田辺 パネルディスカッションは「未来のがん治療と私たちが知っておきたいこと」というテーマで行います。先ほど4人の先生方に基調報告をいただきました。時間が限られているためにちょっとコンパクトになっていましたので、そこで扱えなかったこと、あるいはもう少し聞きたいということも含めて展開していきたいと思います。未来のがん治療の前に、先ほどの基調報告の今のがん治療ということで、少し時間をとりたいと思います。 まず垣添先生、外科治療は先生がお医者さんになられたときから、進歩を遂げたと言えるでしょうか。 垣添 言えると思います。私が1970年代に外科を始めた当時は、たとえば乳がんというと全部根こそぎ取ってしまって、がんを一つも残さないということに全精力を傾けていました。当時はそういうことしかわかっていなかったわけです。それが、アメリカやヨーロッパで、早期の乳がんならば乳房を温存する手術と従来の根治手術とを比較しても結果に差がないことがわかってきて、今や主流は、なるべく早く見つけて乳房を温存しながら治療をするという時代に変わってきました。そういうことを考えますと、私どもが医大を卒業したころの外科手術と、今の手術は全く違うと思います。 田辺 では、未来へのつなぎとして、まだ不足している部分があるとしたらどういうところでしょうか? 垣添 今お話しした乳がんをはじめ、胃がん、大腸がん、あるいは肺がんの一部などは非常に外科手術が進歩した部分もありますが、残念ながらいま難治がんの最たるものと言われている膵臓(すいぞう)がんなどに関しては、早期診断も治療も非常に苦労しています。膵臓がんなどを早く見つけて、しかもこれを確実に治せるようになれば、非常に大きな進歩でしょう。 田辺 ありがとうございました。これを頭に置いて、その次の段階へ進みたいと思います。塚越先生、化学療法は先生のお話でも、分子標的薬とかテーラーメイド、新聞などではテーラーメイドのかわりにオーダーメイドという言葉も使っていますが、そういう個別の患者さんごとに変えるような化学療法が確かに進んできているようですが、果たして化学療法でがんはどの程度治るのかという点がちょっと気になるのですが、どうでしょうか。 塚越 今のお話は、がんの程度によります。先ほど申し上げましたが、肝臓、胆嚢、膵臓、これは早く見つけることが肝心です。それから、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなども、気がつけば早く専門医を訪れる、これが必須です。不幸にして進行がんで見つかってしまったら、できるだけ専門家を頼っていただきたいと思います。 どの程度治るか、これは非常に難しいご質問です。これは進行の度合いによって違います。そして、いつ発見されたかも非常に大きな影響を及ぼします。大まかに言いますと、血液のがんは正常状態に戻し得る率が非常に高い。これを化学療法、つまり薬物療法の場ではよく「寛解(かんかい)」と言います。それから固形がん――大きなかたまりをつくるがんの中でも、最近、卵巣がん、子宮がん、それから肺がん、大腸がんなどに対して併用療法、集学的治療方法が非常に工夫されてきました。それで、大腸がんの場合などは、今日も大腸に異常があると言われた方が恐らくいらっしゃると思うのですが、今は長生きできる時代になったんです。5年、6年、10年、15年、平均寿命ぐらい生きられる時代が訪れつつあります。これも、がんの治療薬の組み合わせがうまくいってきているためです。 それから、化学療法だけですが、世界でのがん治療薬の発見は我が国が恐らくトップクラスです。今、がん治療の主流になっている薬は、日本で見つけられたものが非常に多くあります。UFT(※ウラシルとテガフールを組み合わせた薬。主にがんの再発防止薬として用いられる)などもその一つに数えてよろしいかと思いますが、がんを早く見つけて取った後で、再発しないように薬でたたいておく。これに対しては非常に否定的な意見もございました。手術だけで十分生きられるのではないかという証拠もあるからです。しかし、長い目で比べてみますと、いつかは再発してしまう方がいるというので、薬物療法などの対策が必要になるわけです。まだがんが局限しているpT1ような場合ですと、外科的な処置だけで十分です。ところが、大きさが2センチぐらいになってしまってから手術で取った場合は、再発する率が高いものですから、このときにUFTの例のように、薬物を投与しておくと、明らかに生き延びられる方が増えているんです。 ですから、いま田辺さんがおっしゃった、「がんに効く薬はあるのか」というご質問に対しては、造血器、つまり白血病とかホジキン病に効く薬はたくさんあります。ただし、骨髄のがんが見つかった場合は、慎重な姿勢が大事です。再発しないように十分に対策を講ずる必要があります。 取ってしまえるがんは、生き延びるチャンスが非常に大きくなります。これは後で江川先生がお話しされるかと思いますが、体の免疫力に注意なさる必要があるのです。体の免疫を落とさないように栄養を十分とる、ストレスをあまりかけないようにするといった姿勢が大事で、これが化学療法が有効かどうかを左右しておりますので、ここではそこだけに触れさせていただきまして、また後ほどよろしくお願いいたします。 田辺 佐々木先生、放射線で先生が大変丁寧に説明してくださいました重粒子線などというのは、理屈では非常に効くのではないか、つまり体の奥のある幅のところに強い放射線を集められるという治療法ですから、考え方としてはすごくいいのではないかと思いますけれども、この方法で100%は治らないんですか。治らないとすれば、どうしてなのでしょうか。 佐々木 今まで皆さんがおっしゃいましたけれども、がんは早い時期にできるだけ小さいうちに、できれば1カ所にしかないときに見つけて、外科的に治療するのが一番いいわけです。ただし、病巣の位置とか、患者さんの全身状態とか、合併症とか、手術ができないいろいろな理由もあるでしょう。そういうときにも小さな病巣であれば、放射線治療をすれば治すことができると思います。従来からのX線で治るものもありますし、きょうお話ししたようにX線には抵抗するようながんであっても、重粒子のようなものを使えば治療できる。ですから、早く見つけて早く治療することが鉄則だと思います。ただ、全身に広がってしまいますと、1カ所だけ治しても、手術であろうと、放射線治療であろうと、全体を治すのはなかなか難しい状況になります。そういうときには全身療法が奏功すればいいわけですが、チャンスとしてはやはり、早い時期に早く見つけるという努力が一番大事なんだろうと思います。 田辺 では江川先生、先生もおっしゃいましたが、免疫療法は「4本目の柱」と言われながら、長いことあまり当てにされていないところがございました。免疫細胞療法に対しては、お金が高い割にその効き方というのはどうなのかいう意見もありますが、その効果はこれからどんどん上がっていくと考えてよいのでしょうか。 江川 もちろん、いまは効果も大変限られておりますし、これを何とかよくしていかなければならないわけです。ただ、我々のようなところにいらっしゃる患者さんは、現状では大変進行したがん患者さんが多い。そういう患者さんを対象にしてどこまでお役に立てるかというと、これは限界があるわけです。ですから、多少とも早い状態で、あるいはW期の中であっても患者さんの体力がまだ十分あるような状態でおいでいただければ、今よりももう少しお役に立てることが多くなると思われます。 そして、今おっしゃったとおり、これはかなりお金のかかる治療です。このことがこの治療法の普及を妨げている最大の理由だと思います。これは人件費も施設費も材料費も莫大にかかるため、いたし方なくそういう金額になっているわけです。しかし、一般の抗がん剤治療と治療費を比べてみると、実際には必ずしも高くはありません。抗がん剤治療でも、例えば2剤併用で1クールの治療をやったというのを我々は試算したことがありますけれども、抗がん剤だけではなくて、そのためには入院もしなければならない、副作用を抑える治療もしなければならない、そういうことをトータルに考えますと、1クール当りの治療費は我々のやっている治療よりかえって高くなる。ただ、それが保険適用になっているために患者さんの直接の負担が少ないのです。 現在は高度先進医療にも認定されているものですから、何とか保険適用を受けられるところまで持っていきたいと我々も思っております。ただ、公的な保険適用は先の話ですので、民間企業のがん保険の対象にしていただくということも視野に入れて努力してまいりました。
田辺 江川先生もおっしゃったように、こういう壇上で免疫療法が取り上げられるというのはまだ非常に少ないわけですので、もう一つ江川先生に教えてほしいんですが、確かに、例えばリンパ球なりNK細胞という細胞ががんをやっつけるということはわかります。しかしそれを外へ出して増やして、それで血液に戻したときに、そのリンパ球などがうまくがんを探し当てて、そのがんにちゃんと食いついていくのか、血液全体に比べるとリンパ球の数が少ないのではないかという批判もありますが、いかがでしょうか。 江川 リンパ球の育て方にもいろいろありまして、例えば患者さん自身のがん細胞を使って刺激するとか、あるいは抗原(こうげん)の構造のよくわかっているものであると、そういうたんぱく質あるいはたんぱく質の一部と樹状細胞という細胞を使ってリンパ球を刺激してやると、特異的にがんのところに集まっていくだろうというリンパ球が作れるわけです。ただ、それがどのくらいの効率で本当にそこに行ってがんをやっつけているか、その実証ということになると、これはなかなか難しい面があって、十分に明らかになっているわけではありません。 それから数の問題は、これをどれだけ入れたら十分かということも分っているわけではありません。何日ぐらい培養したところで一番リンパ球の調子がよくなるかとか、そのときにあまり大量の採血をしないでも、その期間でどれだけ増やせるかといったことから、実行可能なことをやっているわけです。あと10倍入れたら10倍効くのかといったことが実証されているわけではありません。 田辺 ありがとうございました。皆さん、江川先生を特にいじめているわけではございませんので(笑い)、理解のために、角度を変えて聞いてみるということは大事だと思います。 佐々木先生、最近イギリスの有名な雑誌ランセットに、日本はX線の診断装置の使い方が大きくて、がんの3.2%は放射線の検査のせいで起きているのではないかという発表がされたということですが、これはどう受けとめたらいいんでしょうか。 佐々木 X線診断をすると、患者さんはX線放射線を浴びるわけですが、放射線には長い潜伏期間を経て発がんというリスクがあります。そのリスクを一つのモデルに基づいてイギリスの方が計算してみたということで、これは大変重要な研究であります。その中で、イギリスだけでなくて、日本でどのくらいのX線診断が行われているかとか、そういう情報もある程度推測しながら、日本では放射線診断によって誘発されると推定されるがんのリスクがほかの国に比べて高いと報告しました。このことが日本でも報道され、皆さんも大変関心を持っておられると思います。放射線診断学を研究している医者の間でも多くの議論が行われております。この件に関しては、日本医学放射線学会がこの論文についての論評を正式にまとめると思いますので、そういうものが少なくとも医学界には示されるでしょうし、一般の方々にも伝わるかと思います。ただ、私がいま申し上げたいことは、これは大事な研究ではありますが、その意味するところを誤解されるのが一番心配だということです。 例えば、患者さんがCT検査を受けなさいと言われたときに、自分がCT検査を受けたことによってがんになるのではないかと心配して、受けるべき検査をせずに病気が見つからない、あるいは病気の治療がおくれるということがあってはならないのです。この論文の著者もそういう意味で言っているわけでは決してありません。このことだけは皆さんに十分知っておいていただきたいわけです。 そこで関連して、国際放射線防護委員会(ICRP)が5年か10年に1度くらいずつ勧告を出している中での「医療被ばく」というものの考え方をお話ししておきたいと思います。被ばくというのは放射線に曝露(ばくろ)されるという意味ですが、ここで被ばくを3つの種類に分けています。まず、放射線科医などが職業人として放射線を扱うことによる職業被ばく。それから、一般の方々が被ばくする公衆被ばく。それから最後に、患者さんが病気の診断あるいは治療のために受けられる放射線を医療被ばくとしています。そしてこの医療被ばくは非常に特殊なもので、職業被ばくには1年間にこれ以上浴びてはいけないという線量限度がありますが、医療被ばくは、その便益が放射線のもたらす損害を上回っているという前提のもとで、限度が決められていないのです。それは、被ばくを受けるけれども、そのご本人が健康上の利益を受けるということを意味しています。 さきの発表では、たくさんの方がX線診断を受けておられますので、1人1人の受ける線量に人数を掛けることで集団線量が計算できまして、その集団線量に基づいていろいろな仮定を設けて、がんになるリスクというものを計算しているわけです。ただ、それぞれの患者さんはそれぞれ検査によって利益を得ているはずです。病気が見つかって早く治療できて命を救われた方たちもたくさんおられるでしょうし、病気がないということがわかって普通の生活に戻られた方もあるでしょう。本来であれば、そことを比較して、便益がこれだけであった結果としてがんの発生がこのぐらいだ、ということを明確にしなければいけないわけです。このことはその論文を書いておられる方も言っておられるわけですけれども、そういう観点から言えば、1人1人にとっては害より利益のほうが多いわけですから、必要な検査はきちんと受けていただくことが大事だと思っています。 ただ、医療界全体としては、もし無駄な検査をしているのであれば、そういうものは減らしたほうがいいわけですから、本当に必要な検査であるかどうかを患者さんの受けられる放射線の線量も考えに入れながら決めていく必要がある。医療界にとっては非常に大きなインパクトのある論文だとは思いますけれども、これが先ほど申したような意味で患者さん個人個人が検査を受けなくなり、受けていればわかった病気がわからないというのでは極めて遺憾ですので、そのようなことにはならないようにしていただきたいと思います。 田辺 わかりました。交通事故で亡くなる人の人数と、車を使うかどうかといった確率の問題というのもありますから、そういう考え方での話であると。ただ、交通事故の犠牲者ももっともっと減らしたほうが良い、というお話と理解していいわけですね。
田辺 塚越先生、先ほどの先生のお話では、薬の効き目も個人差というか、人によって10倍も違うとかというデータをお示しになられましたけれども、現実の治療の中でそれはどの程度加味されているのでしょうか。 塚越 それは、遺伝子多型の問題だろうと思います。薬物に対して、皆さんの遺伝子の背景、つまりそれを代謝する力が微妙に違うわけです。しかし、大半の人は大体同じ傾向を持っているものですから、一つのやり方が決まりますと、今ではがんの進行状態、種類によって、こういう治療を選択するということ、それからどのくらい投与するということが決められてしまいますので、遺伝子診断をする場合としない場合があると思います。本当にそれが必要かどうかまだわからないところもあると思います。例えば、薬に対する個体別の効果を事前に調査する「感受性テスト」というのがあるのですが、これが100%当たるわけではありません。感受性テストをして選択する場合もありますが、現実にはまだテーラーメイドや個別化医療が完全無欠であるというわけにはいかないものです。遺伝子背景を調べたりするのは非常に限られたケースと言って差し支えないと思います。 田辺 すると、将来はそういう遺伝子の診断で、この薬は少しで効くとか、たくさんやったらまずいとかということがわかるようになる。ただし、今はそこまではいっていないということなんですね。 塚越 はい、途上にある研究と言えます。私の研究の立場から言うのでしたら、多分今世紀の半ばぐらいまでに個別化医療の方法が非常に進歩して、がんになってもみんな平均寿命ぐらいまで生きられる時代が訪れるものと考えております。私は、個別化医療というのは非常に大事であり、遺伝子多型を知りながらの治療が完全にできればいいんですけれども、今はまだ、遺伝子の背景を調べるのに費用がかかります。血液や尿をとってきて調べれば、遺伝子がすぐ鑑別できるようなキットがあるとよいと思います。 田辺 ありがとうございました。それから、垣添先生、昔は足を切らざるを得なかったケースも、現在では足を切らずに治療が可能になっているという話が出てきましたね。あの場合はがんの部分だけを切ったという意味なんですか。 垣添 そうです。手術の前に抗がん剤で化学療法をやって、それで小さくして、患部だけを取り除いて、あるいは必要でしたら人工関節などを入れて、とにかく患者さんの足を残すという例です。ですから、足を若い時代に取ってしまう患者さんと、それをうまく残せた患者さんでは、治療後の生活の質というのは全く違いますので、可能だったらすべての患者さんにそういう治療ができればということで今努力しているところです。 田辺 私も長く取材していますけれども、やはり若い方で足をひざから落として、ところがもうちょっと上にがんが残っているというので、また付け根のところから落としたなどという患者さんもいらっしゃいましたが、抗がん剤などの使い方によっては、そこまでいかずにとめてできるということなんですね。 垣添 そのとおりです。 田辺 ありがとうございました。というわけで、だんだん現状がはっきりして、これからにつながっていくと思います。
田辺 そこで注目したいのが、QOL――クオリティー・オブ・ライフという言葉です。この言葉は、患者さんが同じがんを抱えながらもより良い生活ができるということを表現しています。先ほどの、がんをできるだけ小さく切るということもそうですし、あとは塚越先生、分子標的薬も、副作用を減らしてQOLを高めるということが言えるわけですね。 塚越 そうです。分子標的治療薬は、がんの増殖とか転移に関連する小さな分子を攻撃するため、ピンポイントの治療になると思われます。ですから、非常に的確にがん細胞を殺すことはできますが、大きなかたまりを即取り除く治療ではありません。そこで初めに外科、放射線あるいは化学療法の強力なものを施しておいて、後で維持療法をするという形なると思われます。 そしてこれからの時代は、先ほども田辺さんがおっしゃったようにQOL重視の時代です。いくら病気が治ったと言われたって、社会生活に復帰できない、社会性がなくなってしまう、生理的にまだ問題が残っている、ベッドに寝ていなければならない、ということでは困りますので、がん化学療法では副作用軽減療法の研究が進められつつあります。 例えば、いま研究の一つに口内炎、粘膜炎という病気があります。薬によってはこういうところがただれて、飲み物や食べ物が非常にとりにくくなるため、これを制御する治療法も進められております。これがすべてQOLに影響しているものですから、これからの時代はQOL重視の化学療法であれば、必ず副作用を制御する治療法を車の両輪のように同時に進めていく時代になり、これは既に実施されています。 シスプラチンという白金の薬がありまして、卵巣がんにとてもよく効きました。そして、その副作用として大きかった悪心、嘔吐を制御できる薬物が現れました。支持療法という非常に大きな枠の中に入る副作用救済療法が進んでいることをここで申し上げたいと思います。 田辺 ありがとうございます。続いて佐々木先生、重粒子線治療などがどこでもできるようになると、がんもかなり簡単に治るような印象がありますが、これは大型機器であることが一つのネックとおっしゃっていましたが、この機械をもっと増やせば、国民のプラスになるのではないでしょうか。 佐々木 おっしゃるとおり、これは非常に有効な治療法ですので、私どもはぜひこれまでの経験に基づいて世の中に広げていきたいと考えております。しかし、なにぶん費用のかかる装置です。先ほども、小型普及型の治療装置の開発研究をしていると申し上げましたが、当面の短期的な目標では100億円ぐらいでつくれないかということです。これは一般の医療機器の10倍ぐらいにあたりますので、どこが負担するかということが大きな問題です。そこで私どもとしては、技術的にはできるだけ小型のものを提供し、またそれを動かす、それを使った適切な治療をできる人材の養成はいたしますが、ぜひこういう治療法を広めるために国や自治体、あるいは民間など、ぜひとも多く人々の手でこの研究開発の実現に向けて予算化の努力をしていただけたらと思い、働きかけています。 田辺 実際に重粒子線機器で治療すると、たとえば1人分でどのぐらいの費用がかかるのですか。 佐々木 先ほど申し上げましたように、重粒子線治療は11月に高度先進医療に認めていただきました。高度先進医療というのは、保険診療の中で高度先進医療の部分だけは患者さんが全額負担するという制度でありますが、そのためにお1人にかかる費用を計算する仕方があります。それに基づいて計算すると、現在お1人314万円をいただくことになります。ですから、江川先生のところよりももっと高額な医療ではないかと思いますが、それ以外のところは保険がきくという点が、高度先進医療と自由診療の違うところであります。高度先端医療は日本の医療制度の中では保険適用をされる一つの中間点ですので、何とか早く保険適用を受けて、早く患者さんの負担を3割で済むようにしたいと努力しています。 田辺 垣添先生、先ほど佐々木先生の話では、前立腺がんで90%の治癒率ということでしたが、300万円は高い額なのでしょうか。 垣添 これは、命をどう考えるかということで、なかなか難しい問題です。たとえば、前立腺がんの治療で、去年の7月から日本でも認可された、アイソトープをたくさん前立腺の中に埋め込むという放射線治療法があります。日本で認可される以前に、アメリカですで行われていたので、その治療を受けにいかれた患者さんを私は何人も存じ上げておりますが、その当時アメリカに行って治療を受けると、やっぱり300万円ぐらいなんです。数日で元気になって帰ってこられますから、その300万円が安かったか高かったかということになるわけです。確かに非常に大きなお金ですけれども、例えば佐々木先生がお話しされたように、手術をしなければ目を失ってしまうような患者さんが、視力を残したままで治せるというとき、私がもしそういう患者になって選択を迫られたら、私は治療を選ぶのではないかという気がします。つまり、そのくらい非常に重要な臓器の保存に関して重粒子線が威力を発揮するのだとしたら、お金よりも私は治療を選ぶと思います。
田辺 次に、それぞれの先生方のお話の中で、ほかの治療との組み合わせである「集学的治療」という言葉が出ておりました。その一つとして、これから免疫療法も期待できるのだと思いますが、江川先生、昔は、免疫療法をやるときは化学療法をやってはいけないとか、放射線を当てると効果が落ちるなどと言われましたが、先生の治療法はそうではないわけですね。 江川 がんとは大変難しい病気ですから、できることは何でもやって総合的に治していくという態度でないと、うまくいかないと思います。化学療法が免疫療法と合うのかということですが、我々のところにいらっしゃる患者さんの中には徹底的に抗がん剤を使われて、骨髄細胞が荒廃してしまったような方がいらっしゃいまして、確かにそうなると、免疫療法は効きにくいと思います。そして、がんという病気が免疫療法にとって難しい、その一つのポイントは、がん細胞自体が免疫を抑える性質を持っているということです。これに抗する術を開発しなければ、本当に免疫療法は十分に効くようにならないのではないかと思っております。 我々もこの面の基礎研究に力を入れてやっているわけですが、現状でもがんによる免疫抑制をどうにかしようという方法が全くないわけではありません。その最大の方法は少量の抗がん剤を使うということです。ですから、普通にがんの治療に使われる大量の抗がん剤より大分少ない量を体に入れてやると、がんによる免疫抑制が抑えられるということがあって、抗がん剤と免疫療法との併用がうまくいく一つの理由になっているのではないかと思っています。 田辺 垣添先生、先ほど塚越先生は、今世紀の半ばぐらいにはがんになっても平均寿命ぐらいは生きられるという見通しをされたわけですが、垣添先生は未来のがん治療について、どのような見解をお持ちでしょうか。 垣添 がんは遺伝子の病気であるとお話ししました。したがって、老化とがんとは不可分の関係にありますから、この世の中からがんという病気が消え去ることはないと思います。ただし、がんになる方を少なくする、いわゆる罹患率(りかんりつ)を下げることは可能だと思います。 それから「がん予防」として、一番大事なのはたばこを吸わないことだと思います。加えて、食生活にも気をつける。そうした日常生活への注意によってがんになる人が減ることがあります。そして「早期発見」とよく言われますが、実はこれはあまり早く見つけると、本当にがんかどうかわからないという新しい問題がいま、起きているんです。私が最近申し上げているのは、早期ではなく適時発見。つまり良いタイミングで、あまり進まない状況でがんを見つけてきちんと手を打つということで、検診というのはやはり非常に重要だと思います。がん予防というのは、がんにならないことと、なってもきちんと治療することによってがんによって死なないというのが可能になるわけで、これは日本中で取り組んでいかなくてはいけないことだと思います。 治療成績は、今日いろいろな先生からの話にあった通り、診断に関しても、治療に関しても、非常に進歩しています。ただ、いま治せるがんは、さらに治し方の工夫が進んで、患者さんの負担がもっと少なく治せるようになるだろうと思いますが、苦労している分野も未だあります。胃がんの多くはかなり見通しが立ってきましたけれども、たとえばスキルス胃がんと言われる硬性がんと言われるがんは依然として診断も治療も難しいですし、先ほど私が申しましたような膵臓がんも非常に難しいがんです。こういうがんに関して早期発見の方法が開発され、それから治療法が開発されると、21世紀の半ばよりももっと手前の段階でがんという病気がコントロールされるようになれば、私はすばらしいと思いますし、その可能性はあるだろうと思っています。
田辺 国立がんセンターでも取り入れ始めたPETという診断装置がありますが、これはいかがでしょうか。PETは全身のがんを一応診断できるということになっておりますけれども、これは検診的に使えるものなのでしょうか。それとも、先ほどの放射線の問題等からまだ重すぎる検診なのでしょうか。 垣添 今マスコミの一部の報道などで、PET検査を受ければがんのすべてがわかるといった誇大な報告がときにされているように思います。あるいは、よその国へ行って観光がてらPETを受けて帰ってくるという話までありますが、私は時期尚早だと思います。つまり、PET検査が一部のがんを早期に発見する非常に有用な手段であることは間違いないと思いますが、PET検査を受ければすべてのがんが早期に見つかるということは決してありません。PETが非常に弱いがんの領域もあります。私どもはこの2月から国立がんセンターの中でがん予防と検診の研究をする「がん予防・検診研究センター」を開所しまして、そこでは確かにPETは検診の手段として取り入れていますけれども、その前に前提として、通常の最新の検診の手段をフルセットできちんと受けていただいた方にオプションでPETを受けていただき、その両者を対比して、本当にPET検査が検診の上で役に立つかどうかという結論を出そうという方針になっています。ですから、今すぐ結果は出せませんけれども、数年たつとこの結論を出して、皆さんに情報として利用していただけるのではないかと考えています。 田辺 それから今後にむけて、「未来のがん治療」と、それから「私たちが知っておきたいこと」というテーマがありますが、がんについても、我々患者の側からいくと、どこの病院へ行ったらいいのかということから始まって、あるいはこういう治療が本当にいいのか、いろいろな情報があります。それで、最近はがんだけの専門雑誌というのもいくつも出ているんです。また一方では、民間療法、代表的なのがアガリクスというキノコですが、こうした健康食品などの情報も世の中にあふれています。こういうものをどのように理解してどのように考えていったらいいんだろうかということを我々もまた悩んでいるわけですが、塚越先生、今のような部分で、がんの情報、あるいは治療の情報であったり、例えばホームページを見るといろいろなことが出てくるんだけれども、これは正しいのかどうかといったことはどうでしょうか。 塚越 これは非常に難しい問題です。本当にがんに効くんじゃないかという思わせるような表現があれば、飛びついてしまう人が非常に多いため、いかにその裏を見抜く力があるかによります。今私たちが見る限りでは、民間療法でがんが完治するというのは充分確かめられていないと思っています。非常にたくさん医学情報が、これでがんが治る、このがんになったらこうしろ、あるいはこの治療薬はがんに絶対効くとか、いろいろな情報が載せられていますが、これを見抜く力が必要ですね。でも、これをご専門以外の方が、そんなのわかるはずがないじゃないかと言われたらそれまでですから、そういうときはどうするかというと、ぜひがんの専門医をお訪ねいただいて、聞いていただきたいんです、「こういう治療法が載せられていますけれども、大丈夫でしょうか」と。このぐらいのかかわりは必要だろうと思います。マスコミで伝えられているもののなかにはきちんとした表現も随分あります。しかし、そうでない情報も流れているんです。ですから、ぜひ専門医の意見を聞いた上でご判断願いたいというのが私の考えです。 田辺 江川先生、なかなか免疫療法というのも、受けとめられ方が変わってきているわけですが、先生の立場からは、健康食品やいろいろな民間療法に対しては、今の塚越先生などの感覚とは違って、もうちょっと別のところで見られますか、それとも同じでしょうか。 江川 これはなかなか難しい問題です。我々のところにいらっしゃる患者さんは、ほとんどすべての方が何らかの民間療法をやっていらっしゃいます。健康食品の類も皆さん試しておられます。それで、我々は無理に「そんなものはやめなさい」とはあまり申し上げません。患者さんが納得してやっていらっしゃるのであれば、別に悪いものではないから、いいのではないか。ただ、中には、あまりたくさん使われてご飯が食べられないといった方もおられますので、そういう方には、「それはいくらなんでもいき過ぎだから、ちゃんと普通の栄養をとられるのが一番です」ということを申し上げます。末期がんがそういったもので例えば80%治ったとかという話ですが、それを判断する一つのポイントは、その80%なり何なりという、その数字の出どころです。何分の何だから80%なのか、その分母がどういう集団なのか、それから分子に含まれている有効症例というのがどこまで含むのか、それを理解するかどうかは別にして、そういうことが書いてあるかどうかということをチェックすることが一般の方々にとっては大切ではないかと思います。 田辺 ありがとうございました。佐々木先生、放射線治療も結構しんどいということで、ニンジンとか、漢方薬とか、健康食品とかを使ってだるさなどを和らげている人もいるようですが、先生のところではいかがですか。 佐々木 まず、がんの放射線治療がしんどいというのは誤解だと思います。20年前、30年前の放射線治療と違って、現在の放射線治療というのは、極めて精度の高い治療計画が立つようになりましたので、副作用が極めて少ないのです。しかし、それでも、例えば子宮に放射線をかけるとどうしても腸にもかかってしまうので下痢をするとか、あるいは肺がんにかけると放射線肺臓炎を起こすとか、皮膚が少し赤くなるとか、そういうことはどうしても起こります。しかし、それに対しても症状を取るためのいろいろな治療法がありますし、放射線をかけている間にはある期間そういうことがあっても、かけ終わればそれはなくなってしまうわけですから、放射線はきついというのは一般論としては誤解があるのではないかと思います。それに、私どもの重粒子線治療はお医者さんも受けに来られるのですけれども、「これで本当に放射線が当たっているのかね」と心配される方がおられるぐらい、治療そのものは大変ではありません。ただ、先ほど申し上げましたけれども、照射している時間は短いんですけれども、位置をきちんと決めるとか、そういったことで1回に30分ぐらいの間照射室に入っていなくてはならないということはありますが、それもつらいというものではないということをまず申し上げたいと思います。 民間療法については、私はこのように思っています。私が医者になったのは約40年も前ですが、当時はがんというのはほとんど治らない病気ということで、医者ですらある程度進行したものは治せないとあきらめていましたし、患者さんには絶対にがんだということは言ってはいけないという時代だったと思います。現在、がんは治る病気だと思います。今日お話が出ましたように、いろいろな治療法があるわけですから、そういう方法を駆使すればかなりのがんが治るようになっているわけです。仮に進行したがんであっても、それに対していろいろな治療法はあるわけですから、それをきちんとやっていただく。その上で、余裕があって、ほかの治療もやってみようとなさるのは結構なことだと思いますが、民間療法を頼りにすることで、本来なら見つかるがん、あるいは治療できるがんを、時期を逸してしまうとか、そういうことがあってはならないと思います。そういう意味で少し厳しく言えば、私は民間療法というのは原則的にはお勧めいたしません。医療をしっかりと受けていただきたい。その上でどうしても、気休めにもなるのだからやりたいという方はやられればいいだろうと思っております。 田辺 国立がんセンターは日本を代表するがんの専門病院ですけれども、患者さんは日本を代表する患者さんかどうかわかりませんが、垣添先生、国立がんセンターにくる患者さんも民間療法的なものや健康食品などを使っていらっしゃるのでしょうか。 垣添 国立がんセンターできちんとした調査はされていないんですけれども、厚生労働省のがん研究助成金の班研究で調べられた2年ほど前の調査結果では、恐らく日本人のがんの患者さんの40%以上の方が、医師に自分はこういう薬を使っているということをお話にならないで、いわゆる民間療法の薬を使っておられるそうです。その平均の額が大体月に3万円から4万円ぐらいと聞いています。中には10万円以上使っている方もある。あるいは全然使っておられない方もいる。平均でそのくらいということで、非常に大きなお金が使われているようです。でも、本当にそういう薬が効いたという証拠はほとんどないという状況です。がんの細胞に対して効いたとか、あるいはがんを持っている動物に対して効いたというデータはあるんでしょうけれども、人に対して有効だったということを証明するには非常に難しい研究をやらなくてはいけないんですが、そういう証拠がなしに使われているということだと思います。
田辺 塚越先生、実際どんな研究でも最初は動物に使って効いたというところからがんの薬というのはできるわけですが、やはり人に効くということを証明するのは、難しいものなんですね。 塚越 そうですね。治療医がどのくらい経験を持っているか、それからこのがんに対して的確な治療の方法を知っているかどうかが非常に大事なことなんです。がんの薬を生かすも殺すも担当医次第。ですから、ぜひ専門医を訪ねていただきたい。がんの治療薬は効くものがたくさんあります。佐々木先生も江川先生も垣添先生もおっしゃいましたが、がんの治療法は目覚ましく進歩しているんです。その中でがんの治療薬も新しい治療法も少しずつ見つかっておりますので、できるだけ安全で、かつ的確に、しかも外来でできたら非常に望ましいと私は思っておりますので、そういう治療法を実施できる医療施設を訪ねていただけないかと思います。では、どうしたらいいのか。がんの専門病院がすぐ近くにあれば、それにこしたことはありません。あるいは、がんの看板を掲げてくださっている診療所、クリニックがあれば、そこも一応お訪ねになる必要があると思います。そういうわけで、がん治療薬は副作用がございますが、的確な効果を出す治療法の選択にもかかわりますので、ぜひ今後は専門医への相談を心がけていただきたいと思っております。 田辺 今のお話は、がんの薬を専門的に扱う、アメリカなどではオンコロジストと言いますが、日本ではそういう専門の先生というのは普通の町中の病院などにはなかなかいらっしゃらないということがバックにあって、もう少し専門的な方のいる病院にというのが塚越先生のご意見だったと思います。がん治療の化学療法の専門医が少ないというのと、それから佐々木先生、放射線の治療医も少ないという話がありましたが、これは何で少ないんですか。 佐々木 いくつか理由はあると思います。先ほど申し上げましたように、アメリカではがんの患者さんの約半分の方が放射線治療を受けておられるのですが、日本ではがんの患者さんの25%しか放射線治療を受けておられないということがあります。もちろん、その治療の仕方、あるいはがんがアメリカと日本で全く同じというわけではないのですけれども、これだけの差があるということは、日本では各科の医者の間も含めて放射線治療の有効性が十分に認識されていないのではないかと、放射線科医の立場では考えております。患者さんが増えてくれば、そういう分野で放射線治療をやろうとする医師も増えてくるのではないかと思いますが、そういう実態の中で、なかなか放射線治療をやろうという若い医師が、いまだ少ないのが現状だと思います。 田辺 私も昔、放射線治療が少ないのは、外科医へ行ったら、外科の先生がみんな切ってしまって放射線へ回さないからだなどという記事を書いたこともあるんですけれども、垣添先生、今はそんなことはないですか。 垣添 いや、やっぱり残念ながらそういう傾向はあると思います。ただ、がんの治療法というのは非常に進歩していて、診断名は胃がんだとか肺がんで同じであっても、患者さんごとにみんな違うんだという認識が高まっています。そうすると、その患者さんの病態に合った治療は何かということで、例えば局所治療にしても放射線と手術があって、それから全身に広がったときには化学療法とか免疫療法とか、あるいはその組み合わせがありますから、非常に選択肢が増えてきます。そういうときにどれを選ぶかということが非常に重要になってくるわけです。ですから、日本でこれまでは手術が非常に力を示してきましたし、外科療法は重要ですが、これからは患者さんにきちんとした情報をお伝えして、それでよく相談しながら、ほかの治療法と比較しながら治療法を決めていく。そして、そのよい点と具合の悪い点をよく比較考量しながら選択していく時代に確実に入ってきつつありますし、今後はさらにそれが進んでいくだろうと考えています。 田辺 それで出てくるのは「セカンドオピニオン」という診療スタイルです。これはある病院で「あなた、これは手術しかありません。喉をぐっと切りましょう」というのを「いや、放射線がいいんじゃないか」という意見を聞きたいということで、別の病院へ行って、「治療法をこう言われましたけれども、本当に切らなければだめでしょうか」と聞くことができる、そういう制度です。国立がんセンターもセカンドオピニオンを受け付けているんですね。 垣添 はい、たくさんの患者さんを受けいれています。特にここ1〜2年、セカンドオピニオンとして専門家の判断を聞きたいという患者さんの数が急増しています。たくさんの資料をお持ちになっておいでになるので、受ける側も非常に時間がかかりますし、高度な判断をしなくてはいけませんから大変ですけれども、私どもの責務として最大限取り組んでいます。先ほど申しましたように、いろいろな選択肢があるときに、果たしてどれがいいのかということを、例えば外科の先生からだけ話を聞いて手術にいかれるのではなくて、放射線治療の専門家に話を聞かれるとか、あるいは化学療法の専門家の話を聞かれるとかということは非常に必要です。病院の中の体制を考えますと、その週に新しく受診してこられた、例えばがんの患者さんの治療をどうするかというときに、それぞれの専門家、外科医と放射線治療医と化学療法医、診断のほうではレントゲンの診断医とか内視鏡の診断医、それからできれば病理の先生も加わったグループで、その患者さんの診断なり治療なりがこれで良いのかということを十分に議論するということが本当は必要なんです。大きな病院の多くがだんだんとそういう体制になりつつありますけれども、まだ十分でないところがあって、その方向に日本中が動いていくような取り組みをしないといけないと私も考えています。 田辺 ありがとうございます。佐々木先生、先生のところの重粒子線治療などは、患者ががんだと言われたから重粒子線治療を受けたいということで、ポッと窓口へ行って受けられるというものではないわけですね。 佐々木 いいえ、そういう患者さんも受け入れております。私どもには重粒子線治療の相談の外来というのがございますので、そこを直接訪れていただければ、そこでご相談に乗るということをやっています。実際に治療している患者さんの大部分はほかの病院からのご紹介で、ご相談を受けて、医者同士で患者さんの状況を十分に把握して、重粒子線治療の適応であるかどうかということを相談の上、ある程度有効性が高いということになれば患者さんに来ていただいて、本当に重粒子線治療ができるかということの判断をする。そういう形の患者さんが多いのですけれども、一般の患者さんが直接放医研の外来に訪れて相談するということもできるようにしております。 田辺 なるほど。そうすると、今度は患者さんは別の病院でがんだと言われたときに、それこそセカンドオピニオン的に「例えば重粒子線治療というのはどうなんでしょう」などということを聞いたりしていくと、今のセカンドオピニオンという1人の先生がパッと言うというのではなくて、英知を集めていくような形になるわけですね。 佐々木 実際に治療している患者さんの大部分は多くの病院からのご紹介です。重粒子線治療の臨床試験というのは、外部の専門家、それぞれの領域ごとの多くの専門家とご相談しながらやっておりますので、大多数の患者さんはそういう重粒子線治療をよくご存じの外部の先生方が放医研に依頼されるというケースが多いのですけれども、最近は重粒子線治療が大分認識されてきましたので、主治医の方に「重粒子線治療はどうか」とご相談になれば、その主治医の先生が放医研に問い合わせるということは十分にあると思います。問い合わせがあれば、私どもは重粒子線治療の適応であるかどうかをよく主治医の先生とご相談するということになります。ただ、「そんな治療は知らない」という先生方もまだまだおられるかもしれません。そういう場合には直接私どもの病院のほうを訪れていただいて、本当に重粒子線治療ができるかできないかということを相談していただければいいのではないかと思います。 田辺 なお、補足をいたしますと、放射線治療のなかには重粒子線に近いもので陽子線というのもあります。この陽子線などは、先生のところの国立がんセンター東病院等にもありますし、全国でいくつかできる。6カ所ですか。例えばどういうところなんでしょうか。 佐々木 放医研にも陽子線治療ができるサイクロトロンがありますが、国立がんセンター東病院、若狭のエネルギー研、それから静岡県の県立がんセンターでもうそろそろ始まるんじゃないかと思います。それから、兵庫県の粒子線治療センターは、陽子線治療と、それから炭素線、重粒子線治療と両方ができるようになっておりますが、炭素線治療はまだ始まっていないかもしれません。それから、筑波大学に陽子線治療ができる施設がございます。 田辺 ということで、この「未来のがん治療と私たちが知っておきたいこと」、実際いろいろなお話が出てきたと思います。本日は皆さんお忙しいところを一日お付き合いくださいまして、本当にどうもありがとうございました。先生方、どうもありがとうございました。 ![]()
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