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コラム

染谷正弘氏による連載コラム。住まいのお役立ち情報や話題の街の文化・周辺環境などをご紹介します。

街の記憶:番外編 ルネッサンスの街、フィレンツェ

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海外をいろいろ旅してどの街が一番好き? そう問われると、僕はいつもイタリアのフィレンツェと答えている。イタリアの古都を歩いていると、海外なのにどこか心が落ち着く。フィレンツェは特にそうだ。何故だろう。

フィレンツェには、いままで2回ほど訪れている。最初は、建築家として独り立ちしようとしていた頃で、夢と時間だけはたっぷりあった二十歳代後半。もう25年も前になる。気ままにヨーロッパをひとり建築行脚していたときで、ローマからシエナを経て、鉄道でフィレンツェに入っている。そのときのフィレンツェ体験は今も脳裏に鮮烈に焼きついている。

街なかに聳える巨大なフィレンツェ大聖堂(1296〜1436年写真)、その壁面いっぱいにちりばめられた、白、緑、ピンク、色とりどりの大理石。そのドームのてっぺんに登って見下ろしたフィレンツェの街並み。ウッフィーツィ美術館ではボッティチェリの「春」(1482年頃)の華麗な色彩。実物は、それまで写真で見て知っていたものとは全く違っていた。その体験は、西欧文明からの確かなカルチャー・ショックだったように思う。

そして、二度目は昨年の夏。フィレンツェの街に、とくに変化はなかった。変わったといえば、どの教会も拝観料を取るようになり、インテリアは撮影禁止、ウッフィーツィ美術館は予約しないと入れないほどに混んでいたことだろうか。フィレンツェは、観光客でいっぱいだった。

フィレンツェは、15世紀イタリア・ルネッサンス文化が華咲いた街。街じゅうが、ルネッサンス様式の建築、彫刻、絵画であふれていて、街まるごとが美術館、そういっていい。

神様がこの世に創ったものの中で一番すばらしいのが人間だ。なぜなら、神という絶対的な真理を探求する理性を持っているから。その理性の光を放つ人間は美しい。宗教、哲学、芸術すべてを統合して人間を賛美する人間主義(ヒューマ二ズム)運動がルネッサンスだった。そのとき、その規範とし参照したのが、古代ギリシャの哲学、芸術だった。

建築はアクロポリスに聳える「パルテノン神殿」の力強い幾何学的表現、彫刻は「ミロのビーナス」のような肉感的な表現を模範に、また絵画は遠近法(パースペクティブ)の発明によって風景も人物像も奥行きや立体感のある表現へと、ルネッサンス様式は展開されていく。その拠点となったのが、フィレンツェ。その背景には、商業経済の勃興があり、「あまり神様に縛られないで、人生を謳歌したいなぁ」という、市民の思いがあったように思う。

もっと簡単に言えば、人間の理性と肉体を、知的に美しく率直に表現しようとしたのが、ルネッサンスの芸術家たちだった。そのスーパースターが、建築では、フィレンツェ大聖堂の巨大ドームを設計したブルネレスキ、彫刻ではミケランジェロ、絵画ではレオナルド・ダビンチやラファエロだった。

りんごは丸い形をしているけど、円ではない。円も正方形も三角形も、実は、人間の観念の中にしか存在しない理性の産物である。その理性の象徴である幾何学形態を建築空間化しようとした建築家が、ブルネレスキ。平面計画も外観の立面計画も、円、正方形、三角形の組み合わせだけでデザインしようとしている。円はアーチやドーム、正方形は窓の形、三角形は切妻屋根(ペディメント)といった具合だ。彼の代表作「捨て子養育院」(1445年、写真)をよく見るとわかるだろう。

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シニョリーア広場に立つ美しい青年像は、旧約聖書に登場する英雄ダビデ王(1504年、写真)。ミケランジェロの代表作のひとつで、その名を知らなくともおそらく誰もが一度は目にしているに違いない。老若男女という性別も年齢も超えて一番美しい人間の肉体を、ミケランジェロは大理石に刻み、人間の美しさを永遠のものにしようとしている。

フィレンツェは、道も建築も石でできている石の街だ。それも自動車がない頃に、人が一個一個石を積み上げて造られているから、道も建築もほどよいスケールで、人の手の痕跡、ぬくもりを素直に実感できる。まさに、人間の営みの堆積が石に刻み込まれた都市空間といえよう。でも、そこまでなら他の古都とさして変りはない。

フィレンツェは、さらに、ルネッサンスの芸術家たちが人間の尊厳、優しさ、知性、それらすべてを美に昇華させ街じゅうにちりばめた、そこに大きな魅力があるように思う。


染谷正弘染谷正弘(そめや・まさひろ)
建築家 DSA住環境研究室代表 文化女子大学講師
戸建住宅や集合住宅の設計を中心に、住まいづくり、街づくりにたずさわる。
「コミュニティーをデザインする」という発想のもと、大規模集合住宅のデザイン・プロデュースを数多く手がける。
(株)DSA住環境研究室:http://www.ds-architects.co.jp