青年海外協力隊 体験談 社会人の「技術」「責任感」こそボランティアの現場で求められる コンピュータ技術(ガーナ)・現職参加 富士ゼロックス株式会社 第一SE部 山口 真司さん

2007年から2年間、コンピュータ技術の指導員としてガーナの公立高校で活動された山口真司さん。学生時代にも一度、青年海外協力隊に応募した経験がある山口さんにとって、今回のガーナは念願の国際協力の場だったそうです。2009年12月には、復職した富士ゼロックス株式会社のビルの1階で、ガーナでの暮らしを伝える写真展を開くなど、帰国後もまだまだ熱い思いを持ち続ける山口さんに、現地での活動内容や心に残るエピソードなど、さまざまなお話を伺いました。

歳月をかけて叶えたボランティア参加の夢

インタビュー写真

山口 真司さん

学生時代にモロッコを訪れたときのこと。そこでちょっとしたトラブルに巻き込まれそうになったのですが、偶然通りかかった現地の人が、私に声をかけて助けてくれたのです。話を聞くと、その方は以前に日本の青年海外協力隊に親切にされた経験があり、日本人である私が困っている姿を見過ごせなかったそうです。協力隊の活動がそのように人のなかで受け継がれ、国と国とを結ぶ絆として残っていることを知り、本当に感動しました。

その経験をきっかけに青年海外協力隊に興味を持つようになった私は、さっそく協力隊の「村落開発普及員」に応募しました。しかし当時は学生で、特化した知識も技術もない状態。応募倍率が高かったこともあってか、残念ながら参加の夢は叶いませんでした。しかしそこであきらめることはなく、これから社会で有用な技術を身につけて、いつかかならず再チャレンジすることを自分に誓いました。

就職においても「技術を身につける」「人と関わる」ことを念頭において企業を見た結果、富士ゼロックスのシステムエンジニアとして働くことを決意。システムエンジニアであれば、技術を高めながら、さらにお客様と接することもできますから。しかもうれしいことに、入社してすぐの社員説明会で、社会奉仕活動を目的にボランティア休職を申請できる「ソーシャルサービス制度」があることを知りました。「これは海外に呼ばれているな」と思いましたね。そして3年間働いたのち、海外でボランティア活動がしたいという想いを、当時の上司に打ち明けました。「ぜひ行ってこい」と快い返事がもらえたときはうれしかったです。

パソコン教室をインターネットカフェとして開放

現地写真

IT分科会メンバーを集めて高校教師向けPC教室の開講

現地写真

高校生にゴミのポイ捨て等環境教育をする山口さん

私の配属先はガーナの公立高校で、比較的裕福な家庭の子どもたちが集まる学校でした。しかし当初はパソコンの指導をするにも環境が整っておらず、パソコンをはじめとする必要な機器を集めるところからのスタートに。そこで私は日本からパソコンを何台か送りましたが、送料は現地の人に支払ってもらいました。理由は、「自分たちの意思でパソコンを手に入れた」との意識を持って、大切に扱って欲しかったからです。あげることは簡単。ただそれでは価値が伝わりません。それに私がいなくなってからも、子どもたちが気持ちよく学べる環境を保ち続けてほしい。そのためには寄付に頼りすぎない体制づくりが肝心だと考えました。

授業を円滑に進めるためにプロジェクターも導入し、「これが右クリック」などと説明しながら、指導を始めました。しかしパソコンは触った回数が多いほど覚えるもの。そのため、生徒がなるべく多くの時間パソコンに触っていられる授業を心がけました。また授業の一環として、日本の高校生とEメールで交流することを企画。お互いの文化や考え方を自由に伝えあうことで、ともに刺激し合えたと思いますし、ガーナの生徒にとってはキーボードに慣れるいいきっかけになりました。

そして授業が進むにつれ、生徒のほうから「ウェブサイトのデザインについて教えてほしい」などの要望が出るように。そのやる気がうれしく、そうした生徒には上級レベルの特別授業を実施。毎日遅い時間まで指導しました。さらに先生たちに向けたコンピュータ授業も行った結果、みなさん試験問題作成や成績管理をパソコンで行えるようになりました。これにより教育の質も上がるのではないかと期待しています。

大きな成果として記憶に残っているのが、毎週末、パソコン教室をインターネットカフェとして開放したこと。これはガーナに来ていた他国のボランティアたちと連携しながら活動しました。町のインターネットカフェよりも低料金で運営したためか、パソコンを使用する生徒は尽きず、連日大盛況。人手が足りずに大変だったため、学校の卒業生を管理者として招き、運営を手伝ってもらいました。インターネットカフェで熱心に授業の準備やレポート作成をがんばっている生徒たちの姿を見ると、胸が熱くなりましたね。

コンピュータの指導以外には、ゴミ問題について生徒たちと考えたことがあります。ガーナでは「ゴミは土に還る」という考え方から、ポイ捨てが当たり前。しかしゴミのなかにはプラスティックなど土に還らない物も多いため、街中にゴミの山ができてしまっていたのです。この問題を解決しようと、最初は意気込んでいた私でしたが、よくよく考えてみるとガーナにはごみ箱がないし、ゴミ収集車も来ない。つまり、日本であたり前のように整っている行政サービスが、ガーナにはないため、一概に「ポイ捨てはだめ。ゴミはゴミ箱に」と言い切れない部分もある。意見交換の場では正解は出ませんでしたが、ゴミ問題についてはいずれ深く考える必要があるということを、彼らは理解してくれたと思います。

空き時間には子どもたちとよく遊びました。ガーナ人はみんなとてもフレンドリー。気軽に話しかけてくれますし、ご飯をごちそうしてくれることも多々ありました。友人から「今朝、庭から刈ったばかりのバナナ」とプレゼントされたこともあり、その思いやりがとてもうれしかったです。人からの親切に喜び、自分の親切に人が喜ぶ。これがボランティア活動の基本ではないでしょうか。

ボランティアの現場を伝える写真展を開催

インタビュー写真

日本に帰国後、私はシステムエンジニアとして職場復帰するとともに、富士ゼロックス社員によるボランティア団体「端数倶楽部」の役員になりました。ここは「寄付」と「社員のボランティア活動の促進」の2つを柱に、さまざまな支援活動を行っているグループ。私はこの「端数倶楽部」の主催で、2009年12月に、富士ゼロックスのビルの1階ロビーでガーナでの生活を伝える写真展を開きました。やはり写真というビジュアルのインパクトは強いようで、反響も大きかった。横に置いておいたJICAの資料はすぐになくなりましたし、偶然エレベーターに乗り合わせた方たちが「俺たちも考えないといけないな」と話しているのを耳にしたことも。日本に戻ってきてからずっと、ガーナでの経験を多くの人に伝えるチャンスを探していたので、実現できてうれしかったです。

自身の変化で言えば、何についても多角的に考えられるようになったことが挙げられます。ガーナで生活するなかで、これまで持っていた常識やルールが一度壊れたのでしょう。これまでは「できなくて当然」「自分には無理」と思っていたような大きな仕事でも、「工夫するとできるのでは?」と前向きに取り組めるようになりました。そして教育そのものが好きになったことも変化のひとつ。日本の高い技術を、それを必要としている国に教育を通じて橋渡しをする。いつかまたそんな仕事に携わることが私の夢です。しかしガーナで豊かな経験ができたのも会社の協力があってこそ。まずは会社に恩返しをすることが最優先ですね。

これからの国際協力活動には、現職で参加される社会人たちの力が必要不可欠だと思っています。ボランティアとして海外に渡る以上、現地の人に喜んでもらえなければ意味がありません。その点社会人は、高い技術や知識、そして十分な責任感をきちんと備えた上で参加するので、現場でしっかりと成果が出せる人が多い。もちろん長期の休職を言い出しにくい気持ちは理解できます。しかし手を挙げてみると応えてくれるかもしれないのに、そこで立ち止まってしまうのはあまりにももったいない。あなたの能力はかならず役に立ち、多くの人を幸せにできる。世界があなたの訪問を待っている。そう自信を持って、どうか前向きに考えてください。

澤地 武彦さん

澤地 武彦さん
ソリューション本部 第一SE部
第二ドキュメントマネジメントセンター

ボランティアで身につけたリーダーシップに期待

私が山口君と仕事をともにするようになったのは、彼がガーナから帰国してからのことです。しかし厳しい環境のなかでさまざまな成果を上げてきたことはレポートなどで知っていましたので、その志の高さと行動力には、最初から大きな期待を抱いていました。今後はボランティア活動を通じて得た視野の広さを生かして、これまでのビジネスモデルの枠を超えたアイデアをどんどん提案して欲しいですし、また、ガーナで培ったリーダーシップを発揮し、プロジェクトマネージャーとして活躍してくれることも期待しています。弊社には社会貢献や国際協力に前向きな企業風土があり、これまでも8名の社員がソーシャルサービス制度を利用して、青年海外協力隊に参加しています。おそらくこれからも彼のように、国際協力に熱意を持った社員がたくさん現れるでしょう。そんなエネルギーあふれる若い社員を快く送り出し、一回り成長した彼らとともにさらに大きく発展していく。そんな企業でありたいですね。


春募集 青年海外協力隊 シニア海外ボランティア

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