三億円事件の謎に、大胆な仮説を交えて迫る衝撃の問題作『ロストクライム―閃光―』の公開に合わせて、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんに、この事件について聞いた。5回集中連載の3回目は、不可解な部分が多い犯行動機を探る。

在の貨幣価値で20億~30億円にも相当する大金を、白バイ警官に扮した犯人が鮮やかな手口で奪い去った三億円事件。その後の捜査や取材を通して劇的な犯行の経緯はかなり詳細にわかっているが、どれだけ考えても明快な答えが出せない謎がある。その点について、鳥越さんはこう語る。
 「奪われたお札は番号が控えられていましたが、事件後それが使われた形跡が、僕が知る限りありません。これは謎ですよ。単に大金でぜいたくをすることが目的なら、使わないはずがないですから。犯行の動機は何なのか。どれだけ犯人像を思い描いてみても、結局そこに戻ってくるんですね」

の謎を解く重要な鍵は、事件が起こった1968年という時代にあると鳥越さんは考える。映画『ロストクライム―閃光―』で、ベテラン刑事・滝口(奥田瑛二)が若い片桐(渡辺大)に三億円事件について語る場面、スクリーンには当時の記録映像が映し出されていく。やせた体に目だけをギラギラさせた若者たちが、機動隊と激しく衝突する。薄暗いモノクロームの画面がとらえた学生運動グループの姿は、今の若者たちとは似ても似つかない。
 「60年に池田内閣が所得倍増計画を打ち出した後、64年の東京五輪と70年の大阪万博という峠を越えて、日本は急速に変わっていきます。三億円事件はそんな時代の真ん中で起こりました。東大紛争が起こったのも同じ年です。大学の古い体質に立ち向かった当時の学生運動は、60年安保のころと比べてもさらに先鋭化し、過激になっていました」

聞記者として4年目だった鳥越さんは、当時の学生運動の空気を冷静に観察していた。「古いものを壊してやるんだという若者たちの破壊衝動が、社会全体に満ちていました。壊して新しいものを生み出そうというところまでは行き着いていない。とにかく壊せ、という感じです」
 そんな時代を背景として起こったことを考えると、三億円事件もまた別の色合いを帯びてくる。「それまで誰にも想像すらつかなかった犯罪を、見事にやってのけた犯人。もしかすると、それは社会への挑戦だったんじゃないかという気がします。若者たちが既存の体制を壊そうとしたように、犯人も世間の常識や権威を打ち壊そうとしたのかもしれない」
 そうだとすると、わき上がってくるもうひとつの疑問がある。三億円事件の犯人は、一体誰なのか。
 明日は「消えた犯人」について語ります。

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