中村利雄with愛知学院大学
*講演テーマ「地球環境問題と市民の役割」
●本採録は、7月26日に行われた講演の内容を要約し、まとめたものです。
■愛知学院大学 紙上採録
*と き:7月26日(土)*ところ:愛知学院大学 日進キャンパス

地球環境問題と市民の役割


日本商工会議所専務理事・
東京商工会議所専務理事
中村利雄氏

仕組みづくりと積極的な協力・参加のもとに 国と市民が一体となった地球温暖化対策を
愛・地球博の事務総長として活躍された後、産業構造審議会、中央環境審議会の委員として地球環境問題に取り組む中村さん。数多くのデータを駆使しながら日本と世界におけるCO2問題の現状を解説するとともに、CO2排出量6%削減へ向けて国が展開するさまざまな対策や施策について詳しく説明。最後に、京都議定書によって世界と交わした約束を実現するため、愛・地球博を成功させた愛知の市民へ積極的な協力と参加を呼びかけました。

日本のCO2排出量と エネルギー消費量の現状

 今日は、講演テーマに沿って3つのお話をさせていただきたいと思います。
 一つ目は「CO2排出量およびエネルギー消費量の現状について」。1995年、日本は京都議定書でCO2排出量を90年比6%削減すると世界に約束しました。しかし、その後のCO2排出量は増え続けています。バブル崩壊後の日本経済が、ここまで立ち直ると当時は予測できませんでした。また、人口は減少しているのですが、世帯数が増えているためにエネルギー消費量も増え続けています。
 世界に目を向けると、CO2排出量の1位はアメリカ、2位は中国。2国で世界の総排出量の41%を占めています。日本は4位で、排出量は全体の4・7%です。エネルギー輸入依存度では日本は82%の2位。これは原子力を含む場合で、含まない場合は96%となって第1位です。その内、石油輸入依存度は99・7%、これも1位になります。

日本の二酸化炭素排出量の推移

 エネルギー消費はアジアを中心に急増しており、2030年には05年の1・6倍になると予測されています。需要が見込まれれば価格も上がります。国際原油価格の推移を見ると、03年のイラク攻撃後から急上昇しています。当時、1バレル25ドル前後だった価格が、今年6月には150ドル近くに迫りました。現在は少し下がって130ドル前後ですが、もう70〜80ドル以下に戻ることはない、と考えられています。高騰の原因にはマネー投機もありますが、根本的な問題は需要の伸びに対する供給の厳しさにあります。
 いろいろなデータをご紹介していますが、データを見るときには注意が必要です。目的、対象、基準、算出方法によって数値が異なってくるからです。たとえば、ここに東京、ニューヨーク、ロンドンの一人当たりのエネルギー消費量の比較があります。ニューヨークが抜きん出ていますが、昼間か、夜間か、どちらの人口でそれぞれ計算しているのか、このデータから読みとることはできません。これは一例ですが、CO2削減の世界の枠組みをつくるということでは、基準をどうするのか、どうすれば公平になるのか、それがまずたいへん難しい問題になってきます。

京都議定書で交わした 世界との約束を守るために

 二つ目は「京都議定書目標達成計画について」です。05年時点のCO2排出量は90年比の7・7%増。今後、約1億7,000万トン削減しなければならない計算です。今年2月の産業構造審議会、中央環境審議会合同の最終報告では、森林吸収量と京都メカニズム(排出量取引)、その他のさまざまな対策・施策を通して、6%削減の約束は達成できると見通しを立てています。
 現状、排出量取引というコストのかかる方法も用いることで、目標達成が可能になっています。たとえば、いま柏崎原子力発電所が止まっています。原子力ですからCO2排出量はゼロですが、停止している間は、他で電力供給を続けるために排出権を買うしかありません。
 しかし、コストはできるだけかけない方が良いわけで、そのための施策の一例として「国内CDM(クリーン開発メカニズム)制度」を展開しています。これは、私が旗振り役になって進めているものですが、中小企業に対して大企業が資金・技術の支援を行い、中小企業が削減したCO2分を大企業の実績としてカウントできるようにする制度です。中小企業と大企業との協働事業ということで、産業の積極的な自主行動の展開に向けて、しっかりした仕組みをつくっていきたいと考えています。


地球博成功の愛知から 新しい市民の力の結集を

CO2削減のために一人ひとりができること

 最後に「市民の役割と家庭部門における取り組みについて」です。部門別の排出量推移を見ると、産業部門は減っています。日本は世界と比べても、たいへん効率的なモノづくりをしていると思います。増えている部門は運輸、業務その他(オフィスビル等)、家庭、エネルギー転換。とくに増えているのは、運輸と家庭部門です。家庭部門では05年度の排出量から21・7%、3,800万トンを減らさなければなりません。
 そこで、市民のみなさんにお願いしているのが「ライフスタイルを見直し、一人一日で1kgを目指してCO2ダイエット」という取り組みです。一つひとつは何でもないように思えますが、「1kg」というのは国民すべてを対象に計算した数字ですから、実際はもっとたいへんだと思います。環境を守るため、約束を守るため、ということはもちろんですが、昨今の原油高の問題などと重ね合わせると、第一に自分の生活を守るために取り組まなくてはならない、そんなところまで来ている気がします。ですから「意識を変える」ということがまず大切だと思います。
 実践ポイントの第一は、自分がどれだけエネルギーを使っているか、まずチェックしていただくこと。そうすることで自分のムダが見つかる、何を減らせばいいか対象が見えてくると思います。第二に、自分のためになり人のためにもなる、みなさんにインセンティブを与えられる仕組みをつくること。たとえば、愛・地球博におけるエコマネーのような仕組みですね。愛・地球博では、市民プロジェクトをはじめ、市民の方々の直接的なイニシアチブがより多くの方々の共感と参加を促す、という素晴らしい体験をしました。国もしっかりした仕組みをつくります。それをベースに、市民の方々のイニシアチブにより問題が解決されていくことを私は期待しています。愛・地球博の最後のメッセージは「ここから、これから」でした。この取り組みも愛知からはじまり、全国へ広がっていくよう、この場を借りて市民のみなさんに協力と参加をお願いいたします。(談)

プロフィル/なかむら・としお
1946年、名古屋市生まれ。名古屋大学法学部法律学科卒。70年、通商産業省入省。95年、大臣官房会計課長。96年、資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部長。97年、中小企業庁次長。98年、大臣官房総務審議官。99年、貿易局長。2000年、中小企業庁長官。01年、経済産業省退官、安田火災海上保険株式会社(現損害保険ジャパン)顧問。02年、財団法人2005年日本国際博覧会協会・副事務総長。03年、財団法人2005年日本国際博覧会協会・事務総長。07年、財団法人2005年日本国際博覧会協会・事務総長を清算終了に伴い退任。