生活習慣病と呼ばれてきた疾病の一次予防につながります。また、SASは心血管病および脳卒中という2大死因の生命予後を左右する医学的な重要課題であるということが海外の研究で明らかにされており、さらに居眠り事故・災害などの抑制効果もあり得るため、社会的にも大変重要であるといえます。
いびきと昼間の眠気で悩み、最近は中年太りでウエストサイズが気になりだしたら、早めに睡眠医療の専門家にご相談ください。
※愛知医科大学睡眠医療センター調べ
いびきをかいている人は「スリープスプリント治療」を
中川歯科医院 院長
中川 健三
いびきの抱える問題
「グオーッ、グオーッ」と、部屋中に響き渡る大轟音、夜の静寂を破るような「白川夜船の高いびき」は昔から豪傑の証のようにいわれてきました。周囲の迷惑をよそに、本人だけは安眠を貪っているようで、確かにいびきをかく人は図太い神経の持ち主のように見えるかもしれません。同室者のいびきのおかげで一晩中、一睡もできなかったという経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。いびきの最大の問題は、同室者に対してはこの騒音障害にあります。実際に、いびきの治療の動機は「他人に迷惑をかけるから」「家族に注意されて」「旅行によく出かけるから」などが多く、いびきをかく人がいかに周囲に気兼ねし、悩んでいるかがわかります。
一方、本人にとっては睡眠呼吸障害で日中の強い眠気や、うっかりミス、多くの交通事故を引き起こしたり、無気力になって休職あるいは失職する原因になったりします。いびきや無呼吸は、睡眠中に上気道が狭窄あるいは閉塞して起きるのですが、その最大の原因は肥満や舌の肥大化に起因しているようです。
歯科領域におけるSAS治療
いびきは舌が空気の通り道の気道を狭めて出る振動音ですが、高ずると舌が気道を全く塞いで無呼吸となってしまいます。このように、いきなり睡眠時無呼吸症候群(SAS)になってしまうのではなく、その前に何カ月あるいは何年もいびきをかき続けている時期があるのです。
是非この時期に、スリープスプリント治療を試してみてください。この治療法は、寝るときだけ患者さんの口に合わせたマウスピースを入れていただくもので、FDA(アメリカ食品医薬品局)でも認可されている治療法です。その効果として、無呼吸やいびきの軽減、朝目覚めたときの爽快感、日中の眠気の解消などがあげられます。残っている歯が20本以上あって、下顎が10mmくらい前方に動かすことができ、顎関節に異常が無ければ適応となります。
いびき症だけの人は保険が適応されませんが、SASの人は軽症、重症に関わらず、検査医療機関の検査結果と紹介状があれば、保険診療扱いになります。また、重症でCPAPをなさっている方でも、CPAPは耐えられない患者さんもスリープスプリント治療が可能ですので、主治医の先生とご相談の上、トライしてみてください。きっと、すっきりした睡眠がよみがえるでしょう。
塩見 利明(しおみ としあき)
愛知医科大学睡眠科・睡眠医療センター 教授
1978年愛知医科大学医学部卒。
89年スタンフォード大学で睡眠医学を学ぶ。
循環器専門医。昨年より日本睡眠学会副理事長。
中川 健三(なかがわ けんぞう)
中川歯科医院 院長
1964年東京医科歯科大学歯学部卒業。
66年埼玉県越谷市に中川歯科医院開業。
68年同大学大学院歯学研究科修了。






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