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お役立ちコラム

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「住宅の質」に着目した住まい選びのポイントを環境・構造・設計・設備・内装仕上と住宅が完成するまでの流れに沿ってご紹介します。

第6回「Quality of Life-小さな家の住まい考3 コルビュジェの休暇小屋」

「この小屋の住み心地は最高だ。わたしは、きっとここで一生を終えることになるだろう」

当時、瀟洒な別荘が建ち並ぶフランスのカップ・マルタンにル・コルビュジェの「休暇小屋」が完成したのは1952年のことでした。しかし、この休暇小屋はル・コルビュジェという世界的な建築家の別荘というにはあまりに簡素なものでした。

小屋は木の外皮を外壁として使用した一見丸太小屋風で、屋根は石綿スレートの大波板、破風板も鼻かくしも付けずただ載せてあるだけのものでした。部屋は一辺が3.66m(183cm×2)の正方形で、日本風に言えばほぼ8畳の広さのワンルーム、その中にソファーとしても使えるベッド2台とサイドテーブル、造り付けの本棚とテーブル、ワードローブ1台と箱型のスツール2脚、洗面器付きの棚が造り付けられていました。部屋の外には入口と廊下があり、廊下の突き当たりはコート掛けの付いた壁、その裏がトイレになっていました。この家には台所と浴室はなく、食事はすべて隣の「ひとで軒」という食堂を利用し、お風呂は外に作った簡単なシャワーで済ませていたということです。

室内の床には縁甲板が貼られ、壁と天井はベニヤ板で仕上げられていました。縁甲板とは厚さ15〜18mm、幅8〜12cmの板で側面に本実加工したものを言います。フローリングの場合は板の木口面も加工されているのに対し、縁甲板は無加工の状態です。本実(ほんざね)加工とは板の側面に溝を彫り、もう一方の板に突起を作ることによって重ね合わせる技術のことをいいます。そのため、施工したとき釘が見えず、床にぴったりと張り付いて動きません。幼児が足を投げ出して地面にぺたりと座る仕草や車が途中で故障して動かなくなってしまうこともエンコといいますが、縁甲板(えんこういた)の”えんこう”が省略されてエンコになったのだそうです。

窓は小さめでしたが、その大きさからは考えられな程の眩しい光が室内に取り込まれていました。外の光や地中海の景色を注意深くコントロールしながら取り入れる手法は日本の茶室にも通じるものがあります。何も大きな窓を設けなくても、光は室内に取り入れられ、意味ある窓は本当に明るい日差しを導いてくれるのです。壁はベニヤ板をグリット割りした格子の額縁で見切り良く納められ、1つのアクセントとして見せています。片流れ屋根の天井裏は高さに変化がつけられ、トランクや釣竿などの収納スペースとなっています。ベッドの下にも引出し式の収納があり、少しのスペースも無駄にしない工夫がなされています。コルビュジェはこの室内に最小限寸法や機能的空間のテーマを追求しました。

平面は正方形の3.66mx3.66m、天井高さ2.26mで、室内の縦横比は1:1.619(ほぼ黄金比)となっていて、これはモジュロールに即した寸法と言われています。窓の位置、家具の位置、設備の位置も全てモジュロールに即して決められていました。「モジュロール」とは建築家ル・コルビジェが、整数比、黄金比、フィボナッチ数列などの組み合わせからなる、美しい比率尺度として完成させたものです。モジュロールは人体各部の寸法にもとづいたものであり、建物の形状を整えるために考案されたものでした。コルビジェは建築の設計にこのモジュロールを多く使いました。

ところでモジュロールの基準に使われた人間の身長は183cm(6フィート)ですが、これは欧米人でもちょっと高すぎる数字のようですが、それには理由があったのです。コルビュジェはモジュロールを世界に普及させるため、インチ法とメートル法のどちらとも互換性があるようにしたかったのです。しかし平均的なフランス人の身長である175cmを基にすると換算値に端数がでて不便なため「イギリス人のりっぱな人」の身長を採用したということです。日本でも、古くから柱の寸法を基準とした木割り法があり、在来の内法高さ(敷居の上端から鴨居の下端までの距離)は1730mm(5尺7寸)が標準でしたが、体格の向上に伴い最近では1800mm(約6尺)にとられるようになって天井高、軒高寸法が高くなりつつあります。ル・コルビュジェも時代を見越した選択だったのでしょうか。

建築の美しさを決める中で最も重要と言われている要素が「比率」です。ここでいう「比率」とは、ものを形づくる上での調和、またはバランスのとれた縦・横の割合のことです。黄金比は人体や鳥、魚などの身体部分の比、また巻貝の渦の形の中にも見つけられます。黄金比は古くから最も調和のとれた比と言われ、最も美しい長方形として親しまれてきました。その使用例は古く、古代ギリシャの時代からミロのビーナス、パリの凱旋門、ギリシャの遺跡パルテノン神殿でもこの「黄金比」が利用されました。比率 1:1.618(約5:8)の黄金比は、ほんとうにいろいろなところで使われています。身近なところでは、

  • ・クレジットカードなど各種カード
  • ・A4・B5用紙などの紙の規格寸法
  • ・ハイビジョンテレビの画面
  • ・iPodやコンパクトカメラ
  • ・たばこのパッケージ
  • ・名刺 などです。

フィボナッチ数列は、「どの数字も、前の2つの数字の和になっている数列」です。1、1、2、3、5、8、13、21といった具合です。フィボナッチ数列は、古くから花びら・葉序・星雲の渦巻き形・人間の手の骨など、自然の形態のなかによく見られ、自然界のいたるところにあると言われています。そのために、フィボナッチ数列は本質的な美を内包していると言われています。

実は、フィボナッチ数と黄金比は、関連があり、フィボナッチ数の隣り合う数字の比は、黄金比に収束します。計算してみると、確かに黄金比(1.618)にどんどん近づいていきます。

1952年にコルビュジェが妻イヴォンヌの誕生日のプレゼントとして建てた休暇小屋。彼が例外的に知恵と情熱を傾けたその小屋は、人間が住むことを追求し続けた建築家が辿り着いた家の形でした。そして自然界に存在する美をこよなく愛した建築家は巻貝の渦の中に吸い込まれるかのように自然に戻っていったのではないでしょうか。

「この小屋の住み心地は最高だ。わたしは、きっとここで一生を終えることになるだろう」

1965年8月、ル・コルビュジェは休暇小屋の近くの海岸で水泳中に心臓発作で亡くなりました。77歳でした。

小杉寧子小杉寧子(コスギ ヤスコ) 一級建築士
日本大学理工学部建築学科卒
大高建築設計事務所入社、結婚を機に退職、その後育児に専念する。
現在、家づくりトータルコーディネートセンターで、住宅のあらゆる相談に応じる。