三億円事件の謎に大胆な仮説を交えて迫る衝撃の問題作『ロストクライム―閃光―』の公開に合わせて、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんに、この事件について聞いた。5回集中連載の2回目は、数多くの遺留品をめぐる謎を追う。

装された白バイにまたがり、現金輸送車を停車させた偽警官。「この車にダイナマイトが仕掛けられている」と告げて車体の下に潜り込むと、あらかじめ用意していた発煙筒に点火。直後に響く「爆発するぞ、逃げろ!」という叫び声。おびえた乗務員が車を離れると、犯人はすかさず運転席に乗り込み、その場から走り去った。
 そんな手口で世間を驚かせた三億円事件だが、それは決して完璧な犯行などではなかったと鳥越さんは語る。「犯罪捜査の第一は、やっぱり遺留品なんです。この事件では白バイに仕立てたバイクから、現金を積み替えた車、ジュラルミンケースまで多くの遺留品が残されました。遺留品をたどっていけば必ず犯人に行き当たるというのは、捜査の鉄則です」

気のない府中刑務所(東京)の横で犯行に及んだことや、逃走用の車両を付近に何台も用意していたことを考えると、犯人は現場周辺に土地勘のある人間だと推察できる。さらに単独犯では難しい犯行であることから、複数の人間が絡んでいる可能性が非常に高い。当時からそういわれていた。
 「簡単な事件だというのが、僕たち記者の一致した印象でした。計画はとても巧妙に練り上げられていたけど、犯行にはけっこう粗いところがあった。しかも複数犯による犯行だとすれば、かかわる人間が多いほど情報は漏れやすくなります。これはあまり時間をかけずに解決するだろう、おそらく1カ月もしないうちに犯人は挙がると誰もが思っていました。現場で捜査にあたっていた人たちも、たぶんそう考えていたはずです」

かし歴史の事実は、結果的にその予想を大きく裏切ることになる。1975年12月10日、公訴時効が成立。三億円事件は迷宮入りとなった。7年間に投入された捜査員は、延べ17万人以上。映画『ロストクライム―閃光―』の主人公・滝口(奥田瑛二)もそんな捜査員の1人であり、犯人にあと一歩まで迫りながら取り逃した苦い後悔を今も引きずっている。映画では、目の前にいながら手が届かなかった犯人を追い続ける滝口の執念を軸に、物語が進んでいく。
 「まさかこれが迷宮入りするなんて、そして後に知られるようになる多くの謎を背景に持つ事件だなんて、当時は誰も予想しなかった。僕も予想していなかったですよ」。なかでも最大の謎といえるものが、犯行の動機だろう。三億円事件は、一体なぜ起こったのか。
 明日は、「犯行動機」について語ります。

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