人工股関節置換術の対象疾患
人工股関節置換術が必要となる病気の中で特に多いのが変形性股関節症です。日本ではその大半が股関節の屋根の被りが浅い発育期股関節形成不全(いわゆる先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全)が原因です。ほかに大腿骨頭の骨が壊死する大腿骨頭壊死症もあり、お酒の飲みすぎやステロイド剤の副作用で起こることが知られています。股関節の障害が高度になった場合には人工股関節置換術が良い選択になります。しかし、障害の程度が軽度、あるいは50歳以下の比較的若い年代では、可能ならば骨切り術がお勧めです。
20年以上の耐久性
日本では年間約3万8千件の人工股関節置換術が行われ、これまでのさまざまな研究開発によって20年以上の耐久性が獲得されてきました。さらに、術後の感染や脱臼に加え、肺塞栓などの重大な合併症に対する対策が進み、比較的安全な手術となってきています。
患者のQOLや特殊例に対応
最近は手術に対する患者さんの要望が大きく変化しています。これまでは「痛みさえ取れればよい」でしたが、「仕事(重労働)もスポーツも旅行もしたい」に変化しています。実際、多くの方々が職場復帰だけでなく、ゴルフやゲートボール、水泳などを再開しています。また、旅行が困難であった方々も国内はもちろん海外へも出かけています。
さらに、これまであまり行われていなかった、特殊例とされる高位脱臼股(脱臼した股関節)や強直股(完全に固定した股関節)などに対する人工関節置換術も良好な成績が得られるようになってきました。また、人工関節の発展と共に、再置換術症例が増加しており、さまざまな工夫や機種が開発されつつあります。これらの手術は難易度が高いので経験豊富な専門の医療機関での手術をお勧めします。
早期退院・早期社会復帰が可能
以前は歩行訓練開始まで数週間、入院期間も2~3カ月必要でした。最近では術後数日以内に歩行訓練が可能で、1カ月以内の退院が普通となっています。術前の状態にもよりますが、術後半年以内に杖も要らなくなり、早期の社会復帰が可能となっています。

人工膝関節置換術の実際
大浦 好一郎膝の痛みを取り除く
人工膝関節置換術では、関節から痛んだ関節軟骨を含んだ骨を切除し、その表面を磨いた金属とプラスチックなどでできた人工関節に置き換えます。これにより関節の形と動きが正常に戻ります。同時に痛みを感じる神経が関節表面からなくなるため、関節の痛みがなくなります。さらに、曲がった膝が真っすぐになり、姿勢が良くなることで腰の痛みも改善されます。
内反膝の変形を矯正
膝が外に離れている内反膝は、大腿骨、脛骨共に内側の骨が減って内反を生じているため、外側の骨を多く切って、内反を矯正します。これにより脚の形を良くし、膝の内側にかかる負担を減らします。手術では骨だけではなく、膝周囲の靭帯のバランスと緊張を整えることが重要です。それが術後の膝のぐらつき、膝の皿の痛み、膝の可動域に影響します。
最小侵襲手術(MIS)
最近の手技の進歩は、手術の侵襲(皮膚、筋肉、骨の損傷、出血)を小さくして、術後の痛みを減らし、早く歩けるようにする最小侵襲手術の開発です。合併症を減らし、入院期間を短縮(医療費を減らす)するのに有効です。当院では、ほぼ全例で行っています。
人工膝関節置換術の展望
日本の80歳以上の女性の80%以上が変形性膝関節症という程、膝の悪い方は多いのです。現在年間4万膝以上の手術が行われていますが、手術を受けているのはほんの一部です。長生きをすれば、痛みや不自由な生活を我慢し続けなければなりません。手術でそれらから解放されれば仕事や旅行、スポーツも可能になります。手術翌日から歩いてトイレにも行けるため、負担もそれ程ではありません。
高齢でも手術が可能
最高年齢は95歳で、96歳の現在も元気に農作業をされています。100歳でも元気でさえあれば手術は可能です。高齢の方は皆、何らかの病気を抱えていますが、手術ができない程重病の場合は多くありません。
