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青年海外協力隊体験談 食の現場でも生かせる国際貢献で培った責任感と主体性 野菜(セネガル共和国)/2004年4月〜2006年7月 タカナシ乳業 群馬工場製造一課 北村眞一さん

 2006年に青年海外協力隊経験者の募集を開始して以来、わずか3年間で9名の採用を行ったタカナシ乳業。これは、自らの意志で異国の地に飛び込み、国際貢献の道を切り開いてきた彼らの責任感やバイタリティー、主体性や決断力を高く評価した結果だ。もちろん、入社後もそれぞれが自らの能力をいかんなく発揮するとともに、各組織に活力を与えており、社内外の評判も非常に高いという。

 同社群馬工場製造一課に在籍し青年海外協力隊経験者である北村眞一さんに、現地での活動内容やその経験が現在に生きている点などについてお話いただくととともに、同社の採用担当である総務人事部採用教育課課長代行の大橋昌行氏に、青年海外協力隊経験者の採用の背景や彼らの現場での活躍の様子についてお話をうかがった。

当初は自分の無力感を感じる日々

インタビュー写真

北村眞一さん

 私が国際協力やボランティアというものを初めて意識したのは、10歳頃のことでした。きっかけはテレビCM。当時放送されていたユニセフの広告で栄養失調の子どもの姿を見てからというもの、彼らのことがずっと頭から離れず、将来はアフリカの子どもたちを飢餓から救う仕事に関わりたいと強く思うようになっていったのです。大学での専攻も、アフリカを意識して乾燥地農業を選択。青年海外協力隊に応募したのは大学院の修士課程在籍中のことでした。そして、翌年の2004年 から2年間、セネガル共和国に赴任することになったのです。

 初めて降り立ったセネガルの印象は、なんといっても人々が皆オープンな雰囲気を持っていることでした。後々になって、多少時間にルーズだったり約束を簡単に破ったりすることも多いことに気づかされることになるのですが、あっけらかんとして悪気は全くゼロなので南国出身の私は自分に近いものも感じ、気づいた時にはすっかりセネガルの人々に魅了されていました。

 私の具体的な活動内容は、農村の女性たちに野菜栽培を教えること。セネガルの農村の女性たちは日々の家事労働に追われ、夫の農業を手伝うことはほとんどありません。それに、セネガルでは野菜は贅沢品ですので、たとえ農家でも野菜は週に2回程度しか食べられないという状況。もしも女性たちが家事の合間に野菜を栽培することができれば、もっと家族に野菜をたくさん食べさせてあげられるでしょうし、現金収入への道も開かれます。

 そこで、私が着手したことは、セネガルの農業の特徴を知ることでした。近隣の村を巡回して彼らの支援ニーズを把握するとともに、実際の野菜栽培の現場に参加し現地に適した農法を学びました。まず、苦労したのは言葉です。公用語はフランス語ですが、現地では皆、セレール語と呼ばれる民族語で会話しています。私は覚えた言葉、実際に通じた言葉をノートにメモしながら、自分だけの“辞書”を作って言葉を覚えていくしかありませんでした。また、種、肥料、農薬、水の不足、土壌塩分の問題など、様々な課題にも直面しました。苗の作り方も日本とはまるで違う。農業の指導に来たのに、日本で学んだことはほとんど役に立たず、完全にこちらが教えてもらう側。学校菜園に挑戦してみても、予想外の鳥の被害で作物は台無し。しばらくは自分の無力感を感じる日々が続きました。

なんでもやれるという自信がついた

現地写真

現地の女性たちと栽培したトマト

現地写真

農業セミナーで「自然農薬」の作り方を教えているところ

 しかし、悩んでばかりもいられません。1年間現地で経験を積み、言葉もある程度わかるようになったのを機に、当初の目的に取りかかることを決意。そして、女性たちとどんな野菜を栽培しようか検討したところ、ちょうど雨期にさしかかる時期だったこともあり、比較的雨期でも育てやすいオクラを育てることにしたのです。場所は、村の女性グループのリーダーの畑の一角を借りました。その頃は鳥害のこともわかっていましたので、見張りの守衛さんも雇いました。

 言葉がある程度通じるようにはなっていたものの、女性たちとの関係は、最初は探り合いでした。習慣も違えば、考え方も違う。栽培の方法でもお互いが歩み寄りできず喧嘩もしました。しかし、最終的には理解し合うことができ、その後は何でも言い合える仲になり、結婚式や子どもの命名式にまで呼ばれるような関係にまで発展させることができました。

 5〜6人で細々と始めたオクラの栽培でしたが、5カ月ほど経って収穫期を迎えた時は、セネガルに来て初めての達成感を味わうことができました。自宅でもオクラ栽培を始める女性が出てくるなど、女性たちの間に積極性、自主性が出てきたことも実感することができ、うれしかったですね。続く乾期では、タマネギ、トマト、サラダ菜をより広い畑で栽培することに決定。今度は、村の女性グループが交代で作業に参加しながら、なんと40人全員が参加してくれるまでに活動は発展していきました。収穫期には現金収入も獲得。その時の彼女たちの喜んだ顔は今でも忘れられません。

 セネガルでの経験は、私にどこにいてもなんでもやれるという自信を与えてくれました。コミュニケーション能力も身に付き、人としても変わることができたと思っています。帰国後はタカナシ乳業に入社。食の現場で働きたいという夢が叶い、本当にうれしく思っています。他の企業もいくつか受けましたが、どこの企業よりも青年海外協力隊での経験を高く評価してくれたタカナシ乳業に入社が決まった時は本当に感激しました。現在は、ヨーグルトの製造・管理を担当。食に関わる者としての責任感を実感する充実した日々を送っています。今の仕事に全力投球しながら、今後もなんらかの形でまたアフリカの食と関わっていけたらと考えています。

上司からのメッセージ

布谷彰さん

大橋 昌行氏
総務人事部採用教育課
課長代行

技術だけではなく人間性のある人材を採用できるチャンス

 当社が青年海外協力隊経験者を採用することになったきっかけは、休職して青年海外協力隊員としてボリビアで乳製品加工の指導をしてきた経験のある社員からのアドバイスでした。ちょうど食品メーカーとして食品の知識に加えて工場を運営していく上で必要なメカニックや電機関係の技術を持った人材の採用を検討していました。協力隊経験者ということで様々な人脈を持つ彼に相談してみたところ、青年海外協力隊経験者には技術を持った人材が多く、JICAを通じて求人を出すことが可能であるという情報を教えてくれたのです。それを聞いた私は、技術だけではなくバイタリティーもある優れた人材を採用できるチャンスと考え、2006年から青年海外協力隊経験者を対象にした求人票を出させていただくことにしたのです。

 実際に採用の面接で、青年海外協力隊経験者の方と話をしてみると、こちらが思った通りのバイタリティーにあふれた、熱い気持ちを持った人たちばかり。大学を卒業して就職先も決めないまま、国際貢献のために異国の地に単身で飛び込んで行くような人たちは、人と違った価値観や経験を持っているためか、皆非常に魅力的ですし、話していても面白い。それだけではなく、現地で我々が想像もつかないような多くの苦労を乗り越えてきているためか、ガッツもあるし社会人に一番必要である決断力にも優れていると感じました。

 当然、彼らのような人材は、会社や組織が困難にぶつかった時に突破できる原動力にもなりえるため、貴重な人材と言えます。当初は技術を持った人材を採用することを目的とした求人でしたが、採用を始めるうちに、ボリビアで柔道のナショナルチームのコーチをしていた方を採用するなど、いつの間にか人間性をメインにした採用を行うようになっていきました。

協力隊経験者ならではの人間力で組織が活性化

布谷彰さん

 この3年の間に、9名の青年海外協力隊経験者を採用していますが、全員が組織の中で活躍し高い評価を得ています。彼らの特筆すべき能力は、人間力とでも言える力です。例えば、当社では入社3年目から5年目の社員が新入社員を仕事以外の部分で指導していく「ブラザー制度」というものがありますが、北村さんは入社2年目にこの指導役に適任ということで工場側が推薦してきました。2年目の社員が指導役の辞令をもらうことはめったにないことなのですが、それだけ彼が人間性に優れ、組織に貢献しようという意識が強い人間であるという証明でもあると言えるでしょう。

 また、青年海外協力隊経験者が周りの社員に活力をもたらすという効果も大きいですね。彼らと一緒に仕事をするうちに、周囲の人間が知らず知らずのうちに人とは違った経験をしてきた者が醸し出すバイタリティーのようなものを感じ、結果として組織が活性化しているように感じます。特に繰り返しの仕事が多い職場ではどうしても活力がなくなってきてしまうことがありますが、組織には活性化が必要不可欠です。彼らのように目的意識を持って活動してきた人間は、特に若い社員にとっては仕事への意識を高めていくための大きな刺激になっていると思います。

 当社で働く青年海外協力隊経験者はまだ2年目、3年目の社員たちばかりですが、現在の仕事の延長線上に、例えば畜産技術者など国際協力に近い仕事に縁があるかもしれません。また、当社では環境、文化、スポーツ、食育などの分野で社会貢献活動にも力を入れていますので、その分野で活躍できる可能性もあります。そういった活躍の場を示していくことも、長い目で見て彼らの目標になるかもしれないとも考えています。

 もちろん、今後も青年海外協力隊経験者への求人は続けていく方針です。協力隊経験者には共通点もありますが、いろいろなタイプの方たちがいます。当社としても、そうした一人ひとりの個性を大事にした採用を行っていくことで、お客様を何よりも大事に考えるタカナシ乳業の新たな歴史を彼らとともに作っていければと考えています。


春募集 青年海外協力隊シニア海外ボランティア