三億円事件の謎に、大胆な仮説を交えて迫る衝撃の問題作『ロストクライム―閃光―』の公開に合わせて、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんに、この事件について聞いた。5回集中連載の4回目は、さまざまな事実から犯人像をあぶり出す。

バイ警官になりすまし、たくみな言葉で現金輸送車を奪い去ると、用意していた車を乗り継いで姿を消した三億円事件の犯人。新聞記者・ジャーナリストとして数多くの事件を取材してきた鳥越さんも、その手口の鮮やかさには舌を巻いたという。
 「人がいない場所にこっそり忍び込んで、そこにあるものをとる。考えてみれば窃盗というのはとても単純な犯罪です。僕たち記者は、窃盗というのは頭脳と度胸がある人間がやる犯罪じゃないと思っていました。しかし三億円事件は、物とりとはいえ、それまでの常識を打ち壊すほど高度で大胆な知能犯罪です。世間の人たちもあまり大きな声ではいえないものの、この犯人は誰一人けがをさせることもなく、ずいぶんうまいことをやったなと思っていたようです」

京五輪と大阪万博を機に、社会が大きく変化する時代のうねりのなかで起きた事件。鳥越さんはそれを、人々の欲望が解放されていくプロセスと重ね合わせる。
 「日本がもっと貧しかった時代には、何かがほしいと思っても手に入ることはほとんどありませんでした。何しろモノ自体がないわけですから。しかしこの事件が起こった1960年代後半ごろから日本は豊かになり、ほしいと思えば手に入るようになった。それまで抑え込んでいた欲望が一気に解放されていくような感覚を、当時を生きた僕はまざまざと思い起こすことができます。そんな時代に起きた三億円事件は、これほど莫大な金でさえも手に入るんだということを、犯罪というかたちではありますが世間に証明してみせたんです」

ちろん誰もが知るように事件は迷宮入りし、今では犯人の実像を知る由もない。これは警察の敗北なのだろうか。鳥越さんはいう。「取材を通して僕らが知り得た情報では、そうとは思えません。警察は犯人に迫っていた。しかしそのとき、ある『闇』がすべてをストップさせた。僕はそう理解しています。犯人は今もどこかで、普通の市民の顔をして暮らしているかもしれませんね」
 映画『ロストクライム―閃光―』では、あと一歩で犯人を取り逃した刑事・滝口(奥田瑛二)が、その苦い後悔を引きずりながら時効を迎えた今も事件の謎を追い続けている。しかしそんな彼の行動を苦々しく思う勢力に行く手を阻まれ、滝口と相棒の片桐(渡辺大)は窮地に陥っていく。
 真相は、なぜ封印されたのか。明日は「42年目の真相」について語ります。

バックナンバー
第一回
第二回
第三回
第五回

asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
サイトポリシー | 個人情報 | 著作権 | リンク | 広告掲載 | お問い合わせ・ヘルプ

 

 

新宿ネイキッドロフト