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九州新幹線全線開業に向け、急ピッチで整備が進められているJR熊本駅。関西エリアとダイレクトにつながる来春以降、この駅に降り立つ人々は、「くまもと」とどのように出合うのか。地元の人々にとって、駅はどのような存在になるのか。くまもとアートポリスコミッショナーの伊東豊雄氏、そして、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を今年受賞し、東口広場のデザインを担当した西沢立衛(りゅうえ)氏、そして、熊本県知事の蒲島郁夫氏に、変わりゆく駅に対する思いを語り合っていただいた。

(聞き手 熊本朝日放送(KAB)舩津真弓アナウンサー)

生まれ変わる熊本駅と「くまもとアートポリス」

――まず、駅周辺整備の“核”でもある「くまもとアートポリス」について、コミッショナーの伊東さんから、ご紹介いただけますか。

伊東 「くまもとアートポリス」は、熊本県内の建造物の設計者をコミッショナーが推薦するシステムです。通常、公共施設の設計者は、コンペティションやプロポーザル方式で選定するものですが、この事業では県知事からの任命を受けたコミッショナーが、設計者を推薦します。
細川護煕(もりひろ)知事の時代にスタートして、すでに22年が経過。その間に、84件のプロジェクトが選定され、うち70件が完成しました。こういった珍しいシステムの事業が20年以上も続くというのは、世界的にもまれなことです。
熊本は、風光明媚(めいび)で文化遺産も多い県です。それらを未来に向けて、どのように継承していくのか、また、地域を活性化するためには、どのような現代建築が必要なのか、そういったことを議論しながら新しい建築物をつくり出しています。最近では、隣に座っていらっしゃる西沢さんが東口広場のデザインを手掛けられたほか、西口広場や駅交番なども、アートポリス事業で取り組んでいます。
わたしも事業開始当初、八代市立博物館の設計を担当させていただきまして、それがきっかけとなり他地域でも公共施設の仕事を任せてもらえるようになりました。

――世界的に珍しい事業だけに、視察に訪れる方も多いようですね。

伊東 ええ、アジアを中心に世界中から建築関係の方々が訪れています。くまもとアートポリスの歴史を紹介する展覧会も24カ国ほどで開催されており、世界中の建築関係者の間で「くまもとアートポリス」という名称がポピュラーになりつつあります。

――東京の「TOD'S表参道ビル」をはじめ、国内・外でご活躍の伊東さんですが、これまでの作品や、現在手掛けていらっしゃるプロジェクトをご紹介ください。

伊東 国内では、劇場コンプレックスである「座・高円寺」(杉並区)が近年竣工した物件です。小さな劇場をいくつか組み合わせた形態で、非常に熱心な活動が展開されています。区民の皆さんにとっても、新しいコミュニティーの場所として機能しているようです。
海外では、バルセロナで国際見本市の複数会場をデザインしていて、その中のホテルとオフィスのツインタワーが先ごろ完成したところです。近年は、ヨーロッパよりアジアの物件が中心になっていて、現在取り組んでいるのが台湾でのオペラハウスのプロジェクト。完成はもう少し先ですが、今、最も力を入れているプロジェクトです。

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伊東 豊雄氏、西沢 立衛氏プロフィールはこちら >>

――伊東さんと西沢さんが作品のデザインにおいて、重視していらっしゃることは何でしょうか。

伊東 どこの街であれ、地元の方々と比べると、自分はその土地を熟知しているわけではありません。ですから、「コレがおれの作品だ!」と主張するものをつくるのではなく、その建物が建つことで周辺環境が浮かび上がってくるようなデザインを心掛けています。
歴史的な街並みの中に新しい建築物をつくることによって、古いものの良さが改めて見えてくることがあります。街のディテールを浮かび上がらせ、「自分たちが住んでいるのはこういう街だったのだ」と感じさせることが、新しい建築物の役割だと考えています。

西沢 建物をデザインするとき、わたしは常に「開かれた建築物をつくる」「周辺に対して提案するものをつくる」という点を心掛けています。
例えば、2003年に完成した「ディオール表参道」。ブティックですから、通常なら閉鎖された“ハコ”としてデザインすべき物件です。しかし、目の前の表参道が非常に魅力的な並木道だったので、室内でショッピングしている人も表通りの雰囲気が感じられ、通りを歩いている人にも建物から発せられる雰囲気が伝わるようなデザインに仕上げました。

――西沢さんは、このほどアメリカのプリツカー賞を受賞されたと伺いました。おめでとうございます。海外で進めていらっしゃるプロジェクトについてお聞かせください。

西沢 現在手掛けている物件で最大のものは、パリから少し離れたランスという町で進めているルーヴル美術館の別館です。昨年末に着工し、竣工は2012年。オープンは2012年末〜2013年初頭の予定です。3〜4万平方メートルの建築物であり、われわれ(※)の中では最大級の物件です。

(※建築家妹島和世氏とのユニットSANAA)

――海外でも高い評価を得ていらっしゃる建築家の方々が、熊本駅及び駅前エリアの事業に携わっていただいているというのは、大変光栄なことですよね。

蒲島 はい、大変素晴らしいことだと思います。今回、駅舎を安藤忠雄さんに、東口広場を西沢さんにと、世界的に認められている方々にデザインを手掛けていただくことで、熊本駅が世界に誇れる駅として生まれ変わるものと確信しています。
新しい駅の完成を、喜びをもって待ち望んでいます。

――知事も海外で長くご活躍だったと伺っていますが、ご活動をお聞かせください。

蒲島 わたしも知事就任前は社会科学者として英語の論文や本を多く書いていましたが、このほど、戦後の日本政治の変遷を分析した「Changing Politics in Japan」という本がコーネル大学出版会から出版されることになりました。
芸術家であるお二方も、わたしのような社会科学者も、熊本あるいは日本オリジナルの仕事が世界で受け入れられるよう、力を入れているはずです。そういった意味で、熊本オリジナルのこの本が、普遍的な政治学の書物として世界の方々に読んでいただけたら良いなと思います。
同じように熊本駅は、熊本オリジナルの建築物ではあるものの、普遍的な芸術性は世界的なフィールドで大変な評価を得るだろうし、世界中の多くの方々に訪れてもらえると期待しています。



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