広告特集 朝日医療新時代フォーラム がん医療の最前線

第一部:基調報告 「がん治療の最新事情」

報告4 江川滉二先生 「免疫細胞療法」 日本免疫治療学術研究会会長 江川滉二先生

 御紹介いただきました江川です。このような機会に、がん治療の各分野を代表される三人の先生方とご一緒に話をさせていただく機会を与えていただいたということは、私にとって非常に感慨深いことです。なぜかと申しますと、これまでがんの正統的な治療法といえば、外科、抗がん剤、放射線の三つに限られていて、民間療法的なイメージの強かった免疫療法が、それらと並んで取り上げられるということは、かってなかったことだからです。
 やっとそういう時代になってきたのかな、ということを感じております。
 今日は時間も限られておりますので、話を次の三点に絞ろうと思います。
 まず、第一に免疫細胞療法とはどんなものなのか、第二にその有効性の証拠、いわゆるエビデンスについて、そして第三に他の治療法との併用について、実例も含めてお話してみたいと思います。

 最近、細胞療法という言葉がよく使われるようになってきております。
 これは、私達の体を作っている細胞や組織の一部を体の外で培養・加工して病気の治療に用いることを指す言葉で、細胞増殖因子や活性化因子などが、遺伝子工学という手段で大量に手に入るようになったことを背景にして、最近実用化されてきた治療法です。この分野でもいろいろなことがやられておりますが、現時点で何と言っても最大の症例数を持っているのは免疫細胞を用いた細胞療法、つまり免疫細胞療法でありまして、現在研究医療から普及医療に移行しつつあるものです。

免疫細胞療法というのは、要するに免疫細胞を体の外に取り出して培養し、体内では使えないような強力な活性化刺激を与えたり、あるいは機能を持つようなものにしたり、数を莫大に増やしたりした上で体に戻して治療を行おうとするものです。免疫の中心であるリンパ球を用いた活性化自己リンパ球療法や、リンパ球に刺激を与えることを専門にしている樹状細胞を用いた樹状細胞ワクチン療法などが含まれ、これらのやり方にもいろいろなバリエーションがあります。

 免疫反応は同じ個人の細胞同志の間でないとうまく進行しないという特徴があります。このため、免疫細胞療法は患者さんの自身の細胞を用いる場合がほとんどです。
 自分の細胞を用いる場合には、移植拒絶のような有害な反応も起りませんし、他人からの感染症の持ち込みの危険もありません。
 ただ、何と言っても体外で培養した細胞を体内に注射して戻すのですから、この細胞の処理・加工は、注射剤の製造と同等のことになるわけで、それなりの安全性を確保して行う必要があります。
 それさえ出来ていればきわめて安全な治療法で、副作用も殆どありません。
 しかし、流通性のある一般の薬剤の製造ではありませんので、製薬に関するような公的規制はありません。すべて医療機関の自己規制にまかされています。
 写真は私達のクリニックの培養室の風景ですが、施設、設備、及び作業手順、無菌安全性の検査等、すべて注射薬製造の基準を満たす条件で行っています。
 公的規制が無いとは言うものの、細胞医療を行う医療機関は、こういった自主規制のもとに細胞加工を行うことが、この医療の今後の健全な発展のために極めて重要だと考えます。

 ここで、がんと生体との関わりあいについて少々考えてみたいと思います。
 我々の健康な体の中でも、常にがん細胞が発生しているのだけれども、その大部分は免疫の力によって抑え込まれて、病気にまで至らずに消滅していると考えられております。
 ところが、何かのきっかけでがんの力が免疫による抑止力を上回った場合にがん細胞が増殖を続け、やがて病気としてのがんが成立するということになり、いったん出来上がってしまったがんは、もはや自然の免疫の力だけでは押さえることの出来ないものになっているわけです。
 外科療法、放射線療法は、がんが出来た局所に対する治療法ですが、これらはがんの大きさを一挙に小さくすることが出来るわけですから、がんと体の力のバランスを再び体の側に傾ける可能性があります。
 従来の治療法のうちで、がんが全身に広がった場合に使える唯一の全身療法であった抗がん剤療法は、がんの力も小さくするでしょうが、同時に体の免疫の力ももっと小さくしてしまうために、この力のバランスを体の側に傾けるということには必ずしもなりません。
 一方、免疫療法は、がんはそのままにしておいて、免疫の力ががんの力を上回るようにしてやろうということですから、免疫の力をものすごく強くしてやらなければ意味がないということになるわけで、ここが免疫療法のむずかしいところです。
 私達は強力な免疫強化の方法として免疫細胞療法という方法をとっているわけですが、それとても、それだけではまだまだ十分に満足すべき力があるわけではありません。
 この図からすぐに考えられることは、従来の治療法でがんの力をそいでおいて、その上で免疫療法を行えば、がんの力と体の抵抗力のバランスが著しく体の側に傾くわけですから、一番よいのではないかということです。

 実際に、免疫細胞療法の有効性が統計学的に確実に証明されているのは、今のところ手術との併用療法、つまり手術後の再発防止に用いられた場合に限られています。
 再発防止というのは、手術後に残った微小ながんの治療ということです。
 この図は、1997年に千葉大学から発表された肺がんに関する報告ですが、肺がんの患者さんの手術後に、もし必要なら抗がん剤や放射線療法を行い、その後に患者さんを均等に二群にわけて、一方には免疫細胞療法を行い、他方には何も行わないで、その後長期間にわたって観察した結果です。


 免疫細胞療法を行った群では、がんが再発して患者さんが亡くなる率が下がり、生存率が上がることがきわめて明らかです。つまり、免疫細胞療法には、少なくとも手術後に残ったような微小ながんであれば、治癒させる力があるということが示されているわけです。
 もう一つこの図から言えることは、手術が成功してがんが取れましたよと言われても、実はがんがこんなに再発して患者さんが亡くなるということです。
 ですから、手術後の再発を抑えるということは、非常に意義のあるがん治療になります。同様の結果は、肝臓がんの手術後の免疫細胞療法に関して国立がんセンターから、卵巣がんの手術後の免疫細胞療法に関しては新潟大学医学部からの報告があります。
 免疫細胞療法を批判される方々はよく、有効性の科学的な証拠が何もないじゃあないかと言われるのですが、それは必ずしも正確な意見ではなくて、このように少なくとも微小ながんの治療については有効性の正確な証拠、いわゆるエビデンスが、それもがんの一時的な縮小効果ではなくて治癒効果のエビデンスが得られているわけです。

 次に治療の実例について述べます。
 第一の症例は、再発予防よりもう少し進んだ症例です。患者さんは下咽頭がんの手術を受けられて、その後間もなく肺転移が見つかりました。初期の転移が肺の数ヶ所に見つかったところで免疫細胞療法を行い、リンパ球投与4回ほどで画像診断上の影が消えて、その後現在まで4年半にわたって再発を認めておりません。治療が大変うまくいった症例です。
 第二の症例は重粒子線による治療との併用の症例です。患者さんは副鼻腔に出来た黒色腫のために手術を薦められましたが、まだ若い女性であり、顔の一部の欠損を伴う大きな後遺症が残ることから手術を受けることをためらわれて相談に来られました。幸い転移が認められないようでしたので放医研を受診していただき、原発のがんに対する重粒子線治療を行なっていただきました。
 その結果、もとの副鼻腔の黒色腫は完治したのですが、間もなく肝臓などに転移が見つかりました。樹状細胞ワクチンを利用した活性化自己リンパ球療法を併用して、一旦は転移が画像上見えなくなりました。
 その後、肝転移の再発と縮小を繰り返しておられましたが、4年弱で亡くなられました。その間、大した障害もなく、また顔の半ばを失うということもなく、お元気に家庭生活を送っておられましたので、結局亡くなられたのではありますが、お役に立てなかったわけでもなかったと思っている次第です。
 第三の症例は、従来の抗がん剤と免疫細胞療法の併用によって大きな肺がんが見えなくなった症例です。抗がん剤の効果と言われればそれまでかもしれませんが、その後再発していません。免疫療法を行う医師は、抗がん剤を使ってはいけないというのが一般なのですが、そういったものでもないということです。
 第四の症例は、新しい抗がん剤である分子標的薬のイレッサと免疫細胞療法の併用例で、肺の腺がんの状態がきわめて改善された例です。
 他の医療機関でイレッサの治療を受けられて、それと並行して免疫細胞療法を受けられた患者さんが18人ほどおられましたが、そのうちの11人で明らかな腫瘍の縮小がみられました。これはイレッサ単独の治療成績、あるいは免疫細胞療法単独の腫瘍縮小効果からみて、大変に良い結果です。
 分子標的薬は免疫細胞に対しては悪影響を及ぼしませんし、免疫とは全く違うやりかたでがん細胞を攻撃するので、免疫療法と併用する相手としては極めて適切な治療法だと思われます。
 この併用効果については、大学病院との共同研究によって、統計学的に正確な併用効果の証拠を得るための研究を現在開始しています。
 このように、それぞれの局面での有効性のエビデンスを確立してゆくことが、今後特に重要だと思います。
 第五の症例は併用療法ではなくて、免疫細胞療法単独で治療を行なった卵巣がんの例です。患者さんは通常療法を一切拒絶しておられましたが、来院時には巨大な骨盤内腫瘤とがん性腹膜炎による大量の腹水があり、末期的な状態でした。
 腹水から採れるがん細胞を利用してリンパ球を刺激培養して、これをがん性腹膜炎のある腹腔内に繰り返して注入したところ、やがて腹水が貯まらなくなり、御本人は大変お元気になられました。5年後の現在でもこのままの状態です。もとの骨盤内の大きな腫瘤はそのままで、全く治っていませんが、御本人は至ってお元気です。現在は数ヶ月に1回の治療を受けておられます。
 抗がん剤の治療効果の基準の一つとして、治療前後でがんの大きさが変わらない不変というのがありまして、これは無効例の中に含められます。進行がんに対する抗がん剤治療では不変の状態が長期間続くことはあまりないのですが、免疫細胞療法ではこの症例のように長期にわたって不変が持続することが少なからずありまして、これが一つの特徴であると言っても良いと思います。こういう副作用の少ない治療法で、不変の状態が長期持続することは患者さんにとってのメリットが非常に大きいので、これを治療の有効例の中に含めるべきだろうと考えます。
 この表は瀬田クリニックでの治療成績の数字でありますが、ここでこれをお見せするのは、我々がこれだけの治療成績を挙げたということを主張するためでは全くありません。ここで御理解いただきたいことは、こういう数字は何を母集団として算出されたか、何を奏功例に含めるか、といった考え方次第で、大幅に変わってくるということです。適当な条件をつけて症例を選択して母集団とすれば、奏効率の数字は実際にはどのようにでもなるものです。これが気を付けなければならないことです。


 免疫療法を含めた民間療法の世界では、極端に高い奏功率をうたっているものが少なくないのですが、それがどういう意味合いの数字であるのかを患者さん側も見極められる必要がありますし、医療を行なう側も、良いことも悪いことも含めて、できるだけ正確な情報公開を行なって行くことが是非必要です。
 それによってのみ、新しい医療が社会の信頼を得るようになってくると思っています。

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