


水を巡って世界には飢餓で苦しむ国がある 世界から水を輸入して捨てている国がある
環境問題の本質的な解決は貧困の撲滅とも言われます。また、世界には自然や紛争の脅威から逃げまどい、飢えや水不足、病気で苦しむ人々が大勢います。美しい水の星の住民同士、お互いに支え合い生きることが大切と、日本ユニセフ大使として活躍するアグネス・チャンさんは語ります。第2部では、武田邦彦教授が物理化学的な視点から「リサイクルも、温暖化対策も必要ない。資源は次代のために使い切るべき」という自説を展開しました。
洞爺湖G8サミットと同じ頃、千歳市では外務省とユニセフが主催するJ8(ジュニア・エイト)サミットが開催されました。世界15カ国から39名の子どもたちが集まり、環境や貧困の問題について話し合いました。私はJ8に参加して、子どもたちからとても良い心構えを教えてもらいました。大人は「地球環境が悪くなった」と話し合いますが、子どもは「地球環境が変わった」と言って議論します。変わった、新しくなったのだから、きっとチャンスもある。新しい地球とどうつきあっていくか、どう適応するか、そんな風に考えるんですね。とても前向きな素敵な考え方だと思います。
地球は水の星、水はすべての生命の源。私は水を通して環境問題を考えていきたいと思っています。私が育った頃の香港は、水がたいへんな貴重品でした。雨水を溜めて利用するのですが、1週間に数時間しか水が出ないときもありました。朝、使える水はコップ1杯です。その水にタオルを浸して顔をふき、歯を磨きました。お米をといだ水で食器を洗い、それをトイレや水まきに使うなど、徹底的に有効利用していました。しかも、水が悪いから沸かさないと飲めません。日本に来たとき、蛇口から水が飲める、それがまず信じられませんでした。お風呂にいっぱいお湯が張ってあるのを見て、びっくりしました。それまで全身をお湯につけるという体験がなかったのです。
私は6人兄弟の4番目です。昔のお母さんたちはたくさんの子どもを産みました。産んだ子どもがみんな育つ環境ではなかったからです。ユニセフの統計では、いまでも5歳未満で死んでいく子どもは年間約1,000万人います。約3秒に一人の割合です。どこの子どもたちが死んでいくのか。発展途上の貧しい国の子どもたち。大きな原因は栄養失調です。下痢や肺炎にかかり、満足に食べていないから抵抗力がない、薬も十分にないという状態で死んでいきます。食べ物がない、これには水が大きく関係します。なぜなら、水がなければ食糧となる穀物も野菜も肉も育てられないからです。
最近は温暖化の影響で蚊の分布が広がり、マラリアで死ぬ子どもも増えています。私が温暖化という言葉を初めて知ったのは、1985年にエチオピアに行ったときでした。アフリカは森林を切りすぎて砂漠化が進む一方、温暖化によって雨が降る地域はさらに降り、降らない地域はさらに降らなくなっていました。
エチオピアの人々は、内戦と干ばつによる飢えと病気に苦しめられていました。避難民キャンプを訪れると、飢餓状態の子どもたちがいっぱいです。そんな子どもたちに何ができるのか、どう接していいのか、私は泣きそうになりました。私にできること、それは歌うこと。だから、歌いました。すると、子どもたちもそれに合わせて歌ったり、踊り出したり。本当のコミュニケーションができました。そのときはこのまま死んでもいいと思いました。みんなと一緒に生きていること、それがこんなにも素敵なことなのだと、そのときに本当に実感したのです。
子どもたちを守るためには、まず安全で住居に近い場所に井戸が必要です。だから、ユニセフは井戸掘りの名人でもあります。でもアフリカでは年々、深くまで掘ってもなかなか水が出なくなっています。
日本は世界一の木材輸入国です。国内の森を切るより、ずっと安いからです。食べ物もたくさん輸入しています。これは水を輸入していることと同じなんですね。日本は世界一、水を輸入している国でもあるのです。しかも、約3分の1ぐらいを捨てています。いま日本の食糧自給率は約40%。問題解決の大きな方法は自給自足だと思うのですが、捨てなければ可能なのではないでしょうか。私はできるだけムダの少ない生活を心がけています。家では25%の省エネをめざしています。なかなか達成はむずかしいのですが、「めざす人」と「めざさない人」ではまったく違うと思います。我慢もしなければいけませんが、「食べられない」「水が飲めない」人たちはもっとつらいのです。
2003年にはイラクに行きました。戦争で第一に攻撃目標になるのは、水源をはじめライフラインです。だから、安全な水の確保にどこでも一番困ります。また、町には劣化ウラン弾で壊れて放射能を帯びた戦車がそのままです。そこに子どもが集まります。遊ぶためではありません。壊れた戦車から部品を取り出してお金に代え、それで水や食べ物を買うのです。病院にはガンに冒された子どもたちがいっぱいです。死が日常的な国は、世界のあちこちにあります。そのような状況の中で、懸命に生きている子どもたち。私は彼らを守りたい。諦めたら終わりです。子どもたちに一日でも永く生きてもらい、希望ある未来をつくってあげたい。そう願いながらユニセフの活動に取り組んでいます。
「天国と地獄は同じ」というたとえ話を知っていますか? 天国の人も地獄の人も、食事にはとても長い箸を使います。地獄の人は、箸が長すぎて食べられないと争いばかりしている。天国の人は、長い箸を使って食べ物を相手の口へ運んであげる。だから幸せに暮らせる。お互いのために生きていくことが大切です。人間は知恵を持った素晴らしい生き物だと思います。だから、みんなと一緒に頑張っていきたいのです。(談)

今年の初めに起こった再生紙偽装問題を皮切りに、環境問題の科学的に誤った情報や理解について、事例とデータを示しながら語った武田教授。環境問題を巡っては、環境やエコの名を借りたウソや誤り、あるいは行き過ぎた行動があることも事実です。私たちはまず、それを見抜ける賢明な生活者になる必要があります。また、それが環境にとって「良いのか、悪いのか」という判断をはじめ、私たちはつねに「何が正しいのか」を選択しながら前へ進まなければなりません。どのように知恵を身につけたら良いのか。武田教授は「知識は不完全である、ということを知ることから知恵が生まれる」と言います。そして、「人間の知恵は変わっていく。現在の科学や技術が100年前と違うように、100年後が現在のままということはあり得ない。だから未来を拓くために、新しいシステムをつくって次代に残していくために、いまある資源を節約してはいけない」と独自の環境論を展開しました。

プロフィル/アグネス・チャン
香港生まれ。1972年「ひなげしの花」で日本デビュー。一躍アグネスブームを起こす。上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学(社会児童心理学)を卒業。84年、国際青年記念平和論文で特別賞を受賞。85年、北京チャリティーコンサートの後、エチオピアの飢餓地帯を取材、その後、芸能活動のみでなく、ボランティア活動、文化活動にも積極的に参加する。89年、日本ユニセフ協会大使に就任。以来、タイ、スーダン、東西ティモール、フィリピン、カンボジア、イラク、モルドバ共和国と視察を続け、その現状を広くマスコミにアピールする。05年には「ペスタロッチー教育賞」を受賞。06年、全米歌手デビュー。07年、北京人民大会堂リサイタルを成功させる。現在は、芸能活動ばかりでなく、エッセイスト、目白大学客員教授、日本ユニセフ協会大使など、知性派タレント、文化人として世界を舞台に幅広く活躍している。最新曲「この良き日に」(日本クラウン)、新刊「東京タワーがピンクに染まった日〜今を生きる〜」(現代人文社)発売中。
◎アグネス・チャンホームページ http://www.agneschan.gr.jp/