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現職参加制度は社員の生き方の可能性を開き経験を組織に還元できる仕組み ソニー株式会社 電子計算機(タイ)藤井 豊子さん

 1946年の創業以来、様々な分野で新しい価値を創造してきたソニー。その原動力の1つが、人種や性別、年齢などにとらわれずに社員の持っている多様な個性や文化を尊重し生かしていくというダイバーシティ(多様性)の考え方だ。同社がいち早くボランティア休暇制度を導入し、これまでにJICAの現職参加制度(会社に籍を置いたまま参加できる制度)も含め30名以上の青年海外協力隊員を送り出してきた背景には、このダイバーシティという価値観を大切にしてきたという社風がある。

 1996年から2年間、青年海外協力隊に現職参加制度を利用して参加したB2Bソリューション事業本部の主任技師の藤井豊子さんに当時の貴重な経験や帰国後の自身の変化などについてお話いただくととともに、CSR部CSRマネジャーのシッピー光さんに青年海外協力隊員が組織に与える影響や、同社の社会貢献活動についてのお話をうかがった。

背中を強く押してくれた現職参加制度

インタビュー写真

藤井豊子さん

 私の最初のボランティア体験は小学校の時でした。通っていた小学校がキリスト教系ということもあり、養護施設、お世話になっている近所の警察や病院に花や果物などを季節毎に持って行く活動が日常生活の中に組み込まれていたのです。中学、高校になると、自分でもぬいぐるみや衣類が作れるようになり、それを施設に持って行くのが楽しみになりました。こうした日々のなか、これまで会ったことのない人に会うことができて、しかもそうした方に喜んでもらえたり、自分にスキルが身に付いていったりすることにボランティア活動の魅力を自然に感じるようになっていきました。社会人になってからは、休日を利用して地域のボランティア団体や留学生と交流するNPOのお手伝いを始めました。現在もアジアやアフリカの子ども達へ教育支援を行うNPO活動に参加しているほか、自分と同じ病気を経験している患者会活動のお手伝いもしています。

 初めて青年海外協力隊の存在を知ったのは、20代半ばのこと。以前勤めていた会社の同僚が2人、退社して協力隊に参加したのです。こういうボランティア事業があるのかと知った私は、自分もいつかスキルを生かして協力隊に参加してみたいと、説明会やイベントに足を運ぶなどして少しずつ情報収集を始めました。そして、ソニーに転職して3年目、会社にボランティア休暇制度が導入されたことを知ったのです。それは、会社に籍を置いたままボランティア活動ができる上、休職中も一定の給与を保障してくれるというもの。まさに、社員にとっていろいろな生き方の可能性を開いてくれる制度です。この制度の存在が、私の背中を強く押してくれました。

タイ語に苦労し授業準備に明け暮れる日々

現地写真

コンピューター教室の様子

現地写真

タイ語を駆使しての授業風景

 早速、協力隊への受験を決意した私は、学生時代に取得した免許が生かせる理数科教師の職種を選択。こういう試験は二、三度落ちてから受かるものと勝手に思いこんでいたのですが、意外にも一度目で合格。しかも、半年後にガーナに赴任するとのこと。あわてて上司に相談したところ、「もう1年待ってほしい」と説得を受けました。理由は、私が専門とする色彩工学は特殊な専門分野であるため、後継者を育てるのに最低一年はかかるというもっともなものでした。この説明に納得した私は、次年の受験を目指すことに気持ちを切り替え、職種も先端分野に近いと思われた電子計算機に変更。幸い、再度合格することができ、赴任先はタイに決まりました。決まった時は、タイ語に苦労することが目に見えたため、当時38歳だった私はこの歳でできるようになるのかと不安な気持ちになりました。でも、JICAの訓練所と現地の大学で半年近くタイ語をみっちり学んでから赴任できたので、本当にありがたかったです。

 私の任務は、タイの中北部のガンペーンペットにある国立総合大学の理学部電子計算機学科で、コンピューターのハードウェアの授業を行うというもの。最初の半年間に見学や手伝いをしながらタイ語を覚え、それから教え始めたのですが、日常会話程度はなんとかなるものの、読み書きが本当に大変で、タイ語のキーボードが打てるようになるまで非常に苦労しました。授業ではひどいタイ語で生徒も大変だったと思いますが、「英語よりましでしょ」と我慢してもらいました(笑い)。2時間の授業が週4回程度でしたが、実験を行ったり、事前にテキストを作成する必要があったので、授業準備に朝から晩までキーボードに向かったり、回路実習の準備をしたりする日々でした。

人との関係や笑顔を大事にする文化に影響受ける

インタビュー写真

 活動は非常に充実していましたが、カウンターパート(※)がいないことが大きな悩みでした。通常はカウンターパートを育てることが協力隊のスタンスですが、どういうわけか私にはいないとのこと。自分の経験が伝えられないのを残念に思った私は、他大学を見学するうちにタイ全土を自分の活動場所にすることを思いつき、教育省に電子計算機のハードウェア教育に関するセミナーを開くことを提案。幸い、各方面の協力を得ることができ、先進的教育を行う3大学を選んで3回にわたってバンコクなどでセミナーを開くことができました。この活動を通じて、教員間で様々な情報交換を行えるネットワークもでき、大きな収穫となりました。

 もう一つうれしいことがありました。電子計算機科の秘書だった女性が、働きながら大学の社会人コースやスクーリングに通い、さらに大学院まで修了し、現在はソフトウェアの講師になったことです。実は彼女こそが私のカウンターパートだったのだと後から気づきました。彼女の向学心に敬服すると同時に、彼女のような人材が無料で高等教育を受けられて大学講師にまでなれる制度を持つタイは本当に良い国だと実感しました。

 現地での生活は、電話線は大学に1本、週2回は停電や断水、家にはアリやオオイエヤモリが侵入し、外に出ると野犬に囲まれ、3メートルくらいのオオトカゲにも遭遇するといったワイルドなものでしたが、タイ料理を覚えたり、地元の小中学校と交流したり、タイ隊員有志で中学教育支援を行ったりと、非常に楽しいものでした。

 実は私は人よりも機械の方が好きという性格だったのですが、人との関係が密接で、お礼は必ず手を合わせてほほえむという文化の中に身を置くことによって、私も大いに影響を受けました。帰国後、職場での幅広い世代の人とのつきあいにすぐに順応できたのは、タイでの経験が大きいと思っています。職場復帰の際は不安でしたが、心配は無用でした。あせらず復帰できるよう配慮してくれた会社にとても感謝しています。

 今後もボランティア活動を続けていきながら、いつかはシニアボランティアに参加することを目標に、今度は自分に何ができるかを考えていきたいと思っています。

(※)ボランティアの協力活動を共同で遂行する現地側のスタッフのこと。

シッピー光さん

仕事では得られない知見を持つ協力隊経験者は貴重な人材
シッピー光さん(CSR部CSRマネジャー)

 ソニーでは、社員が社会との接点を持つことは随分前から推奨し機会や情報を提供してきましたが、青年海外協力隊への参加は我々が進めているボランティア活動の発展した形だと捉えています。
 当社での社会貢献活動については、これまで事業所のある地域で行われることが中心でしたが、今は貧困や環境など世界が抱える課題に貢献することが期待される時代です。こうしたグローバル企業としての社会貢献活動には、協力隊経験者の知見が生かせるケースが増えてくるでしょうし、私たちとしてもそうした場を作っていきたいと考えています。
 社員の中でも協力隊経験者は、仕事では得られない知見を持っているとともに、多様な価値観を受け入れられる存在として、当社が重視しているダイバーシティの観点からも周りの社員に好影響を与えることができる貴重な人材です。私たちも社内でCSRフォーラムを年に数回開催していますが、社会貢献への社内の意識は年々高まっているように感じています。今後とも、様々な経験を持つ社員と連携を取りながら、社内の意識を高めるとともに、ソニーの得意とするフィールドで社会貢献活動を拡充していきたいと考えています。

株式会社ソニー CSR情報
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