住まいの安全は「構造設計一級建築士」がつくる

11月28日から始まった新しい建築士制度

専門性の高い建築士が求められる新制度

 平成20年11月28日、これまでの建築士法が改正され、新たな制度がスタートした。この法改正は、2005年の構造計算書偽装問題によって失われた建築物の安全性や、建築士制度に対する国民の信頼を回復させることをねらいとしており、公布されたのは平成18年12月で、原則として2年以内に施行することとなっていた。構造計算書偽装問題によって明るみになったこれまでの建築士制度の問題点は、大きく分けて3つあった。

 1つ目は構造設計や設備設計の業務内容が高度化しているにもかかわらず、業務を理解して指示、チェックができるだけの能力が建築士に不足しているケースがあったこと。

 2つ目は構造や設備など分野ごとの分業化が進み、建築士の責任分担が不明確となるケースがあったこと。

 3つ目は再委託などにより業務が重層化し、業務全体の実施体制が適切に管理されていないケースが見られたこと。

 こうしたこれまでの建築士制度が抱えるさまざまな課題を踏まえたうえで、新制度では、設計から施工までを責任持って管理できる専門性の高い建築士が積極的に活用されるよう改正されている。

新制度のキーワード「構造設計一級建築士」

 主な改正内容を簡単に紹介すると、まず挙げられるのが建築士の資質、能力向上のための法律。建築事務所に所属する建築士には3年ごとに定期講習を受講することが義務づけられ、この際及第点に達しない建築士は再受講が必要となる。また建築士のなかでもとくに高度な構造設計の専門能力を身に付けた建築士を確保するために、新たに国家資格として「構造設計一級建築士」が創設された。この資格は一級建築士として5年以上の実務経験が必要とされ、3日間の講習を受けた後、修了考査に合格する必要があるほか、先ほどの一級建築士の定期講習とはまた別に、それぞれ3年ごとに講習を受けることが義務づけられる。なぜこれまでに厳しい条件をクリアする必要があるのか。それは、建築の安全を担保するうえで構造設計者の役割がひじょうに大きいからである。法改正後は鉄骨造では4階建て以上や、木造で高さが13メートル鉄筋コンクリート造で20メートルを超える建築物には、「構造設計一級建築士」の関与が義務づけられることになったのだ。個人の住まいであっても木造3階建て以上(建物高さが9メートルを越えるもの)であれば、「構造設計一級建築士」が自ら設計を行う、または基準を満たしているかどうかチェックを行う必要がある。つまりこれから新築マンションの購入を検討している方や、3階建て以上の一軒家の建築を考える方にとって、「構造設計一級建築士」はぜったいに外せない大切なパートナーなのだ。

安全な建築物はチームでつくるのがこれからのスタンダード

 新制度ではそのほか、建築士が違反した場合の罰則強化や、資格のある建築士事務所以外への設計・工事監理の再委託が禁止になるなど、国民の信頼回復に向けたつくりとなっている。なかでも私たちに関わりが深いのが、建築士の名簿を閲覧できるようになったこと。過去に処分を受けた建築士の氏名や事務所の名称、業務実績などを指定の機関で知ることができるようになったのだ。しかし情報が開示されたということは、つまりは私たちに建築士を選ぶ視点が必要になったとも言える。今後建築主の立場になった場合、当たり前だが誰もが安全を確保した建築物を望む。その際、建築の構造設計においての高い技術と知識、そしてコミュニケーション能力をも兼ね備えた建築士と出会うためにも、構造設計者には「構造設計一級建築士」を選ぶなど、ひとつの基準を持っておきたいものだ。そうして安全な建築物のために建築主と意匠設計者、構造設計者がチームを組み、理想や意見を交わしながらつくりあげていく方法が、これからのスタンダードとなっていくだろう。

安心できる住まいに欠かせないパートナーJSCA

安全な建築物をもって社会に貢献するJSCA

 2005年に相次いで発覚した耐震強度偽装事件。私たち一般市民の知識が及ばないことを逆手にとった手口に、怒りを覚えた方も多いことだろう。実際、事件以降多くの国民が住まいの安全にやり場のない不安を抱えていたものだ。しかしそんななか国内の各地域に無料相談窓口を設置することで、国民の不安に真摯(しんし)に対応した団体がある。それが「社団法人 日本建築構造技術者協会(略称JSCA:Japan Structural Consultants Association)」。1989年の設立以降、建築主が要求する性能を備え、なおかつ安全で地球にやさしく、さらには長持ちする建物の提供を通じて社会に貢献してきた、建築構造全般について的確な判を下すことができる技術者が結集している集団だ。

建築物の安全を確保する構造設計者

 建築物を設計する場合、大きく分けると、外観などの意匠を担う「意匠設計者」、電気やガスおよび空気調和などの装備を整える「設備設計者」、そして自然災害に遭遇しても壊れない骨組みを設計する「構造設計者」の三者が必要となる。人体にたとえると、人体には体を支える骨があり、その上に筋肉や皮膚が覆い、体を駆け巡る神経や血管がある。つまり筋肉や皮膚を設計するのが意匠設計者であり、骨格を設計するのが構造設計者であり、神経や血管を設計するのが設備設計者と言えよう。構造設計者は、最適の骨組みを設計するためにあらゆる可能性を考慮しながら、経験と能力を駆使して設計方針を決めていく建築物の要となる存在。構造計画をもとにした設計図の作成や、計画内容を繰り返し検証する構造計算、さらには適切な施工が行われるよう工事現場の監理まで行うため、高い技術と知識はもちろん、判断能力やコミュニケーション能力までもが必要とされる。

JSCAの発展が安全な住環境の普及につながる

 このようにひじょうに高い能力が要求される構造設計者であるため、JSCAでは1993年から自主認定資格制度として「建築構造士」制度を定め、運用してきている。現在、全国で約2,700人(2007年10月現在)の「建築構造士」が登録されているが、優れた構造設計者に限って認定していくために資格認定試験を行い、技能と資質が認められた技術者だけが「建築構造士として登録されている。もちろん、「建築構造士」の大半は新たな国家資格である「構造設計一級建築士」の修了考査を経て、その資格者として登録される見込みである。一方社会の流れにともなって、都市や建築に求められるものは日々変化している。そのためJSCAには建築構造の設計、工事監理などに係る委員会や、ワーキンググループがあり、JSCA主催の発表会や講演会、シンポジウムなどでの情報の発信をつうじて、時代の動きにも柔軟に対応している。美しくさらに経済的という建築の機能を達成し、自然の災害から人命と文化を守る構造設計者は、これまで「縁の下の力持ち」といった印象であったが、新しい建築士制度のスタートによって、今後は一層設計チームの中核となることが期待されている。当然、JSCAも、これからさらに活動の場を広げることとなるだろう。そしてこのJSCAの発展が、やがては安全で快適な住環境の普及へとつながっていくはずだ。今後建築主になるなど、建築物に携わる立場になった場合、構造設計者とチームを組むことになる。その際、まずはJSCAに所属している構造設計者かどうか、中でも「建築構造士」かどうかは、選定のひとつの基準となるだろう。




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