採録 国際協力 特別座談会 海外ボランティアという選択 世界のために、わたしにできること

青年海外協力隊やシニア海外ボランティアなど、開発途上国に出かけ、現地の人たちと一緒に汗を流して活動する海外ボランティアへの関心が高まっています。「海外ボランティアという選択」というテーマのもと、JICAボランティア経験者と派遣予定者が参加した特別座談会が先日、都内で行われました。参加の動機や現地での体験、自分自身の成長などを語り合いながら見えてきた海外ボランティアの意義とは何か。参加を考えている人たちへのメッセージを含めた座談会の内容をご紹介します。

海外ボランティアへの参加は、誰の人生にとっても大きな転機

脇阪 まずは海外ボランティアへの参加動機を教えてください。柏谷さんはシニア海外ボランティアへの参加でしたね。

柏谷 そうです。リタイア後は今までと違った環境で何か新しい経験をしてみたいと現役の頃から考えていました。でも、在職中は具体的に決めることはできなかった。退職して間もない頃、新聞でJICAボランティアの説明会が開催されることを知りました。以前からJICAボランティアのことは知っていたものの、説明会へ行ったことはありませんでした。それで試しに参加してみたら「5S改善」を指導する要請がシニアボランティアにあるということを知りました。これなら私が40年間会社で培ってきた経験を活かせる上、それを現地の人たちに喜んでもらえる。こんなにうれしいことはないと、思い切って応募しました。

大野 私の場合はもっと人と接する仕事をしたいと思ったのが根本的な動機です。大学卒業後、コンピューター関連の会社でシステムエンジニアとして働いていたのですが、全く人と接する機会がなくて物足りなさを感じていました。そんなときに地下鉄の中吊りで青年海外協力隊の募集広告を見かけ、募集要項を調べたら理系の学部を卒業していれば「理数科教師」という職種に応募しやすいことがわかりました。よく調べてみたら要請には教員免許が条件となっていないものも多く、これなら私にもできる、やりたい、と思い応募しました。

脇阪 20代後半で会社を辞めて応募するというのは、かなり思い切った決断だったのでは?

大野 そうですね。会社員だった頃にパキスタンへ旅行に行ったことがあるのですが、そこで充実感を持って国際協力関係の仕事をしている人たちと出会ったことも大きかったと思います。それに世界にはいろんな文化や価値観が存在することに気づいたのもこの時。もっといろんなことを知りたいと強く思うようになりました。なので、応募した時点で合格したら会社は辞めようと心に決めていました。ウガンダから帰国後、大学院で教員免許を取って教師になったのも協力隊に参加したからこそ。JICAボランティアへの参加は私の人生の大きな転機になったと思います。

脇阪 松田さんは今年の6月にマダガスカルへ派遣が決まっているそうですね。

松田 はい。現地の農家をまわって野菜栽培や果樹の継ぎ木の指導にあたります。私が海外ボランティアに関心を持つようになったのは、高校時代に青年海外協力隊経験者の先生と出会ったから。農業や食べ物に関する学部に進学し、いつかは海外でもそういう関係の仕事をしてみたいと考えて農業系の大学へ進学しました。在学中にはタイの農家へ研修に行ったり、パプアニューギニアで自給自足の生活を体験したりしていたのですが、卒業後は結局地元に戻って銀行に就職しました。でも、やっぱり自分がやりたいことをしたいと強く思うようになって応募しました。

脇阪紀行氏

司会

脇阪紀行氏
朝日新聞 論説委員

タイ・バンコクのアジア総局在籍中に東南アジアの国々を取材、開発協力に関心を持つ。アメリカで援助政策を研究した後は、ルワンダや東ティモールなどの紛争後支援や村落開発の現場などでも取材をしている。

大野真理子さん

現地で気づいた、教える楽しさ

大野真理子さん
青年海外協力隊OG

1977年千葉県生まれ。2004年から2年間ウガンダ・ラカイ県で理数科教師として活動。参加前はシステムエンジニアとして働いていたが、帰国後に大学院で教員免許を取得。横浜市の教員採用試験に合格し、教師に。

柏谷征男さん

経験を活かせる喜びがある

柏谷征男さん
シニア海外ボランティアOB

1943年北海道生まれ。ビール会社で工場長などを務めて退職。2008年1月から2年間、単身でペルー・リマ市へ。靴や家具などの工場を巡回、40年間のキャリアを活かし品質管理や生産性向上に尽力。

松田紗千代さん

日本と現地をつなぐ架け橋に

松田紗千代さん
青年海外協力隊 派遣予定者

1985年三重県生まれ。東京農業大学卒業後、いったん地元で就職するも退職して参加。職種は野菜栽培。2010年4月からの派遣前訓練を経て6月にマダガスカル・ヴァキナンカラチャ県へ出発予定。

派遣前には語学力や技術面をサポートする研修プログラムも

脇阪 いざ海外で活動するとなると、不安な面はありませんでしたか?

松田 シニアの方と違って実務経験が少ないのはやっぱり不安です。でもJICAには技術補完研修という制度があって、私の場合は去年の秋からJICAボランティアのOBが主宰する「自然塾寺子屋」に参加。半年にわたって群馬県の農家で野菜栽培の実践技術を学ぶことができました。もちろん十分とは言えませんが、少しは自信になったかなと思っています。

大野 私の最大の不安は教員免許がないことだったのですが、実験や教授法を教えてもらえる技術補完研修を受けられたのは良かったと思います。ウガンダでは英語で授業をしなければならず、その点も不安でした。でも、派遣前訓練の中には生活に関する英語のクラス以外に授業に関する英語を教えてもらえるクラスがあって、そこで学んだ英語は現地での授業でもずいぶん役に立ちました。

脇阪 派遣前訓練にはどんなプログラムがあるのですか?

柏谷 語学を中心に任国事情や安全管理、体力づくりなどのプログラムがあります。私の不安はやはり言葉でしたね。派遣前訓練の2ヵ月間は毎日スペイン語のクラスがあって、スペイン語で日誌を書くという宿題は大変でしたが、おかげで書くことに少し自信がつきました。現地では電子辞書とホワイトボードを常に携帯し、ゆっくり話してもらう、文章を短く話してもらう、それでもわからないときにはホワイトボードに書いてもらうようにしていました。多少時間はかかりますが、この方法だとわかりましたね。

脇阪 治安への不安やご家族の反対はどう払拭されたのですか?

柏谷 現地へ派遣されてから2週間ほど現地訓練というのがあります。現地語や現地の生活習慣を学ぶだけでなく、治安に関しても現地のJICA事務所からより詳細な注意事項を教えてもらうことができる。これはとても具体的でずいぶん役に立ちました。シニア海外ボランティアでは家族の帯同も可能ですが、私は単身での派遣でした。でも、ペルーは電話だけでなくインターネット事情も良く、日本にいる家族とのやりとりにも不便は感じませんでした。休暇中に呼び寄せ制度を利用して妻と一緒に国内を旅行したのもいい思い出です。

大野 実は私は家族には事後報告だったのでずいぶん心配されました。でも、事前に現地のJICA事務所の方から実際に住む場所や学校の様子をメールで送ってもらえたので、それを見せたら家族も少しは安心してくれたみたい。結局、最後には「やりたいことをやりなさい」と送り出してもらえました。

松田 先日前任者の方とお会いする機会があり、実際に派遣される現地の事情や必要とされる技術内容をより具体的に教えてもらえたのは心強く感じましたね。そういう情報があると、現地でどういう知識が必要か、日本からどういうものを持って行くと良いのかがわかって準備もしやすいです。

海外ボランティアへの参加によって自分自身も学び、成長できる

座談会写真

脇阪 柏谷さんと大野さんは現地でいろんな体験をされたと思いますが、苦労されたのはどんなところでしたか?

柏谷 日本人の私からすると、ペルーの人たちは時間にルーズなところがあって、会議や打ち合わせが時間通りにできず弱りました。おかげでずいぶん気長になりましたが(笑)。それでも「直してほしい」と伝えるうちに良くなった工場もあります。現地事情に合わせるだけでなく、通すべきところは通さないと現地の人たちのためにはならないということを学びました。指導している間に会社の雰囲気が明るくなったり、現場の人たち自ら意見を出すようになったり、いい方向に変わっていく様子を目にするのはうれしいものです。

大野 私が教えたのは小学校の先生を目指す16歳から18歳ぐらいの子どもたち。最初は私の語学が不十分なこともあってなかなか話す内容を理解しようとしてくれず困りました。まずは信頼関係が必要だと気づき、放課後なるべく彼らと一緒に過ごすようにしました。

脇阪 2年の間にホームシックになったり、モチベーションが下がったりはしませんでしたか?

大野 何度かありました(笑)。でも、すべては時間が解決すること。それに、私の場合はモチベーションが下がったときも子どもたちの顔を見ると「これじゃいけない」と奮い立つことができました。私が教育の大切さや教えることのおもしろさに気づけたのはウガンダへ行ったから。私が子どもたちに教えたことよりも、ウガンダの人たちから学んだことの方がはるかに多かったというのが正直な感想です。その貴重な経験をこれからどうやって日本の子どもたちに還元していくかがこれからの私の課題だと思っています。

脇阪 松田さん、お二人の話を聞いていかがですか?

松田 語学の不安もありながら自分の意見を主張したり、現地の人に歩み寄ったり……。私にもそんな風に指導できるのかどうかちょっと心配ですが、頑張りたいですね。私は将来、地元で農業関係の仕事に就きたいと考えています。なので、マダガスカルでは日本の農家のことを、帰国後はマダガスカルの農家のことを日本で伝えられるようになりたい。両国の架け橋みたいな役割を果たせたらいいなぁと思っています。

脇阪 最後に海外ボランティアに関心を持つ人たちへのアドバイスをお願いします。

柏谷 ペルーでの2年間は本当に貴重な体験をさせてもらいました。現地では友達もできて今でもメールのやりとりをしています。2年間の活動に対してそれなりに満足感はあるのですが、まだやり残したこともあるような気がしていて、実は私自身も2度目の応募を考えているところなんです。国や分野が違っても仕事のやり方は同じ。シニアの方たちのキャリアが役立つ場所が必ずあると思います。少しでも関心があるなら、説明会だけでも参加してみると具体的に思い描けるようになるのではないでしょうか。あと、語学は少しでも早く始めた方がいい! これは私自身の反省も含めて言えることだと思います。

大野 私はアフリカで生活して初めて素の自分になって、本当の自分を見つめ直せたような気がします。若い人の中には帰国後の進路を不安に思う方もいると思うのですが、横浜市のように国際貢献活動経験者区分枠を設けた採用方式をとる自治体等も増えてきていると聞いています。JICAのフォローも厚くなっているので、以前よりずいぶん社会復帰しやすくなっているはず。絶対行ってソンはしないと思います。

松田 いきなり2年間海外へ、となるとハードルが高いと思うので、たとえば国内のボランティア活動に参加してみるのも一つの方法だと思います。私自身、銀行で働きながら週末は日系ブラジル人の子どもたちに日本語を教えるボランティアをしていた時期もありました。まずはできることから始めてみる、それが大事なのではと思います。

脇阪 海外ボランティアに関心があるなら説明会へ足を運ぶなり、身近なボランティアに参加してみるなり、まずは行動を! ということでしょうか。JICAの海外ボランティア制度は伝統も歴史もあって内容も充実しています。ぜひこの制度を強化していってほしいと願っています。

春募集 青年海外協力隊 シニア海外ボランティア

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